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別界勇者  作者: 隠岐供契
それぞれの国
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第二十一話 咎人

「えっと……これはまさか」

 地面がゴゴゴと鳴り響き、ある者が出てくる。

「そう、また泥人形(ミメティスム)だ」

 二度目の地鳴りで尻もちこそつかなくなったが、ボコボコにされた嫌な思い出が蘇る。

「あれをどうしろと?」

 聞くとリョウマはニヤリと笑って見せた。

「今度は魔法も使え。というか魔法でしか倒せない個体にしてあるから、そうせざるを得ないんだがな」

「そ、そんな!ぼ、僕まだ使えないですよ!」

 すると今度は困った表情をして玲に近づき、まるで熱があるかを確かめるときのように額に手を当てる。

「…………」

「えっと、何を?」

「いけるな」

「何がですか!?」

 いきなりの行動に思わず声を上げてしまった。

 リョウマは少し申し訳なさそうに笑うと口を開く。

「まぁまぁ。お前の魔力量を見たんだ。その結果、魔法数発程度なら撃てることが判明した」

「数発……」

「まぁなんだ、三発当てれば倒せるから、安心しろよ。もし調整が難しいとか考えてるなら安心しろ」

 そういいながら空を指さす。

「我が国では、魔法の過剰使用を防ぐために国全体を覆う膜みたいなもので全国民から魔力を少量吸い上げてるんだ。これは国を守るためでもあり、民を守るためでもある」

 玲は少しスケールのでかさに呆気にとられていた。

 ポカンとした表情をしていることに気付いたリョウマはすまんと手をひらひらとさせ、話を続ける。

「まぁなんだ、とにかく魔力は強制的に調整されてるから思う存分使えってことだよ」

「わ、わかりました……」

 玲が頷くとリョウマはよしと泥人形の方を見て、指パッチンをする。

 それに呼応するかのようにその泥人形が歩き出す。おそらく玲に向ってきているのだろう。

「……よし、こい」

 玲は意を決し魔剣に手をかけ、抜刀の準備をする。

 泥人形もそれに合わせるように徐々にスピードを上げ接近してくる。

 十分な距離、刀身の約二倍の距離まで接近してきたところでようやく魔剣を抜いた。

「くっ……重い……」

 先日の泥人形とは比べ物にならないほどに、腕が重かった。

 泥人形の装備は何もない。強いて言えば拳が少し大きいこと自体が装備といえるのだろうか。

「ふんっ……ッ!」

 押し負けそうになった玲は一旦退くために胴体を蹴り、下がろうとした……はずだったが。

「うわっ!」

 その胴体も腕と同じくかなり密度があるのか硬かった、というよりも重い。

 あまりにもびくともしない体に戸惑っているのも束の間、泥人形が人形とは思えない速度でその足を掴み、投げ飛ばしてくる。

「くそ……この前のとは比べ物に……くっ」

 思いっきり投げ飛ばされ、蹲ることも許されないのか、すぐそこまで泥人形が追い打ちをかけるように接近してきた。

「なら足を……!」

 胴体は隙が無いため狙いずらい。なら、と狙いをつけたのは唯一無防備な足首であった。

 今回は魔法の実践。そのことを思い出した玲は前に魔法を出した時の感覚を呼び起こし、一瞬目を閉じる。

「きた……!」

 その瞬間腕、足に力が湧いてくるのがわかり、カッと目を開け、再度魔剣を振りかぶる。

「桜……ッあ……ッ?」

 なぜだろう、出そうとしていた魔法が、出ない。

 いやむしろさっきまで呼び起こせてた感覚がだんだんと、それもかなり早いスピードで離れていくのを感じた。

 カクンと体が落ちたその隙を泥人形が狙い、拳を下から突き上げ、玲を真上へ突き飛ばした。

「ぐッ……なんだこれ、強い……」

 地面へ受け身なしで落ちてしまい、骨が折れたと思わせるほどに体が悲鳴を上げている。

「そこまでだ!シュシュ!医療キットもってこい!」

「はい……!」

 リョウマの足音が近づいてくる。

「おい!玲!しっかりしろ!……とにかく運ぶから我慢しろよ。実践は後日だ」

 そこからの記憶はない。おそらく気絶……したのだろう。


「…………!れ…………ろ!」

 誰かの声が聞こえる。

「玲…………きろ!」

 僕を……呼んでいるのか?

