第十七話 トワールランク
「では、こちらで皆様お休みください。小さいとは思いますが、現状即座にご用意できる宿屋がこちらしかございませんでした」
少し申し訳なさそうにヴィーヴルは頭を下げ、ごゆっくりと一言残して玲、アリアドネ、オリヴィア、シャリオンを部屋に案内した後、リョウマ、スサノーを連れて宿屋を後にした。
ここはカーロス国の中央都市にある古くから伝わる歴史ある宿屋である。
木造ではあるもののしっかりとした作りで内装もおしゃれに着飾っており、とても小さいとは言い難いものであった。
「綺麗な内装ですね……」
玲がそう呟くと、オリヴィアが横から話しかけてくる。
「レイ様もこの内装が綺麗と思われますか?」
「えぇ、とても」
「異世界転生者だというのにすごいです!この伝統の作りの良さに気づくなんて!」
すると後ろからアリアドネがそれに付け加えるように話す。
「まぁ、この作りはチキュウのしかもニホンの伝統を真似たものじゃからの、綺麗と思うのも当然じゃろ」
はっとしたオリヴィアが申し訳なさそうにこちらに目配せをしてくる。
「あ、そ、そうだったんですね、すいません……」
「はは、いえいえ、もう慣れました」
いや、正確にはまだ慣れていない、だってそうだろう、こちらの世界に来てまだ一週間もたってないのだから、未練というものもあるというものだ。
しかし、慣れなければならない、そのことだけはわかる。慣れなければ、生きていけない。
「そ、そうですか……」
そんな会話をしているとこの宿の使用人がドアをノックする。
「アリアドネ御一行様、お食事のご用意ができましたので食堂までいらしてください」
「お、そういや食事まだだったな、行くか」
シャリオンがまだ完治していないその腰を壁を頼りに上げ、扉に手をかけ食堂へ向かう。
それに倣うようにしてアリアドネ、オリヴィア、玲の順で食堂に向かった。
「おぉ……これは、すごい……」
玲が目の前の食事に目をキラキラさせていると、オリヴィアがそれに気づき、反対の席に座っていたのだが、即座に隣に座ってくる。
「ここの宿、食事がおいしいと有名なんです」
「へー、そうなんですね」
そう言っていると、食堂の大扉が開き、数名のメイドがカートを押してやってきた。
「今回はアリアドネ様がいらっしゃるということですので、ルミナをご用意させていただきました」
「ル、ルミナ!?」
シャリオンが驚いて立ち上がる。
「ど、どうしたんですか?」
「あ、そ、そうか、レイはまだ知らなかったな、まぁ簡単に言うとこの世界の食事は全部人工なんだよ、それの再現度の高さのランクって思えばいい」
「えっと、ということはそんなに驚いてるってことはそれが高いと……」
興奮するようにしてシャリオンは玲に再度説明する。
「そうだ!ルミナは一番ランクの高いものから数えて二番目に高いんだぞ!俺ですらたまにしか食べたことないんだからな」
「シャリオン、もういいじゃろ、せっかくのルミナじゃ、冷めては困るというものじゃろ」
見かねたアリアドネがシャリオンの袖を引っ張り座るように促す。
「は、はい、すいません」
頃合いと見たメイドが口を開く。
「では、まず初めにルミナミートを使ったハンバーグでございます」
説明してる間に他の数名のメイドが我々の目の前に皿を置き始める。
見るからに美味しそうなお肉と、その周りに彩られたポテト、人参……これが人工なのかと疑いたくなるぐらい再現されていた。
机にはナイフとフォークがそれぞれ並べられ、オリヴィアらが手を組み、祈りを捧げる。
「この地で生まれた食よ、今この場で食せることに感謝します」
玲はもちろんそんな祈りなど知らなかったので手を組むことぐらいしかできなかったが、オリヴィアが後から教えてくれた。
フォークとナイフを持ち、ハンバーグを一口サイズに切り分け、口に運ぶ。
こんな豪華な場所で料理をたしなむなんてこと今までになかったので少し緊張気味になってしまった、が、
