第十九話 クラッチ
「ん……私は……」
オリヴィアが目を覚ます。
「お、起きたか!」
アリアドネがその様子を見てどこか安心した。
「やっと起きたか……まったく、あいつを困らせるんじゃねーよ……」
「えっと、何のことです……?」
アリアドネが丁寧に先ほどあったことを話す。
「とまぁ、こんなところじゃ。次からは気を付けるんじゃぞ」
オリヴィアが沈黙している。
「どうしたオリヴィア?」
「……さい……」
「?」
「私を殺してくださいいいいい!」
「落ち着け落ち着け!」
アリアドネとシャリオンが錯乱状態(?)のオリヴィアを何とか落ち着かせる。
「はぁ、恥ずかしすぎます……」
「ま、まぁ、酔った姿を見せた挙句あんなことしたんだからな……そうなるのも無理はないさ……うん」
より一層オリヴィアの周りの空気が重くなった気がする。
「なんだ、今度レイに会ったときに謝ればいいさ」
「もう私お嫁にいけません……」
「いやそんなことはないと思うが……」
そこでアリアドネが何か思いついたように立ち上がる。
「そうじゃ、忘れかけておったが……」
よっと大きな荷物を背負う。
「そういう話は帰路で話すのじゃ」
「あぁ、そうでしたね」
シャリオンも立ち上がり、荷物を肩にかける。
「ほら、オリヴィアも」
そういい、落ち込んでいるオリヴィアに向けて一回り小さい荷物を持たせる。
「帰るぞ、アリアドネ国に」
ゴゴゴと地面が揺れ、思わず尻もちをつき、リョウマを見上げる形になった。
「どうした?そんな驚いたか?」
リョウマは慣れているからかその地鳴りにピクリとも動じずにこちらを見下ろしている。
「い、いえ……ただこの地鳴りに少し動揺したというか、立てれなかったといいますか……」
「ははは。そんなので大丈夫か?」
「そんなの……?」
リョウマが遠くの方を見やりながら頷く。
「あぁ、これから始まるのは、今みたいな地鳴り如きで尻もちついているようじゃ、体もたねーからな」
リョウマの目線を目でなぞり、あるものが視界に入った。
「……人……形……?」
見た目は人型で、一見すると人間と思ってしまうが、全身の色が灰色のまるで粘土で固めたような質感を見れば一瞬でそれが人間でないことはわかる。
……が、それを否定したくなるような挙動をした。
「な、なんか走ってきてません……?」
「そうだ」
「そうだって……えっと、どこまで……」
「お前、玲を倒すまで」
「…………?」
思考が一時停止した。それもそのはず、いきなり地面から粘土で固めた人間のような何かが出てきた。
と思ったら、今度は粘土とは思えないスピードでこちらに、しかも一直線に走ってきているのだから。
「えっと、つまり……?」
何かを察したリョウマはニヤリと笑って見せた。
それと同時に玲もまた、何かを察し、恐怖の顔に染めていく。
「倒せ☆」
気づけば人形はもう玲のすぐ目の前にまで迫ってきており、攻撃態勢に入り、拳を握りしめていた。
急いで体を横に捻り躱そうとするが、それを読んでいたのか、人形は拳を振り上げるのではなく、足を大きく振りかぶり、思いっきり玲の脇腹に蹴りを入れる。
「カハッ……!」
もはや勝ち目などなかった。
それからというもの避けては殴られ立っては蹴られを繰り返し、ついに膝をついてしまった。
「大丈夫かー?」
そう呑気に語りかけて歩いてくるのはリョウマだった。それに続きシュシュも付いてくる。
心配してくれているのだろうがなんだろう、この心の内側から煮えたぎるような怒りは。
「な、なんですか……ってうわ!」
リョウマの呼びかけに一瞬気を取られたが、まだ攻撃は止んでいないのだ、目の前まで人形の拳が迫ってきていた。
「あぁ、そうだった」
そういい、リョウマは指をパチンと鳴らす。
それを合図に人形の手は止まり、完全に停止した。そしてシュシュが歩み寄ってきて膝を折り、玲の腕に手を当てる。
おそらく治療を施してくれているのだろう。
「んーこりゃ、まずはこいつらの特徴を教えないとまずかったか?」
「そりゃ……そうでしょう……」
シュシュの手当てを受けながら息を整える。
「じゃあ、そのままでいい、説明しよう」
リョウマは玲と目線を合わせるため座り、一息ついてから口を開く。
「まず、あいつらは泥人形。お前も見たように指示を出した対象に向けてあらゆる攻撃手段でそれを叩く」
「あらゆるって……?」
「剣や拳、あるいは銃……それらを駆使して、攻撃する。まぁこれが厄介なんだ」
人差し指をピンと立て、それにと続ける。
「お前、避けても攻撃を受けたりしなかったか?」
玲はなぜわかるんだと言わんばかりにビクッと体を震わせ、頷く。
「あいつらはな、相手の魔力が高いほど攻撃手段も多くなるし、連携もとるようになる。そして、相手の行動を記憶する。どこに避けて、どこに逃げるのか、そのパターンを記憶し、攻撃にあてるんだ」
「そ、そんなの無理じゃないですか……」
「いや、一つだけ方法がある。まぁこれがこの訓練の一つなんだがな」
「……といいますと?」
まだ困惑している玲を見て、少し考える仕草をした後、再度説明する。
「ズバリ、相手の行動を読む、それがこの訓練の醍醐味なんだ。とにかく自分の動きを自分で確認しながら避けろ。そうすればいずれ攻撃も当たる。そしてそれを記憶されたなと感じたらまた別の方法を試すんだ。わかったか?」
「は、はい」