「起きろ!玲!」

 あぁ、起きろか……でもなんでそんな……

「はっ……!」

 頭の中で今まで何が起きたのかを思い出し、バッと起きる。

「よかった……」

「ご無事……とは言い難いですが……よかったです」

 起きると背中にズキズキとした痛みが走ると同時に、視界には心配そうにこちらの顔を覗き込んでいるリョウマとシュシュの姿があった。

「まだ寝てろって」

「すいません……」

「何がだ?」

 玲は顔を背けながら続ける。

「……その、魔法出なくて……」

「なんだ、そんなことかよ。気にすんな。てか、泥人形にあれだけ突き上げられて生きてる方が凄いんだよ」

「そ、そうですかね……」

 リョウマは励まそうとしてくれているのか、わざとらしく笑い、肩に手を置いてくれた。

「まぁ、なんだ、実をいうと悪くはなかったんだぜ?実際残香(プリュム)だって見えてたんだからな。でも……」

「それがなくなった……」

 静かにリョウマが頷く。

「恐らく膜のせいだろう……だが、それだけお前の魔法が凄まじいってことだよ」

「そうだと……いいんですが……」

 未だ落ち込んでいる玲を見て少し考えた後、リョウマは口を開く。

「ならアドバイスだ。まず魔法を出す前に色んな感情を呼び起こすんだ。例えば怒り、悲しみ、楽しい……とかな。それを全て脳に教えることで感情が限界を迎え、魔法という感情になり、放出される」

