第十四話 確定の勝利(後編)
その光景は玲からすると異様な光景であった。
隣を見ると、目を見開き少し微笑んでいる。驚いているようにも見えるが、それでいて安心しているようにも見えた。
そして……
「うっ……だ、誰……だ……」
醜い子に吹き飛ばされ、頭をやられたのか視界が霞む。が、それでもなんとか現状を把握しようと目の前を見るとそこには、男が、醜い子の上、否、正確にはたった一つの眼球の上に立っていた。それも片手で刀を逆手に持ち、その切っ先は綺麗にその眼球を刺していた。
男が少しその感触から来る気持ち悪さに顔をしかめながら剣を抜き、降りてくる。
剣が抜かれたことにより醜い子が血にまみれながらのたうち回る。その様子を横目に男がこちらに近づいてくる。
「あれ、どうしてそんな顔してるんすか?」
男がアリアドネに尋ねる。
するとアリアドネは本当に終わりだと思っていたのか、地べたに座り込んでしまった。
「そ、そんなこと……当り前じゃろ……はは、はぁ……どれだけ待ったと思っとるんじゃ……」
「え……と、十分ぐらい?」
「そんな短いわけなかろう!」
アリアドネが男にチョップをする、はずだったのだろうが、男がひらりと体を横にし避ける。
「はぁ、ま、まぁいい、とにかく来てくれて感謝する、リョウマ……」
「いえいえ、ま、お互い様ということで」
どうやらそのリョウマと呼ばれた男とアリアドネは知り合いらしい。いつも忘れかけるがアリアドネは王女だ、そんな人の知り合いということはこの人も相当な身分なのだろうか……
そんな話をしていると後ろから地響きのようなものが聞こえる。
「グ……オオオッ……ッ!」
リョウマとアリアドネが見上げるとすぐそこに醜い子の腕が迫ってきていた。
「く……ッ」
アリアドネが反射的に両手を前に掲げ魔法を出そうとする。が、魔法を出しすぎたのだろう、すぐに両手がぶらんと重力に従って落ち、体もそれに合わせて傾く。
「よっと……無理しないでくださいよ。大丈夫ですから」
リョウマがアリアドネの両肩を持ち、丁寧に地面に寝かせながら安心させながらそう言う。
「リョウマ……!後……ろ?」
リョウマ達三名に襲い掛かったと思われたその腕は、空中で止まっていた。
「だから大丈夫だって言ったじゃないですか」
「こっちはヒヤヒヤなんですけどね」
リョウマがアリアドネに向けてそう言うと同時に後ろからまたもや男性の声が聞こえる。
よく見るとその男の背中から短剣のようなものが出てくる。
男はそれを醜い子に向け、クイッと何かに切り傷を与えるかのような動作をしたのち、その腕が何に止められていたのかがはっきりと見える。
「ま……膜?いや……水……?」
だんだんとその膜から波紋のようなものが広がり、その醜い子の腕をリョウマとアリアドネとは反対の方向へ押し出す形で弾き、もう用が済んだと言わんばかりにすぐに水のしずくとなって消えた。
「リョウマさん、余裕ぶるのはいいですが、私の気持ちにもなってください」
男が短剣を一回転させ鞘に納めながら愚痴を零す。
「まぁまぁ!スサノー!久しぶりにアリアドネさんに会ったんだ、たまにはかっこつけるのもいいだろ?な!」
リョウマが手をひらひらとさせ、無理やり納得させる。
あのスサノーと呼ばれた男は、リョウマの付き人なのだろうか、互いを信頼し合っているみたいだ。
「様態は?」
スサノーはアリアドネと玲の方を見やり、リョウマに問う。
「見ての通りだ、俺たち、本当に来るのが遅かったのかもしれん、早く来たと思ったんだが……」
「私たちだけ、ですか……」
リョウマとスサノーはアリアドネと玲の前に立ち、お互い剣を構える。
「だな」
「オリヴィア!大丈夫か!」
あれからシャリオンは近くの木陰に重症のオリヴィアを背負い共に身を隠していた。
懸命に介護した甲斐あってかオリヴィアの体は少しずつ回復しているように見えた。
「幸い生まれる者はレイが親玉を狩って怖気ついたのか周りにいなくてよかった……」
「お……にい……さ、ま……」
オリヴィアが目を少し開け、にシャリオンのことを呼ぶ。
「どうした?ここにいる!頑張れ!」
「わかっています……レ、レイ……様は……」
「……あ、あいつのことは今は考えるな!今はお兄……じゃなくて自分のことだけを考えろ!」