「お、おいしい!です……」
人工という言葉に気を取られていたが、聞くとかなり希少価値のある材料でできているのだ。おいしくないわけがない。
なんなら師範が作ってくれたハンバーグよりおいしいまである。
ハンバーグから出る肉汁と風味が絶妙にマッチし、ソースもいわばデミグラスであろうか、かなりおいしい。ポテトもホカホカで、人参も人工とは思えないほどにみずみずしいものであった。
が、ここで玲があることに疑問を抱く。
「あれ、そういや、ほうれん草は……」
そう、別に大好物というわけではないのだが、ハンバーグといえば普通ほうれん草がつきものだ。それなのにこのお皿にはそれがなかったのだ。
そうつぶやくと隣に座っているオリヴィアがこそっと囁く。
「それなんですが、ここを予約する前にアリアドネ様がほうれん草は嫌いじゃと喚いたそうで、リョウマ様が渋々そうメイドにお伝えしたそうです……」
なんだか、いい意味で子供らしくて、親近感がわいたのかどこか安心した。
ちなみに嫌いになった理由としては昔初めて食べたほうれん草のグレードがレアランクのものとスマルランクのものをシェフが間違えてスマルランクのほうれん草を提供してしまい、それはもう食べられたものではなく、トラウマになったからだそう。
やっぱり同じ人間なんだなと、そう感じた玲であった。
「いや~おいしかったな!まさかルミナが食える日がくるなんてな~」
「全くじゃ!人生で三度目のルミナじゃからな~」
「あ、そういえばなんですけど……」
「なんじゃ?」
食事が終わり、皆が宿に戻る途中の廊下にて、ずっと気になっていたことをアリアドネに伝える。
「あの、失礼かもしれないんですけど、アリアドネさん達って、その、王女とか、王子とかですよね?なんでトワールが食べられないんですか?」
すると、少し真剣な表情になる。
なにかまずいことでも聞いてしまったのだろうか。
「あ、す、すいません……」
「いや、そうじゃなくてな、これには少し国がらみの理由があるんじゃよ、ここじゃあれじゃからの、一旦部屋に戻ってからにしようぞ」
皆が部屋に戻り、各々自由に座ったことを確認したアリアドネはうむと一瞬頷いた後、ベッドに腰掛ける。
「では、例のことじゃが、あれは先も言った通り国が絡んでおってな、少々厄介でな、ここが平和の象徴であることはもう知っとるであろう?」
「はい」
ヴィーヴルが以前門を開けるときにちらとそんなことを言っていた気がする。
「その二つ名は、どの国にも必ずついておるんじゃ、その中でも特に食を重んじている国があってな、食の象徴、サウヴァー国というんじゃが、そこはわしが知る限り五百年前から存在しており、ずっと食の研究に力を入れておった。そのためならどんな犠牲もいとわないというかなりネジの吹っ飛んだ連中なんじゃよ」
「食を研究するだけでなんで犠牲が……」
「そこなんじゃが、どれだけおいしいものを作れるかで最初は温かい目で皆から見守られておったのじゃが、ある時な、事件が起きたんじゃよ」
「じ、事件……?」
「人肉トワール事件じゃよ」
その言葉を聞いただけで吐き気を催すほどにありありと想像できた。
「これで、少しはわかったかもしれんが、つまり、トワールランクの食材に人間の肉が混入してたんじゃよ。技術の発展によりその身元がサウヴァー国の研究員であることがわかったんじゃ。そしてよく調べてみると他の食材にも人の臓物や耳、眼球なんてものも混入していたことが判明、その全て身元がサウヴァー国の研究員だったんじゃ」
「それで……出回らなくなった……ということですか?」
アリアドネはその回答に対し、深く頷いた。
「レイも人肉が高確率で入っている食材なんぞ食べたくはないじゃろ?ま、サウヴァー国の研究員は全員否定はしてるが、まぁ、関わっていることに違いはないじゃろ」
玲は頷きながら聞いていて疑問に思ったことを問う。
