第二十話 極秘事項
「よし、じゃあ魔法の基礎からだな」
リョウマと玲は泥人形との訓練の後、中庭を後にし、図書室……というよりかは図書館に近い大きさの書庫に足を運んだ。
「えっと、それでしたらシャリオンさんに教えてもらって……」
「いんや、教えてもらってないはずだが?」
玲のあたまの上に疑問符が浮かぶ。
「お前が教えてもらったのはただただ体力のつけ方だけだろ」
そういわれてようやく思い出す。
そうだ、てっきり教えられたつもりでいたが、魔力が魔剣と釣り合ってなくて出せないのであった。
今までいろんなことが短期間で起こりすぎて少し記憶が混濁していた。
「え、いや、でもおかしいです」
「ん?何がだ?」
おかしい、確か、あのシャリオンとの体力作りは玲、オリヴィア、アリアドネ、そしてシャリオン、この四人しか知らないはずなのである。
なのになぜ……
「ははは!お前の顔見てわかった。あれだろ、なんでわかるのかって思ってるだろ」
「え、そんなにわかりやすかったですか……?」
「おうよ」
そういいながらケタケタと笑う。
「まぁなんだ、隠すことでもねーし、これから長い付き合いになるんだ、教えといて損はないだろ」
そう呟き、玲の目を見る。
「ちょっと複雑なんだが、魔法を教えるついでだ、教えよう」
リョウマはそのまま書庫の真ん中に鎮座された長机の端の席に着き、足を組む。
「魔法っていうのは、簡単に言えば人間の感情、血、筋肉……そして……魔法腫瘍、これら全てを駆使し……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「ん?なんだ?」
「その……ま、魔法?なんちゃらって何ですか……?」
聞いたこともない単語が出てきたので思わず玲は立ち上がり、リョウマに問う。
するとわかりやすいほどに呆れている顔を作られた。
「お、おま……え?そんなのも知らないでアリアドネから吸われてたのか……?んでもって魔法を使った……ってのか?」
「何言ってるかわかりませんが、多分……」
「アリアドネさん……どこまで抜けてるんだ……」
リョウマが愚痴をこぼす。
「くちゅん!」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでも……なぜじゃろうな……誰かに愚痴をこぼされた時の、あの背筋の冷たさを感じたんじゃが……」
アリアドネが国に帰る道中、そんなことを言う。
「風邪でも引いたのでは?」
「そんかもしれんの……うぅさぶ……」
「知らないなら仕方ないさ。魔法腫瘍、日本でいうところの癌と同じだ。つまり生まれながらにして患っている病気だと思ってくれてかまわん」
リョウマからとんでもないことを聞いた気がする。
腫瘍?病気?……聞けば聞くほど訳が分からない。
「えっと、それっていつか死……」
「死にはしない。大抵は繁殖を防ぐプロテクトと呼ばれる抗体があるからな。ただ、個人差によってはこれが上手く機能せずに障害が残るケースがある。それも生まれながらにな。お前はまだ見たことないだろうが、うちの国の民には少数だが義手や義足を付けている民がいるんだ。その人達こそ、障害が残り、生まれながらにして足、手を切断しなければならなかった、可哀そうな、いや、恵まれなかった……というべきか」
リョウマが少し顔を落として語る。
「まだ義足を付けられているだけマシさ。この国はそういう保証もあるからな。だが、貧困が続いているような村で生まれた子がもしそんな状態だったらどうなると思う」
玲は少々の吐き気は催しながら慎重に答える。
「切断出来ずに……」
リョウマが頷く。
「生まれながらに腫瘍が脳に繁殖し、死ぬ」
「そんな……ことが……」
「なんでこんな仕組みになったのかは不明だ。だが、皆は運命として受け入れている」
窓の外を見て、数秒の沈黙が流れる。
「すまんな、だが、知ってほしかったんだ」
静かに、しかし丁寧に首を横に振る。
「いえ、僕も、知れてよかったです」
そこで、一つの疑問が頭の中で浮かぶ。
「そういえば、あなたは、僕と同じ異世界転生者なんですよね?どうやって魔法を使えるようになったんですか?」
リョウマは少し考えるようにあごの下に手を当てる。
「んー少し難しいが、今は慣れと言っておこうか」
「慣れ……?」