一瞬玲に殺意を覚えたシャリオンだったが、妹の天使のような瞳で何とかこらえる。
数秒の沈黙の後、どこか寂し気で、安心して眠れていないオリヴィアに気づき、見てられなかったのかシャリオンが少しためらいながらもため息をついた後、口を開く。
「オリヴィア……レイは……大丈夫だ、ほら、親玉達だってあいつ一人で一気に倒しちまったじゃないか。それに……今は、アリアドネ様もついておられる……だから……」
最後の言葉を言おうとしたその時、ふと両手に温もりが感じられた。
オリヴィアがシャリオンの手を握っているのだ。
オリヴィアは力なく微笑み、語り掛ける。
「ありがとうございます……お兄様……えぇ、きっと大丈夫ですよね……」
そう言うと安心したように目を閉じ眠りにつく。
その寝顔を見て、シャリオンは今一度思った。
(あぁ、もう、好き)
リョウマとスサノーは醜い子の様子を伺っている。
「オオオオオッ……ガァアアアッ」
醜い子が生物とは思えない雄たけびを発し、八本のうち前二本を上にあげ二人に振り下ろす。
「単純……ッ」
「ですねっ……!」
二人は息の合った動きでその攻撃をよける。
その後、手信号でお互い作戦を伝え合い、同時に剣と短剣を抜く。
それと同時に両者とも左目から残香を出し、魔法を唱える。
「雷魔法……刹那の音!」
「水魔法・無数の雫」
それぞれから繰り出された魔法は、まさに天気で言う雷雨を彷彿とさせるものであった。
空から雨のようなものが降りだしたと思えばそれから形を変え、醜い子の体半分を容易に覆えるぐらいの大きな器のような形を作り上げ、さらにその上から、リョウマが唱えた雷が何の迷いもなくその器に降り注いた。
「電気は、水にあたるとどうなるでしょーか」
真剣な表情だったリョウマが余裕の笑みでそう言う。
そして再度真剣な表情に戻り、じっと醜い子を見つめる。
「感電だよ」
そう呟くとこの世とは思えない光が器から出始め、一直線だった雷が何千もの雷になって醜い子に降り注ぐ。
「グオオオオオッガアアアアアッ」
醜い子が絶え間なく降り続ける雷を受け、全身を焼き焦がされ続け、その数秒後、さすがに耐えきれなかったのだろう、ついに大きな地響きを鳴らし、その巨体を地面に落とす。
「……やった……のか?」
しばらくの静寂の後、最初に口を開いたのはアリアドネであった。
完全に土埃が晴れ、醜い子の全貌が露わになるころには、もう完全に黒焦げになっており、包帯がところどころ破れていた。
「あ、あんなに攻撃が効かなかったのに……」
「とにかく、まずはここから離れましょうか。さすがに何かがおかしいです」
アリアドネが頷き、玲に肩を貸しながら立ち上がる。
「それに、シャリオン達が心配じゃ、早く合流しなければ……また生まれる者が襲って来んとは限らんからの」
「わかりました、では向かいましょう」
「あ、あの、スサノーさん?でしたっけ、大丈夫ですか?」
シャリオン達がいるであろう場所に向かっていた途中、アリアドネに肩を借りながら不意にそんなことを呟く。
「え、それはどういう……」
「お、君~観察力高いね~」
スサノーが困惑しているとリョウマが割って入ってきた。
「こいつ、さっきの魔法で魔力ちょっと使いすぎたんだよね、だからちょ~っとだけふらついてるけど、こいつの回復力バカやばいから!大丈夫大丈夫!」
「そういう問題なんですか……?」
飽きれた様子で玲が再度スサノーの事を心配そうに見つめる。
「ご心配ありがとうございます、ですが、リョウマさんの言う通り、私は回復力には自信がありますので、どうかお気になさらず」
スサノーが少し立ち止まり、丁寧にお辞儀をして見せた。
その丁寧なお辞儀を見て、思わずこちらも会釈してしまった。
「まぁまぁ、んで、君が……レイ君?で合ってる?」
そんな様子を見てか話を変えるようにリョウマが聞いてくる。
「え?あ、はい……碓氷玲です……けど、えっと、なんで僕の名前を……?」
それを聞くと少し驚いたような顔をし、アリアドネのことを一瞥する。
「あれ、アリアドネさんから聞いてなかった?あいつの目をぶっ刺した時あったでしょ、あれのちょっと前に救難信号があってさ」
「救難信号……?」
そういうと前を見ながらアリアドネが補足説明をする。
