第十話 注目の的
ある時錯乱する資料を見つめ、考えた。
———そうだ、■■を戻せばいいのではないか、と。
ある時、その人は窓の外を見て、考えた。
———私が、その第一人物になればいいのではないか、と。
その人は、荒れ果てた■■の部屋を見て、決心した。
———仲間を、見つけなくては、と。
そしてまた考えた。
———「魔法」を、作らねば。と。
「くそ、こんな時に……」
アリアドネ一行は夜の外を見ていた。
これだけだと、ただ天体観測をしているだけのようだが、今回は違う。
「あれは……目?」
空を見上げ、そんなことを玲が呟く。
アリアドネ一行達の目には、月、と思われるものに釘付けであった。
それはそうだろう、なぜならその月には、クレーターの影なのか、本当のものなのかわからないが、とにかくそこには目があったのだから。
「来るぞ……死の夢が……!」
アリアドネが眉間に濃い皺を作り、そんなことを言う。
「あの、それってなんですか……」
そう聞くとアリアドネはこちらを見ずに答える。
「時期にわかる……」
「ちっ……こんなことならもっとレイを強化しとくんだったよ……!」
シャリオンはそう愚痴をこぼすと、こちらに顔を向け、注意喚起する。
「おいお前!絶対に、死ぬなよ……」
「死ぬ……?えっと、何が起きるんですか……」
オリヴィアが歩きながら声をかける。
「簡単に言うと、地獄が、始まります」
「地獄……?」
困惑しているとアリアドネがバッと玲達を守るように手を振り払う。
「来るぞ!構えろ!」
そう言うと同時に、月に浮かび上がった目から無数の赤く光る「何か」が勢いよく振ってくる。
「あれは、なんですか……?」
「あれは……不定期で来る、襲撃じゃ」
「襲……撃?」
「詳しく話してる暇はねーんだ!来い!」
シャリオンが後ろから手を伸ばし、玲の襟元を鷲掴みし、強制的に後ろへ後退させる。
すると先ほどまで玲がいたところに、前のオリヴィアの襲撃時に出来たクレーターよりも更に二回りほど大きなクレーターができており、砂埃が舞う。
「な、なんですか!あれ……!」
すると玲の顔の真横あたりにシャリオンが来て、低い声で言う。
「とにかくお前は何も考えるな、後で必ず、説明してやっから……!」
その砂埃の方向を見ながらシャリオンは目を細め、また愚痴をこぼす。
「ちっ……またあいつか……!」
「あれは……」
砂埃が病んだと思えば、そこに俯き、しゃがんでいる「何か」が鎮座していることに気づく。
そしてそれは、一瞬のうちに玲の顔の前に姿を現した、否、瞬間移動した。
「レイ!」
横からアリアドネの声がしたと思えば、その「何か」が一瞬で横に吹き飛ばされた。
どうやら魔法で守ってくれたようだ。
「レイ!大事はないか!?」
「あ、はい、おかげさまで……」
「なら立て!そして逃げるぞ!」
その「何か」が目の前に来た時、すぐにそれが何なのかわかった。
「ゾン……ビ?」
アリアドネに引きずられながらありえないと言わんばかりに思わず口に出す。だってあの映画とかでしか見たことないゾンビ、しかも殆ど骨で出来ており、ところどころに肉片がついているかなりグロい見た目をしたそれが今目の前に、しかも至近距離まで近づいてきたのだから。
それを聞いたアリアドネが前を見ながら言う。
「ぞんび?それはなんじゃ!またニホンのことか?」
「今襲ってきたやつらのことです……」
「何を言っとるかはわからんが、あやつらは生まれた者じゃ!とにかく捕まったら終わりと思え!」
「捕まったら……どうなるんですか……」
玲がせまりくる生まれる者を見ながら恐る恐る質問する。
「わからぬ……帰ってきたものがいないからの」