その反応をみて少し不安は残るものの、両手をパンと合わせ、よしと意気込む。
「じゃあそうと決まれば……」
リョウマは大げさに右手を振りかぶり、振り下ろすと同時に指をパチンと鳴らす。
「では私はこれで……」
シュシュも治療が終わったのか立ち上がり後ろに下がる。
「あ、はい……ありがとうございます……」
それを確認したと同時に再度地面がゴゴゴと地鳴りを始めた。
今度は地鳴りには動じず、立ち上がり辺りを警戒する。
「……?」
確かに地鳴りはした。しかし何も起こらない。先ほどリョウマが動きを止めた泥人形達がそこに鎮座しているだけで他には何も異変がなかった。
すると、後ろから風切り音が聞こえ、即座に後ろを振り返ると、大きな太刀を玲の体をギリギリ避けて振り下ろしている泥人形がいた。
「いつから……!?」
「あぁそうそう、言い忘れてたが、泥人形の数増やしたからー!」
そういうことは先に言ってくれと言いたかったが、今はそんなこと考えている暇はない。とにかく避けなければ。
そう思い今度は後ろに下がろうとする……が。
「カハッ……!?」
何かに殴られた。
それを確認するために後ろを振り返ると、玲を殴ったのは何物でもない、今までそこに鎮座していた泥人形だった。
「くそ、とにかく逃げないと……」
もちろん逃がすまいとその泥人形達は玲を追ってくる。
ふらつく足取りで何とか躱しながら二体のいない逆方向に逃げる……つもりだった。
「なに……!」
視界が落ちた。
否、落ちたのは視界じゃなく、自分の体だ。
ではなぜ落ちた……?
ふと足元を見ると、手が、がっしりと玲の両足を掴んでいた。
「三体目!?」
そうだ、リョウマは増やしたとは言ったが、なにも一体だけとは言っていない。
「くそ……!」
両足を掴んでいる手をなんとか剥がし、一旦思い切り走り、敵の数を数える。
「今のところは三体か……よし」
敵の顔を見ながら魔剣を抜く。
そして両手でしっかりと柄を持ち、構える。
「レイ様、魔力値はゼロに近しいですが……」
シュシュが玲の魔剣を抜いた姿を見ながら呟く。
「あぁ、もし魔法を使うってんなら、止めるが……」
「止めなくてよろしいんですか?」
「あぁ、だって、あいつ……魔法を使わずに、ただの剣として戦うようだからな」
驚いた様子で目を見開き、再度玲の方向を見やる。
「騎士でもないのにそんなことが……」
「あいつにはできるんだよ」
泥人形がこちらに向かってくる。
「まだこの戦い方は記憶してないよ……な!」
そういいながら魔剣を縦に振る。
すると、真っ二つに胴体が割れ、倒れた。
「やっぱりこれは予想できなかったようだな」
その後間髪入れずに倒れた味方の敵討ちをするかのように二体同時に攻撃を仕掛けてくる。
玲は上体を倒し、間一髪で太刀を避けるが、片方の拳が腹に直撃してしまう。
「あとは二体……でも……!」
こちらに向かってくる太刀を持った泥人形を見据え、大きく振りかぶってきた太刀を自分の魔剣で受け止める。
一瞬の鍔迫り合いが、玲には数十分に感じられた。
「力つよ……」
横から何かが走ってくる音が聞こえる。
おそらくあの拳の泥人形だろう。
「なら……」
玲は何を思いついたのか、残り少ない力を振り絞り、泥人形の太刀をはじき返す。
弾かれた泥人形はすぐに太刀を持ち直し、玲に切りかかろうとした。
「そう、それでいい……」
玲はすぐに拳の泥人形に向き直り、わざと一歩前に出た。
それに応じて泥人形はすかさず拳を前に突き出す。
……が、それこそ玲の目的だった。
「さぁこい……!」
殴られそうになった玲は間一髪で姿勢を低くし、避ける。
避けられ少し体が不安定になったところへ、先ほど玲を切らんとしていた太刀が襲い、一方の泥人形を切り捨てる形になった。
「そこ……だ!」
その隙を見逃さず、玲はすかさず太刀の泥人形の図体目掛けて魔剣を振るい、見事三体を撃破した。
「まさか魔法を使わずに倒すなんて……もとは相手の行動を読んで避ける訓練でしたよね?」
リョウマの隣に優雅に立ちながら聞く。
「ま、まぁ、でも、拳もよけれてたし……結果オーライ……てことで」
ベンチに座り、汗を垂らしながら居心地悪そうに言う。
「ま、そういうことにしておきましょう。実際勝てたんですからね」
シュシュが呆れたように溜息をつく。
「しかし一対一ならまだしも、三対一でしかも劣勢なのにも関わらず勝つなんて……」
傷ついた玲の元へ向かいながらシュシュが話す。
「あぁ、クラッチ……だな」
「おーい、お疲れ様」
リョウマがこちらに歩み寄りながら話しかけてくる。
「はぁ、はぁ、ど、どうも」
「水です。治癒効果もありますので是非」
シュシュが差し出してきた水を丁寧に受け取り、即座に飲み切る。
少し落ち着いたタイミングでリョウマが口を開く。
「というわけで玲、次だ」
「次……?」
リョウマがコクリと頷く。
「次は、魔法を取得してもらう」
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
今回の話も読んでくれてありがとうございます!
第十九話、いかがでしたでしょうか??
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「別界勇者」は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!!




