第十一話 稀残香
「えっと……なん……ですか?」
オリヴィアとシャリオンがやけに体を触ってくる。
「言っただろ、お前のその目だよ……本当になんともねーのかよ……」
玲が生まれる者を撃破した数分後、その現場から一キロほど進んだ場所の洞窟にて、今まさに体を調べられているのだ。
「だからなんともないんですって……」
すると腰回りを触っていたオリヴィアが口を開く。
「……お兄様、やはりこれは……」
その問いに迷わずシャリオンは頷く。
「単刀直入に言うぞ、お前、自分の身をちゃんと守れ、これからずっとだ」
突然意味不明なことを言われ玲はポカンとする。
「……なんでですか?」
呆れたと言わんばかりに俯き、顔を上げると真剣な表情になったのがわかった。
「ま、仕方ねーよな、お前異世界転生者なんだもんな……知らなくて当然っちゃ当然か」
まだわからなさそうな玲を差し置いて、シャリオンは続ける。
「お前のその目はな、長年この国が探し求めてきた、稀残香だからだ」
「はぁ……はぁ……くっ……」
血がしたたり落ちる。
「あの大熊より……ちょっぴり強いみたいじゃの……」
足に力が入らない。
「こんなところで……」
終わってたまるか……と何度も頭の中で唱えることで、なんとか意識を保っている。
「あいつを……見つけるまでは……」
絶対に……死ねない。
この二つを頭の中で何度も、何度も繰り返しながら今目の前にいる巨大な———
「生まれる者……なのかはわからんが、その上位互換であることは……間違いないようじゃな……」
アリアドネは、その生まれる者の親玉であろう者の攻撃をなんとか躱しながらその生態について考える。
「おりゃああ!風魔法・世の風おおお!」
ほとんど残っていない魔力を振り絞り、叫びながらなんとか打つことに成功したその風は、その親玉の顔面に直撃し、膝をつく。
「ふはは!どうじゃ!わしの魔法……は……」
魔力切れなのか、はたまた出血による貧血なのか、アリアドネはその親玉のすぐ横で気絶した。
「あの……」
「なんだ」
「なんでしょう……?」
「これ……どういう状況なんですか……」
森の草を掻き分けながら玲、シャリオン、オリヴィアの三人は現在唯一離れ離れになっているアリアドネを探すため進んでいる。
これだけ聞くと何ら問題ないように思えるが、その移動方法に問題がある。
「レイ様を……えっと……その、守りながらアリアドネ様を探してるんですよ、その、窮屈かもしれませんが……」
(あぁ!レイ様がすぐ隣に!こんなにくっついていいのでしょうか……いえいいはずです!)
そう、今玲の現状をあえて説明すると、言わばサンドイッチ状態で歩いているのである、しかもぎゅうぎゅう詰めで。
「だから、何度も言ってるが、おめーを守るためなんだよ」
「そうは言っても……」
まだ困惑しながら歩いてる玲を見たシャリオンは何を思ったのか、一歩下がりながら言う。
「お、おま!勘違いすんなよ!俺は希少な存在のお前を保護する王子としての責務があってだな……」
「まぁまぁ、お兄様……」
そんな他愛のない話をしばらく続けていると、なんだか玲自身も楽しくなってきた。そしてついに笑みをこぼす。
「ふふ、はははは!」
「な!おめー何笑ってんだ!」
「ふふ、本当に、楽しいですわね」
「お前まで……」
シャリオンにヘッドロックをかけられそうになったその時、何かの呻き声のような声が聞こえる。それはまるで怯えているようにも、威嚇しているようにも聞こえた。
「あれは……」
「生まれる者……?いや、それにしては……」
「でかいな……」
三人がその大きな生まれる者を見ていると、ふと下に寝そべっている何かが目に入る。
「あ、アリアドネ様⁉」
「ガァ……」
その怪物は今にもアリアドネを掴もうと手を伸ばしていることに気付く。
「アリアドネ様がなんでやられてんだよ……!」
シャリオンが急いでアリアドネの前に出て手を前に出し、魔法を唱えようとした。が、
「シャリオンさん……これは……」
アリアドネのことを掴もうとしていたと思われたその手は、途中で止まり、呻き声も止まった。
「……?死んだ……のか?」
「いえ!まだです!お兄様下がって!」
「えっ———」
オリヴィアの掛け声と共にその生まれる者の親玉と思われる何かから光る何かドロッとしたものが噴き出し、即座に爆発した。
無論、一番近くにいたシャリオンもそれに巻き込まれた。
「お兄様!」
数秒の静寂の中、聞こえるのはその爆発の影響で周りの木々が燃え盛る音だけであった。
「シャリオンさん……」
あの爆発に巻き込まれたのだ、死んでいなくともまず無事ではないだろう。
そう、思われたその時、その炎に穴が開いた。何の比喩でもなく、本当に穴が開いたのだ。
「あれは……」
そしてその中からコツコツと高貴な足音を響かせながらある者が姿を現す。
それは他の誰でもない、シャリオンであった。
「ばーか、俺が炎に負けるとでも思ったか」
ただいつもと一つ違うのは、全身が燃えているということだ。
玲とオリヴィアが心配そうにその体を見ているのをやっと理解したのか、そのことについて説明する。
「あぁ、これか?これは俺の体の一部を一旦炎に変換しただけだよ」
何を言っているのか、全くわからなかったが、ふとオリヴィアを見ると顔を青ざめさせていることが見て取れた。
「お兄様!まさか!半魔剣を⁉」
そう言いながら早歩きでシャリオンに近づき、強烈なビンタを浴びせる。
シャリオンは少し呆然としていたがすぐにその表情を笑みに変える。
「ごめんって、でもあれを切り抜ける方法は俺にはこれしか思いつかなくってよ」