そうアリアドネが返すと横からとんでもない速さで生まれる者が飛び出して、というよりかはタックルに近い形でアリアドネに突っ込んできた。
「くっ……!」
咄嗟に玲を放り投げ、自分を守るように手を前でクロスしたが遅く、そのタックルをもろに食らってしまい吹っ飛ぶ。
「アリアドネさん!」
まずい、捕まったら終わりだと言っていた。今、目の前でアリアドネが捕まってしまった。どうしよう。この言葉が一瞬のうちに頭の中で何回もループした。
「アリアドネさ———っ!」
すぐに助けなければ。そう思った玲は動こうとするが、動かない。足がすくんでいるのだ。
「くそ、こんな時に……!」
足がすくんでいる時にもアリアドネが吹き飛ばされた地点を目標としたのか、生まれた者がそこへ次々と向かっていく。
「このままじゃ……」
冷や汗が頭から足のつま先にまで流れているのがわかる。魔法も打てない僕が行ってどうする。でも行かなければアリアドネさんがやられてしまう。
動け動けと何度も足に命令するが、足がまるで産まれたての小鹿のように震えていて前に進んでくれない。
「はぁ……はぁっくそ———っ!?」
動かない足を恨みながら、すっかり生まれる者が密集してしまっている方向を見ていると、後ろから何者かが玲の服の襟元をガシッと掴み、後ろへ後退させる。
一瞬生まれる者かと思い気を貼るが、違う。少し微笑んでいるシャリオンであった。
「ばーか、お前、アリアドネ様があんなのにやられる口だと思うのか?」
「い、いやでも……」
明らかに劣勢なのは見て取れる。それなのにシャリオンは何を言っているのだろうか……そう思った直後、その疑問の答えが目の前で起きた。
「どりゃあああああああああああ!」
そんな威勢のある大声が聞こえた後、生まれる者のもはや山と化していた中央から光が飛び出し、そこを起点とし風が、否もはや台風の様な渦が勢いよく吹き荒れ、周りにいた生まれる者が放射線上に打ち上げられる。
そこには得意げに拳を上にあげ、左手は腰に当て、左目からはあの魔法を出した時に出る糸のようなオーラが出ていた。
「ほらな?あんまアリアドネ様をバカにすんなよ」
別にバカにしたわけではないのだが……まぁ確かにこの心配が杞憂に終わったのはいいことではある。
「レイ!横によけろ!」
そういわれ、咄嗟に横に転がると、今さっきまでいた場所に最初に玲が襲われた時のように大きなクレーターができており、その中央には生まれる者がいた。
生まれる者は再度玲の方に体を向け、屈み勢いよく飛びかかってきた。
「炎魔法・太陽」
襲われそうになり玲が尻もちをついているところにシャリオンが魔法を唱え、見事に生まれる者を丸焦げにし灰と化す。
「あ、ありがとう……ございます……」
「気にすんな」
もしあの手合わせの時にシャリオンの魔法をもろに受けてたらああなっていたのかと少しの恐怖を抱きながらシャリオンの手を借りながら立つ。
「……」
シャリオンが空を見上げ、何かを考えこむ。
「なにか……?」
「おかしい……なにかが……」
「え?」
「あぁ、いや、なんでもない、とにかく行くぞ」
(……なんだ、この、変な予感は……何かが、何かがおかしい……なんだ……)
そう思いながら玲と共に走っていると何かの視線、おそらく生まれる者の視線であろう。複数であろうか、そう思い振り返り魔法を唱えようとしたその時、もう遅かった。
「くっ……」
もう生まれる者は目の前まで来ていたのだ、ここまで来られてはどの魔法も出すのにも一歩遅れる。
「炎魔法……はっ……!」
と、思っていた。
「な……んで……」