「慣れ。俺も最初は全くでなかったからな、でも模擬戦闘を繰り返していくうちにだんだんと精度が上がっていって、ある時の検査で、俺にも魔法腫瘍が少なかったがあったんだ。今思えばあの時魔法腫瘍がなかったらどうなってたか……うぅ、想像もしたくねぇ……」
よくわからないが、魔法を使っていくうちに、その、魔法腫瘍と呼ばれるものが体の中にできる……という解釈でいいのだろうか。
「ま、とにかく魔法腫瘍のことについてはもうわかったな?」
玲が頷く。
「それじゃなんでシャリオンさんと玲が訓練……ていうか筋トレをしてたことを知っていたのかだが、あれは俺じゃなくスサノーの能力でな。魔法腫瘍を分解してそれに魔法を纏わせ、森を散策させてた時に玲の姿を見つけたんだ」
「ぶ、分解!?ってことはもう魔法腫瘍を克服してるんですか?」
リョウマが首を横に振る。
「いや、厳密に言うとそうじゃない。魔法腫瘍ってのは言った通り体の内部に散らばってるんだ。そしてそれは細胞を蝕むことで形を保ってる。んでそれがプロテクトによりうまいこと体に馴染むようになってるだけなんだ。つまり、この世界の魔法使いはみんな常に首の皮一枚つながってるって感じだな」
「えっと、すいません、何が違うんですか……?」
それを聞いて申し訳なさそうに苦笑いする。
「あはは、すまん、説明不足だったな。要するにだな、その腫瘍とプロテクトは、一対一の割合で常に体の健康を保ってるんだ。その状態で腫瘍のみを分解したら……どうなるかわかるか?」
「プロテクトの割合が多くなる……」
リョウマが頷く。
「そう、これだけ聞けば抗体が多くていいじゃんって思うかもしれないが、実は違うんだ。その抗体は腫瘍のみに対しては体に害をなす要因を抑制してくれるんだが、これは腫瘍がある前提の話。抗体のみだと、それはただの体に害のある、腫瘍になるんだよ」
一瞬体が震えた。腫瘍の話もそうだが、なぜそこまで知っててリョウマはそんな平然を装えるのだろうか。
その様子に気付いたリョウマは手をひらひらとして笑った。
「はは、そう深刻な顔するなよ。ほら、今のところ俺もスサノーもピンピンだからよ」
「そう……ですか……」
「ま、つまり難しいんだよ、だって抗体と腫瘍どっちも必ず同じ割合で共生させなきゃならんからね」
「はぁ……あ、」
玲が何かを思いついたように手を少し上げる。
「あの……でしたら……」
「両方を同時に消すとか言い出すなら、無理だ。それで何人が犠牲になったか」
言いたかったことをすべて言われ、否定された。
「ぎ、犠牲……?」
「…………」
しばらくの沈黙の後、口を開く。
「……すまない、これはに少し話過ぎたようだ」
そう言い、静かに立ち上がる。
「あの話は誰も知らない極秘事項だ、他言無用で頼む……今日はここまでだ、部屋に戻って休め。明日、中庭で待っていてくれ」
なにか様子が変だ、犠牲?極秘事項?玲は何かまずいことでも聞いてしまったのだろうかと少し冷や汗をかいた後、ゆっくりとした足取りで自室に戻る。
「レイ様、お疲れ様でした」
シュシュが玲の自室の前で待機しており、丁寧なお辞儀で迎えてくれた。
「あ、ありがとうございます……」
「?どうかされましたか」
暗い顔をしていたのか、シュシュが心配そうな顔つきで玲の顔を覗き込んでくる。
「い、いえ、少し疲れちゃって……はは……」
「そう、ですか?ゆっくりお休みくださいね」
半ば逃げるようにして自室に入っていった。
―――翌日―――
「やばっ遅れる……!」
玲が焦った足取りで急いで着替える。
厳密には遅れてはいない。だが、集合時間こそ言われてないものの、見るからに宮殿内はメイドやお偉いさん達が仕事なのだろう、忙しなく歩いている。朝ではないことは確かであった。
「よし、これで……」
玲はようやく着替え終わり、魔剣を持ち、扉を開け、中庭へ急ぐ。
「レイ様、おはようございます」
シュシュが丁寧なお辞儀で挨拶してくれるが、今は急いでいるので軽く挨拶を返し、先を急ぐ。
中庭へ続く階段を降りようと曲がり角を曲がったところに人影が一つあることを知ったのはぶつかってからのことだった。
「あいたっ、あっすいません!大丈夫ですか?」
「…………いえ、大丈夫です」
「怪我とか……」