「魔法という感情……?」

 腑に落ちてなさそうな玲のためにリョウマが補足する。

「……いっても色んな感情が練られて、また違う何かになるってことだよ。その何かが魔法という形になる。そういうことだ」

「色んな感情……ですか……」

「そうだ。ま、今日はもう休め。そして、色んな感情を思い出してみろよ。絶対役に立つからさ」

「わかりました」

 満足したようにリョウマが部屋を出て、シュシュもそれに倣いお辞儀をした後部屋を出て扉を閉める。

「……色んな感情……か……」

 玲は今まで森で起きたこと、思ったことを頭の中でリストアップしていく。

 ……もちろん師範のことも。


「うっ……」

 時には思い出すことで涙を流すこともあった。

「ふふ……」

 時には笑うこともあった。

「くそっ……」

 時には自分の不甲斐なさに悔しがることも怒りを覚えることもあった。


「…………」

 あれからどれだけの時間が経ったのだろうか。いやむしろ経っていないのかもしれない。

 思い出していくうちにだんだんと玲の中で何かが芽生えるような感覚に陥った。

 それはまるで綺麗な真珠のような、オーブともいえる、何かが、形になっていくような気がした。


 その感覚が確信に変わるのにそう時間はいらなかった。


「…………これが、魔法の……形……」


 玲は自分の両手を見て、その手をぎゅっと握った。

 何かを手に馴染ませるかのように、力強く。

 ふと前を見るとまだ空は赤いものの、暗くなっており、もうすっかり夜になっていることがわかった。


「ふぅ……」

 静かにベッドに横になり目を瞑る。

 色んな感情を思い出して疲れたのか、すぐに深い眠りについた。


「玲……お前、なんかあったか?」

 翌朝、リョウマが語りかけてくる。

「……」

 玲は静かに、自分の手のひらを見つめる。

「形が、できた……だけです」

 リョウマが目を見開く。

「お前……い、いや、何でもない、とにかく中庭に行くぞ。……何もなければいいが……」



「……あいつ、どうなんです?全く効いていないように見えますが……」

 フードを被った男が宮殿の外、それもリョウマ国から約一キロ離れた地点から玲達を()()()()少女に問う。

「ん~どうなんだろ~?んん……まぁ、いけるでしょ☆」

「またそんな楽観視する……」

 言いかけた瞬間、少女の長い爪がフードの男に襲い掛かる……が、見えない何かに阻まれ失敗に終わる。

「でぇも……変わってるでしょ?()が……」

 先ほどの行為は恒例行事なのだろうか、何事もなかったかのように爪を立てながら少女は話を続ける。

「そうですね」

 男も同様何事もなかったかのように呼応する。

 少女はようやくその爪を顎に当て、恍惚とした表情で頬を撫で始める。

「はぁ……そろそろ……食べごろ……かしらぁ?」

「…………ですね」



「じゃあ、始めるが……気をつけろよ。知ってるとは思うが魔法は出しすぎると脳をやられるからな」

 リョウマが離れながら注意する。

「はい……」

 玲が目の前の泥人形に向かって手を伸ばす。

「……?何するつもりだ……あいつ」

 半ば緊張の面持ちで見守る。

「…………」

 ゆっくりと、目を開ける。

 その目はエメラルドのような緑色に輝いていた。

「あいつ……目が……」

 目を開けると同時に魔剣が鞘からひとりでに抜かれ、伸ばしていた手に吸い付き、握る。

 玲は剣先を泥人形に向け、じっと見つめる。

 泥人形が魔剣の全長の二倍あたりのところまで来たのを確認し、魔法を最後まで唱える。

「空気が……」

 リョウマは周囲の異変に気付く。異様な雰囲気だ。すぐにおかしいと思い、玲を止めようとする。

「これは……はっ!まさか……!」

 リョウマがあることに気づき、玲を止めようと手を伸ばすが遅い。

 すでに詠唱を始めていた。

「桜魔法……桜斬……」

 魔剣を握り直し、下から上へ素早く斬る。

 すると、すさまじい爆風と共に、身を切り刻むような砂埃が舞う。

「くそっ……遅かった……!玲……っ!?」

 玲のところへ行こうと足を踏み出すが、目の前に広がる異様な光景に驚かざるを得なかった。

 一人の人間がやったとは到底想像もつかないような切られた痕跡が泥人形を始め、玲の目の前の回廊が割れ、崩壊していた。

 当の本人は、それに驚くどころか、冷静に魔剣を鞘に納めていた。

「玲……お前、なんでそんなに冷静でいられるんだよ……」

「なんでって……魔法の訓練で……魔法を出しただけですから……」

 リョウマがすかさず玲の手を握る。

「そういう問題じゃねぇ……玲、いいか、おそらくやられた。説明は後だ、お前がどうしちまったのかも後で聞かせてもらうからな!」


「あれれ?あなたたちぃ……いまぁ、逃げようとしておられますぅ?きゃはっ☆」


 リョウマが玲を連れてどこかへ行こうとした瞬間、後ろから女の子の声がした。

「なんだ……この異様な雰囲気は……まさかっ!」

 そういい思いっきり振り返るも、誰もいない。そこには割れた地面、回廊があるだけだった。

「こぉこ、ですよ?」

 リョウマの耳元で、そんな声がした。

「……!」

「おっと?そんなことしていいんですかぁ?」

 玲が魔剣を抜こうとするが、ピンと爪を立てられ、腕がびくともしなくなった。

「あぁ、私って、寛大よね~?だってぇ……」

 言いながら玲の顔から数ミリのところまで顔を近づける。

「あなたの罪の重複を……止めて差し上げたんですからぁ……」

「どういうことだ」

 リョウマが聞くと待ってましたと言わんばかりに満面の笑みで口を開く。



「魔法条文……第五条第一項、『国内での魔法の過剰使用を禁ずる』。第二項、『そのデッドラインを魔法規模数四百とする』。第三項、『これに反した者、またこれを見逃し偽った者全てを最天災魔法者とし、無力化する』……」


 少女は言い終わり、一息つくと、真っ直ぐ玲の顔を見る。


「よって……私、食の象徴(モルドゥル・シンボル)、サウヴァー国第五王女……アルム・サウヴァーが条文に従い……碓氷玲を無力化しまぁす!」

皆さんこんにちは!隠岐供契です!

今回の話も読んでくれてありがとうございます!

第〇話、いかがでしたでしょうか??

よければコメントやブクマお願いします!してくれたら作者が飛んで喜びます!

「別界勇者」は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!!

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