第十八話 訓練開始
「よし、そろそろ行くぞ」
リョウマが玲を見据えて告げる。
「はい……」
「なんだー?仲間との一時的な別れが悲しいのかー?」
リョウマがからかおうと玲達の部屋に入る。
そこでリョウマは言葉を失った。
「オリヴィア!いい加減にするんじゃ!」
アリアドネの怒鳴り声が聞こえる。
「いやです!レイ様と一緒じゃないなんてぜっっっったいに嫌ですわ!」
オリヴィアが王女候補とは思えないぐらいの形相で地団駄を踏んでいる。
先ほどまで正常だったのだが、いざ玲が出ていくとなった瞬間このようになってしまったのだ。
「おい!いい加減にしろって!こいつも成長しなきゃこの星では生きていけないんだよい!だから仕方ないだろ!?」
シャリオンがオリヴィアを羽交い絞めにし、暴れている彼女をなんとか抑えようと奮闘していた。
そこでアリアドネが玲の姿を見るなり、不敵な笑みを浮かべ、オリヴィアに歩み寄る。
「のう、オリヴィア……いいのか?そんなはたしない姿を……レイに見られても……」
そう言われたオリヴィアはハッとし、即座に直立した。
「だ、大丈夫……ですか?オリヴィアさん」
「レイ様……」
オリヴィアが玲に接近し、両肩をつかんできた。
「レイ様……魔法なら私でも教えることはできます……ダメですか……」
オリヴィアが上目遣いで問うてくる。
「えぇ……と、オリヴィアさんはほら、国の均衡を保つためにも……」
「それはアリアドネ様が……」
「いや、わしは均衡を保つよりも溜まっている書類を終わらせなければならんからお主らに任せるぞ」
「…………」
すっと肩から手を放し、重力に従ってぶらんと手が落ちる。
「えっと……オリヴィアさん?僕はいなくなるわけじゃないですから……」
「…………ですか」
「え?」
オリヴィアはキッと睨むようにリョウマのことを見る。
「ひっ……」
リョウマは思わず肩を震わせた。
「私より魔法、上手なんれすか!」
「……はい?」
「あ~……なるほど」
「なにがなるほどなんですか?」
玲のその問に答えるようにして、だんだんとオリヴィアの様子がおかしくなってくる。
「ヒック……らいらいあにゃたはいつもそうやってレイしゃまとくっちゅいてましゅよれ?なんらんれすか!あにゃたはレイさみゃのらんらんれすか!(だいたいあなたはいつもそうやってレイ様とくっついていますよね?なんなんですか!あなたはレイ様のなんなんですか!)」
なるほど、今まで異常なことが起きすぎて忘れていたが、オリヴィアも人だ。
これはつまり……
「うむ、酔ってるな」
「やっぱりですか!」
「弱いのになんで飲むかな~」
アリアドネとシャリオンがおでこに手をあて、ふらふらになっているオリヴィアを呆れた表情で見ている。
おそらく一度や二度ではないのだろう。
「はぁ、そろそろ寝かせるかの……」
アリアドネがオリヴィアの真後ろに行き、首をストンと軽い手刀で眠らせる。
「ふにゃん!……スー……スー……ヒック……」
オリヴィアは膝から崩れ落ち、地面に倒れそうになったところをシャリオンが受け止め、アリアドネとシャリオンは慣れた手付きでオリヴィアをベッドに寝かせる。
「やっと寝たか……?」
リョウマは半ば息を切らしながら確認する。
傍から見ればただの犯罪現場でしかない。
「あぁ、こうなったオリヴィアは面倒じゃからな、レイ、リョウマ、気を付けるんじゃぞ」
「はぁ……」
戸惑いを隠せず思わず二人は覇気のない返事をしてしまった。
「でもまぁ、昨日の酒、あれは美味かったからな……しかたねーか」
シャリオンがオリヴィアの目にかかっていた髪の毛を払いのけながら言う。
「昨日の晩ご飯の時、酒なんて出てましたっけ?」
「ん?おぬしも飲んどったではないか。ほら、昨日透明な飲み物がおかれておったじゃろ」
「まさか……」
「うむ、あれがこの国自慢の酒じゃ」
「ぶほっ!?」
「どうしたんじゃレイ!?」
アリアドネが驚きながらもこちらに歩いてくる。
「い、いや、だって僕まだ未成年だし……」
その答えを聞いて、アリアドネが頭の上に疑問符を浮かべる。
「ミセイネン?なんじゃそれ」
「え?まぁ、まだお酒を飲める歳ではないというか……」
「お主今いくつじゃ?」
「え、十五……ですけど」
少し緊張気味に答えるとアリアドネはすぐに表情がパァッと明るくなりケタケタと笑い出す。
「なーんじゃ、よかった、安心せい、お主が住んでおったニホンがどうだったかはわからんが、この国では十歳から酒は認められておる!」
一瞬驚愕した。まさか十歳から酒が飲めるとは……でも確かに酔った感覚はない。
ということは本当に飲んでも大丈夫なのだろうか?