「え、でもそれだとトワールの存在がなくなって、ルミナが最高ランクになるとかっていうことにはならないんですか?」
「それなんじゃが……それはありえないんじゃよ」
「どうしてですか?」
「連中、恐らくじゃが一番高いランクの食材を狙っての、この事件だと結論付けられたからなんじゃ。だっておかしいとは思わんか?なんでルミナやレアはそんな事例はないのに、一番高いランクのトワールだけそんなものが混入するようになったのかと」
確かにそうだ。他のランクの食材は百パーセントそんな事例はないのだとすると、狙って一番高いランクに混入させているとしか考えられない。
「トワールを無くしてルミナを最高ランクにしたら、今度はルミナがその標的になり兼ねんじゃろ?だからわざとトワールランクを残してるんじゃよ。ま、そんなネジのぶっ飛んだ奴らじゃ、サウヴァー国に行くときは気を付けるんじゃぞ~」
手をひらひらさせながら冗談を言っているかのようにその話を終わらせる。
いや、本当は冗談と思いたいのだが、どこかその話にはリアリティがあったのだ。とても冗談だとは思えなかった。
「まぁ、はい、肝に銘じておきます……」
そんな話を聞いて行こうとはまず思わないと思うが……
「大丈夫です!もしレイ様がその国に行くことになっても私が護衛します!」
オリヴィアが横から高らかに宣言してきた。
まぁ、来ないことを祈るが、もしそんな時が来たらありがたく護衛を頼もう……
「おーい!玲!いるかー?」
突然部屋の戸をドンドンと叩き、玲の名を呼ぶものが現れた。
そんな人は一人しかいない、リョウマだ。
「入ってよいぞ」
「では遠慮なく……」
そういいながら扉を開け、ある者とともに部屋に入ってきた。
というか恐らく許可が無くても入ってきていただろうと思わせるほどにほとんど被せ気味に入ってきた。
「えっと、どうして外に出ていたんですか?」
「それはな……」
リョウマが少し貯め気味に言う。何かすごいことでも言おうというのだろうか。
「お前にはこれから我が宮殿に来てもらう……俺はそのために準備しに行ってたんだ」
一瞬何を言っているのかわからなかった。
「え?お、おいリョウマ……それはどんな冗談じゃ……?」
アリアドネもありえないと思っているのか、少し緊張した面持ちで問う。
「ん~、まぁそんな深い理由ないんだが、そこの方が人も少ないし、何より……」
リョウマが玲の腰かけている魔剣に目配せをしてくる。
その意味が僕にはなんとなくわかった。恐らく異世界転生者ということを周りにバレない様にかくまうという意味でも玲を宮殿に招待したのだろう。
「……わかりました」
その意図を察するや否や、即座にその提案を呑んだ。
「大丈夫ですか?解剖されたりしません?」
オリヴィアが後ろからとんでもないことを言ってくる。
確かにオリヴィアからしたら異世界転生者が宮殿を訪れるということはほぼ自殺行為なのだろう。
が、今回は大丈夫だ。なんだってリョウマも異世界転生者、仲間なんだから。
「大丈夫ですか……?」
半ば悲し気にオリヴィアが疑惑の目をリョウマに向ける。
「大丈夫ですよ!うちら友達だし、な?」
「は、はぁ」
友達という言葉を聞いたのはいつぶりだろうか。
僕には、友達なんてできたこともなかったし、言ってくれた人もいなかった。
だから……
「あ、ありがとうございます、はは……」
今は少しぎこちないかもしれない笑みかもしれないが、玲は、心の底からうれしかった。
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
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「別界勇者」は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!!