玲が手を差し伸べるとその男性か女性かもわからないフードを被った人物はそれを拒否し、スタスタとどこかへ行ってしまった。
「……?なんだったんだあれは……」
ふと手に違和感があり、見てみると血が滲み出ていた。
「うわっ、どっかひっかけちゃったかな……いてて……」
そんなことを気にしていると、ふとあることに気付く。
中庭をちらと見ると噴水の前で腕組みをして仁王立ちをしているリョウマの姿があった。
「あ、やべ、待たせてる……急がないと……」
玲は血をズボンで拭い、階段を下りた。
「…………」
不意にフードの下の無線機が震え、通信が入る。
「どぉう……?」
「……成功だ。間違えなく、あいつは……」
フードを被った人物は、階段の方を監視しながら応答する。
通信の向こうの人物がそれに被せるようにしてケタケタと笑う。
「この王国で干される?きゃははっ」
「最後まで言わせろ。ばか」
ふと後ろを見ると、メイドがこちらに向かってきているのが見て取れた。
「存在に気付かれた。切るぞ」
相手の答えを待たずに通信機をぐしゃりと握りつぶし、早歩きでその場を去る。手に持っていた、血の付いたナイフを片手に。
「お前、やっと起きたのかよ」
リョウマが腕組みをしている手の人差し指をトントンとさせ、怒りを表している。
「すみません……」
玲は肩身がせまくか細い声で謝罪する。
「まぁいいさ、別に怒ってないし、この国に無理に入らせたのも俺だからな」
「い、いえ!そんなことありません!無理になんて……実際、魔法、使えるようになりたかったので……ちょうどよかったぐらいです」
リョウマは腕組みを解き、腰に手を当てる。
「はは、そうかい、まぁ雑談はこのぐらいにして……て、玲、お前それどうした」
玲の腕から流れている血に気付き、問う。
「あ、これですか、中庭に向かってる途中曲がり角でぶつかっちゃって……謝罪はしたんですけど、どこかへ行ってしまって……」
「そうか、一旦治療受けて来いよ……あ、そうだった、すまん玲」
「今日、連国会議だった……」
「連国……え?」
玲が明らかに分かってなさそうな雰囲気で返してくる。
「連国会議、その名の通り各国のお偉いさん達が来て年に一度それぞれの財政や秩序、その他諸々を報告し合うんだとさ」
なるほど、それで宮殿内が騒がしかったのかと頭の中で納得はしたものの、ある疑問に辿り着く。
「え、ならリョウマさんは出なくていいんですか……?」
するとリョウマは鼻で笑い、首を横に振る。
「はっ、俺は出ねーよ、なにせ会議内容わっかんねーんだもん。もちろん発表するだけならいいんだが、意見交換ともなると……もう何が何だか」
それにと人差し指を上げ、続ける。
「メンドクサイ☆」
「そんな理由で……」
玲は呆れた表情で返す。
「ま、俺以上に他の国のこと知ってる、ヴィーヴルが出てくれてる。あとで報告はしてもらうから安心だよ」
王子ともあろう方がそんなのでいいのかと思いつつもそうですかと言っておく。
「ほら、時間も遅いし魔法、今度は実践だからな」
そういわれた直後、再度ゴゴゴという地鳴りが響き、その姿が露わになる。
「え、これって……」
玲の心配そうな声を聞き、にやりと笑って見せる。
「大丈夫だよ、心配しなくとも死にはしないからよ」
全く持って安心できないのは僕だけなのだろうか……
「…………あれが?全く弱そうだけど。本当に魔力あるの?」
女性がフードを被った人物に話しかける。
「はい、あれが例の男で間違えないでしょう……というか、なぜあなたがここに……」
そういわれ、察していたのか、待ってましたと言わんばかりに手に口を当て、答える。
「きひゃひゃっ、だって通信機壊したからそっちで何が起こってるのか私、わからないじゃない……そ、れ、にぃ……」
窓の外を見て、中庭の方を見下ろし、恍惚とした表情で続ける。
「やっと、やっと……久しぶりに見つけたんだから……美味しそうな男を……」
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
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「別界勇者」は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!!