「実際酔っとらんということは多分大丈夫じゃろ!」
多分なのか……
コンコン……
後ろから開いた状態の戸を叩く音が聞こえる。
「コホン……そろそろいいか?」
咳払いをしたのはリョウマだった。
そうだ、少し忘れかけていたが玲は魔法の訓練のために一旦宿屋を出て、リョウマと共に魔法の訓練をするんだった。
「えぇ、すいません、行きましょうか」
リョウマは頷き、部屋を出る。
「では、アリアドネさん、シャリオンさん、また会えたら会いましょう。オリヴィアさんにもそう伝えといてください」
「うむ、わかった」
「元気でな。ま、つーてもオリヴィアのことだ、またすぐ会えるさ」
軽くお辞儀をした後、リョウマの後を追い駆け足でその場を後にした。
「……行ってしもうたの」
「ですね」
誰もいない、開かれた扉を見つめながらアリアドネは言う。
「ふぅ、でも、やはり悲しくなるの……仲間が一人一時的にでもいなくなるというのは」
アリアドネはベッドに仰向けで寝転がり呟く。
「あいつは……レイは、強くなりますよ。絶対に」
「ん?めずらしいの、シャリオンがそんなこと言うなんて」
「だって、強いですから」
それを聞いてアリアドネは微笑む。
「うむ、そうじゃな……」
気合を入れるようにしてバッと起き上がり、やや大きめな声で言う。
「よし!オリヴィアが起きたらすぐに出発できるよう準備するとしようかの!」
「ですね」
そこでふとシャリオンが窓の外を見る。
「……アリアドネ様」
「なんじゃ?……あぁ……」
答えを聞くより先に、空、それも未だ絶えることを知らない、その赤く染まった空を見て答えがわかった。
「……嫌な予感がするの……」
「はい……今回の死の夢は、長すぎます」
「じゃが、わしらにできることもないのもまた事実じゃ」
「…………」
心配そうな表情をしているシャリオンを見て、機嫌を取り戻そうとしたのか背中をバンと叩いた。
「イダッ!?」
「そんな落ち込むでない!仮にも王子なら、民のことは信じるべきじゃ」
「……っ!……ですね」
二人は宿屋を出る準備を始めた。
「よ、待たせたな」
リョウマが宿屋を出てすぐの大通りで待っていたヴィーヴルを見つけ手を振る。
それに気づいたヴィーヴルは髪の毛を弄っていた手をしまい、姿勢を正す。
「はは、いいよいいよ、待たせたのは俺なんだから」
「仮にもリョウマ様は王子ですので」
「お堅いね~、まぁいいや、行くぞ」
ヴィーヴルが頷き、リョウマと玲の前を歩く。
「不躾ながらお聞きしますが……数分と言っていた割にはかなりの時間のようでした……何かあったんですか?」
ヴィーヴルが歩きながら問いただす。
「え、えーと……んーなんて言ったらいいんだろうな……」
ちらと玲の方を見やる。
「え!えーと、そうですね、別れを惜しんでいた……?ですかね」
「?そ、そうですか、確かにずっと一緒におられていましたからね、そう思うのも無理はないですね。すいません無用な質問をお許しください」
「いえいえ!全然大丈夫ですよ!」
そんな会話をしているとリョウマがあることに気づく。
「お、玲、あれが俺の家、宮殿だ」
今まで大きな住宅街だったためかその姿が埋もれていて存在すら気づいてなかったが、それがようやく見えた。
これぞ城というにふさわしい見た目で、塔が何個も連なっており、まさに要塞そのものを連想させるものであった。
「すごい……」
「だろ!俺の父ちゃんやっぱすげーよな!」
「え?このお城ってリョウマさんの父が作ったんですか?」
それを聞いて疑問の表情を浮かべる。
「あれ、聞いてなかったっけ。俺の父ちゃん、この国の大半の建造物の設計者なんだよ」
なんだかすごいことを聞いてしまった気がする。
普通国のお城等は全て他人の業者などが設計するのもではないだろうか、よほどこの国のことが好きなんだな……そう思っていると、ヴィーヴルが立ち止まる。
その理由は一目瞭然だった。
「お、着いた着いた」
目の前には、どんな攻撃をも通さなさそうな門がそびえたっていた。