「まぁ、言ってなかったのは悪かったが、わしの魔法は遠くの人に物事を文書ではなく直接伝えることができるんじゃよ。ま、範囲は限られているがの。時は、ん~確か醜い子がわしらの前に立ちはだかった時ぐらいに伝えておいたんじゃよ」
まるで電話みたいだと少し懐かしさを覚えながら聞いていると、リョウマとスサノーが立ち止まる。
「ん?どうしたんじゃ?足でも痛めたか?」
そういうと、スサノーがこちらを見ずに、恐る恐る尋ねる。
「……シャリオンさん達がいるのは、この先で会っていますか……?」
「?あぁそうじゃが」
「何人ですか?」
「さっきからどうしたんじゃ、おそらくオリヴィアとおるじゃろうから、二人じゃろ」
それを聞いてより一層リョウマとスサノーが顔を青ざめさせる。
玲とアリアドネはその様子にどこか不安を覚え、アリアドネが問う。
「い、一体……何を……感じ取ったんじゃ……」
「……気配が……三つあります……生まれる者でもないです……これは……」
「……ッ!すまんレイ……ッ!」
答えを聞くや否や、アリアドネは玲をその場に下ろし、必死の形相で前方へと風を纏わせながら飛んで行った。
―――十五分前―――
シャリオンは安心したかのように眠りにつくオリヴィアの顔を眺めながらあることを考えていた。
「……いったい今回の死の夢はどうなってやがる……いくらなんでも異常事態が重なりすぎているだろ……」
そう、この死の夢は不定期で来るにしても毎度酷くても生まれる者が数百の軍勢で押し寄せたぐらいであった。が、今回に限ってはそれを優に超えている事態となっている。生まれる者の親玉と思われる個体の数体同時出現、古来より都市伝説とされていた醜い子の襲撃……これらだけでも十分すぎる位なのだが……
「ウスイ・レイ……」
シャリオンは玲と会った時からずっと彼のことを考えていた。
彼は異世界転生者なのだから。これは国の王、又はその子孫にしか伝えられていない情報で、国家機密となっているぐらい重要視されている。
それでいて、危険視もされている。
生まれる者の大量出現と、その親玉と醜い子の出現、あまりにも都合がよすぎる気もするのだ。
「やはり彼が……」
何かのトリガーになっているのだろうか。そう言いかけたが、居心地よさそうに寝ているオリヴィアの寝息を聞いて、やめた。
「いや、今は考えるべきではないな」
サクッ———
「はっ……?」
何かがしたたり落ちる音が聞こえる。
手を確認する。
ベトッとしている何かが、手につく。
血だ。
どうやら背中を切られたようだ。何も気配はなかった。一体誰が……
「クッソ……!」
急いで振り返ろうと首を横に振るが、視界の端で素早く動く何かが見えた。恐らくオリヴィアを狙っているのだろう。
「こんにゃろ!炎魔法!焼き!」
拳を振り上げ、その何かを殴りつけようとする。
それに気づいたのか、その何かは後ろへ後退する。
「誰だ!」
だんだんとその全貌が明らかになる。
「お、女……だと?」
目の前には、オリヴィアと同じくらいの身長の女性が、体中を近未来感を漂わせる頑丈な鎧のような物で覆いそれでいて膝の裏や肘の裏など、体を動かすにあたって必須であろう箇所は肌が露出している。
その女は、彼女自身の身長と同等程の大きな刃が手を覆うように弧の字に曲がった剣を振り下ろす。その先には先ほどシャリオンを切った時に出た血が飛び散る。
そして、ゆっくりとこちらを見た後、表情一つ変えずに口を開く。
『……対象を発見……抹殺します』
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
今回の話も読んでくれてありがとうございます!
第十四話、いかがでしたでしょうか??
よければコメントやブクマお願いします!してくれたら作者が飛んで喜びます!
「別界勇者」は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!!
そしてなんと!次回の第十五話でだ第一章「森」完結です!
しかも!次回の第一章完結後、その記念として幕間の執筆も決定していますので、ぜひ第一章が完結した余韻に浸りながら読んでいただけたらなと思います!お楽しみに!