そういいながらシャリオンは半魔剣を鞘にしまう。それと同時に体に纏わりついていた炎はまるで今まで燃えていなかったと言わんばかりに一瞬で鎮火した。
「……」
「そんな顔すんなって……もう使わないからさ」
「約束、ですよ」
俯きがちだった顔を少し上げ、オリヴィアが口を開く。
「あぁ……約束だ、あ、でもいざとなったら使うぜ?」
「まだビンタし足りないようですね……!」
それからしばらくの間、オリヴィアの怒鳴り声と痛々しいビンタの音が鳴り響いた。
「ん……あ、ここは……」
アリアドネが目を覚ます。
「お、アリアドネ様、ようやく目を覚まされましたか」
「本当ですか?よかった……」
周りを見渡すと横には玲が、前には洞窟の入口と思われる穴があり、そこにシャリオンとオリヴィアがいた。
しばらく辺りを見渡した後、天井を見る。
「……また、迷惑かけてしまったの……」
そういうとゆっくりと玲は首を横に振る。
「いえ、あなたがいなければ、今頃僕もここには、もし生きていたとしても無事では済まなかったと思いますし」
すると何かを思い出したかのように勢いよく起き上がろうとしたが、体が持ち上がらない。
相当な魔力を使ったようだ。指を動かすのにも一苦労であった。
「あ、じっとしていてください、オリヴィアさんによると、アリアドネさんの今の魔力量は底を付いていて、筋肉も動かせないほどに体を酷使してしまっているそうですので……」
そう言うと納得したのか、はたまた諦めたのか、再度体を倒し、仰向けになる。
一息ついてから、シャリオンが口を開く。
「あいつのことでしたらご安心を、駆け付けた頃にはもう死んでました」
そして後ろからオリヴィアが不機嫌そうな顔で続ける。
「しかし、体内から漏れ出た何かにより大爆発を起こし、お兄様が……」
それを聞くや否や、目を見開きシャリオンに問う。
「まさか!鞘から抜いたのか!どのくらい!?」
「およそ10秒ほどかと」
「なんとな……シャリオン、お主は大丈夫なのか?」
「えぇ、なんとか」
アリアドネはオリヴィアの方を見て、もう怒る必要はないと察したのか、それ以上は何も言わなかった。
少し気まずい雰囲気になったその空気は、オリヴィアが断ち切った。
「そういえばアリアドネ様、大事な報告が」
「なんじゃ」
オリヴィアが玲の方を一瞥したのち、答える。
「レイ様が、ついに魔法を……しかも稀残香でした」
「なっ———!」
すると玲の方に顔を向け、問う。
「お主、体に異常はないのか!?」
「えぇ、まぁ」
それを聞いて一安心しながら、何かを考えこむ。
「ふむ、では、もうシャリオンに教えられているとは思うが、もう少し深く教えるとするかの」
「はい……お願いします」
「まず、魔法を使うときには余程魔力消費量が少ない魔法を使わない限り残香と呼ばれるものが出るんじゃ、お主も見たことがあるじゃろ?ほら、わしとかが風魔法を打つときとかに目から出てるあれじゃ」
思い出してみると確かに魔法を使っている時は必ず目からオーラが出ていた。あれが所謂残香というらしい。
「確かに、何か出ていましたね」
「あれが出る理由は簡単に言うと魔法を出すのはいいが、人の体の中でその魔力が膨張しすぎるのでそれを体から放出するために出ているのじゃ」
「ではなぜ僕は魔法が出ただけであんなに……」
「それはな、普通、どんなに魔力消費量が多くても片目からしか残香はでないんじゃよ、それ以上の魔力を無理やり出すとしても、わしみたいに気絶するだけか、もしくは脳が焼き切れるかじゃな……しかしお主は、それが両目で、しかも濃密なんであろう、オリヴィアやシャリオンが一目見て稀残香と断定したぐらいじゃからの」
一息ついてから、今度はゆっくりと続ける。
「その稀残香はな、より強い魔法を生み出そうと多くの研究者達が奮闘して、寝る間も惜しんで研究しても、たどり着けなかった、魔法の頂点なんじゃよ……ま、このぐらいならシャリオンとかから聞いておるかもしれんがの、とにかく、両目から残香が出ておるということは、それほど強力な魔法がお主には打てるという証拠なんじゃ、しかも魔法を使った後でも体に何の異常も見当たらないときた」
奥からオリヴィアが歩いてくる。
「少しですが、見ました、生まれる者を、しかも数十体を、とてつもない速さで一掃していました……しかも詠唱なしで」
すると参ったと言わんばかりにアリアドネが笑う。
「ははは……わしでもせいぜい詠唱無しで使える魔法は、盾ぐらいのものなんじゃがの」
「詠唱って……」
すると横からシャリオンが答える。
「ほら、よく俺とかが魔法を打つタイミングで言ってるだろ?あれだよ、もし詠唱が無かったら脳に上手く命令が行かなくてめちゃくちゃな魔法になっちまうんだ、ま、極めれば話は別だがな」
「つまり……」
「レイはめちゃ強いってことだよ」
あのシャリオンから褒められて少し照れてしまった玲だが、ここでとある疑問が出てくる。
「あ、あの、僕の魔法って……なんなんでしょうか……あ、ほら、風魔法、みたいな感じの……」
「それは私がお答えしましょう」
一歩前に出たオリヴィアが玲のその問いにかぶせるようにして真剣な表情で答える。
「珍しくて一目でわかりました、あなたの魔法は……この世で最も希少性が高く、今までそれを使っている魔法使いはいないとされていた魔法……桜です」
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
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「別界勇者」は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!!