ヴィーヴルがまたもやスマホのような端末を片手に操作すると、ゴゴゴと地面を鳴らしながら門が徐々に開いていく。
『リョウマ様、お帰りなさいませ』
門が開くなりお城の入口の扉に続く道を形成するかの如くメイドが両脇に列を作り、一斉に息の合ったお辞儀をする。
少し圧巻され、玲は緊張して足取りが悪くなっていた。
「緊張しなくていい、お前は俺が招いた客だ。堂々としていればいい」
そう小声でリョウマが呟いてくる。
おかげで少しだが落ち着きを取り戻せた気がする。
「では、私はここで。後はレイ様担当のメイドが部屋へ案内いたしますので、後程リョウマ様と合流なさってください」
長いメイドの列を抜け、ようやく内部に入るなり、リョウマは準備があるといいどこかへ行ってしまった。
ヴィーヴルの丁寧な説明の後、音もなく近づいてきたメイドが話しかけてくる。
「レイ様でいらっしゃいますか?」
「うわ!い、いつからそこに……」
急に話しかけられ、びっくりしてそのメイドを見ると、相手も驚いたのか目を見開いている。
「す、すみません、驚かせてしまって……」
メイドが丁寧にお辞儀をし、謝罪をする。
「あ、いえいえ、気づかなかった僕が悪いので……」
「そ、そう、ですか?」
気を取り直すようにメイドは両手でスカートをつまみ、可憐なお辞儀をして見せ、挨拶をする。
「改めましてレイ様、お初にお目にかかります、あなた専属メイドのシュシュ・クレルと申します。以後、お見知りおきを」
「お、お願いします」
あまりにも綺麗なお辞儀に見とれ言葉を失ったが、なんとか返事をした。
深紅の髪の毛を揺らし、姿勢を元通りに戻しながらこちらを見る。
「では、部屋へ案内いたしますね。荷物、預かります」
「は、はい、ありがとうございます」
案内をしながら、各部屋の紹介もしてくれた。
「こちらが書庫で、目の前の角を曲がった先にございますのが食堂ですので、朝食等はそちらでお召し上がりください。そしてその隣にあります部屋が……」
不意にメイドが立ち止まる。
「レイ様のお部屋でございます」
丁寧に扉、しかも大きな二枚扉を開け、どうぞと中へ導いてくれた。
中はまるでホテルのようで、照明はシャンデリアで、窓枠は全て金属、床の絨毯も高級感漂わせる質感だ。正直さっきまで泊まっていた宿屋の何倍もでかい。
「荷物はこちらに置いておきますね」
そういいながらこれまた大きなクローゼットを開け、玲の小さな荷物がポツンと置かれる。
「ではリョウマ様がお待ちですので中庭へ案内します」
一息ついた後、内装を眺める暇もなくそう言われ中庭へ案内される。
「お、きたか!」
シュシュと共に迷路のような城を歩き、やっとの思いで一つの豪邸が建ってもお釣りが来そうなぐらい大きな中庭に着く。
それに気づいたリョウマが中央の噴水の前でこちらに手を振っている。
「では私はここでお待ちしております。何かありましたらお呼びくださいませ」
「はい、ありがとうございます」
軽くお辞儀をした後、リョウマの元に駆けつける。
「すいません、お待たせして」
「いや、俺もさっき準備が終わったとこだ」
そういわれ玲は周りを見渡す。が、どこにも準備をした痕跡が見当たらない。一体何を準備したというのだろう。
「えっと、それはどこに……」
「まぁ焦んなって……」
リョウマはゆっくりと自分の手を上にあげ、指をパチンと鳴らす。
ゴゴゴと地面が揺れ、足元が不安定になり、尻餅をついてしまう。
「こ、これは一体……」
困惑している玲を見て、ニヤリと笑みを浮かべながら口を開く。
「さぁ、訓練開始だ」
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
今回の話も読んでくれてありがとうございます!
第十八話、いかがでしたでしょうか??
よければコメントやブクマお願いします!してくれたら作者が飛んで喜びます!
「別界勇者」は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!!