なんとその複数の生まれる者がシャリオンを無視し、玲の方へ迷いなく向かって行ったのだ。
「レイぃ!」
咄嗟に叫んだが玲の周りにはもう何十体の生まれる者が犇めいており、見えるのは顔を青ざめさせている玲の顔ぐらいであった。
それでも諦めずシャリオンは炎魔法を唱えようとする。が、それよりも一瞬早く、見たことある魔法が目の前を覆った。
「オリヴィア……?」
玲を覆いかけていた生まれる者の群れは先ほどのアリアドネの時のように吹き飛んだ。
「レイ様!ご無事で⁉」
「ま、まぁ、一応……ありがとうございます……」
「ここは危険です……一度退きましょう……」
そういうのと同時にオリヴィアが何かを察知し、振り向くと、なんと先ほど吹き飛ばした生まれる者の群れが再び二人の元へ襲おうと立ち上がり、地面を蹴り一気に距離を詰める。
「炎魔法・五つの刃!」
後ろからシャリオンがこちらに駆け寄りながら体の周りに炎の刃を纏わせ投げ、見事に蹂躙した。
「……ちょっと来い」
『?』
玲、オリヴィアともに一瞬疑問の表情を取ったが、何か言いたげなシャリオンの顔を見て、とりあえずついていくことにした。
「いいか、とくに玲、よく聞け」
「は、はい……」
一旦その場を退いたシャリオン、オリヴィア、玲の三名は大木の後ろに隠れ円状に座ったところでシャリオンが玲にそう言う。
「時間がないから単刀直入に言うぞ、何が理由かわからねえが、さっきのでわかった」
一息置き、真剣な眼差しで続ける。
「生まれる者、あいつらは、常にお前に向かってきている……!」
「な……!そんなことが……」
「さっき俺が魔法で対峙しようとしたんだがな、完全に俺を無視しやがったんだ……んで、お前を襲った。まぁオリヴィアが近くにいたからなんとかなったが……」
「でも……なんで……」
「なんだろうな……でも確実に玲に向かっていたのは確かなんだ」
「確か始めはアリアドネ様のことを襲っていましたよね……なぜ今はレイ様なんでしょうか……」
「何か、僕とアリアドネさんに共通点が……」
ガサ……後ろの草木がざわつく。
見やると先ほどの群れの倍ほどの数の生まれる者が、こちらを見て、否、玲を見ていた。
「くっ……レイ!逃げろ!振り返るな!とにかく前に進め!」
「でも……!」
玲は迷うが、オリヴィアが手を握ってくる。
「私たちを、信じてください」
じっと玲の目を見る。その目はただただ玲にそう伝えたい、そう語っているようだった。
「わかりました……!」
その握っていた手を放し、玲はシャリオンの言う通り後ろを振り返らず、ただ前へ、走った。
玲の背中を見送ったオリヴィアは微笑み、振り返り生まれる者の群れを見る。
「……心配か?」
「……いいえ、全く」
「なら、いくぞ」
「えぇ……!」
二人は意を決したようにシャリオンは拳を握り、オリヴィアは掌を前に伸ばし、同時に詠唱を始める。
「炎魔法・番人……!」
「風魔法……槍!」
「あやつらはなにをやっておるんじゃああああ!」
生まれる者を吹き飛ばしながらそんなことを愚痴る。
「あぁもう!なんでわしばっかり……!」
一歩後ろへステップを踏み、手を前に掲げ詠唱を始める。
「風魔法・世の風!」
瞬く間に目の前の生まれる者が吹き飛ばされる。
「ふぅ……こんなもんかの……さて……ぐっ!」
何かに後ろから突き飛ばされる。
前に顔から地面にダイブしてしまったアリアドネは即座に後ろに振り返りその姿を目に収める。
「こいつ……やはり、今回の死の夢は、何かが違うな……」
目の前には、周りの生まれる者に比べ、四倍はあろう巨体のそれがこちらを見ていた。
「はぁっ!はぁっ!くそ……」
逃げたと思われた玲は、壁に背中を合わせ、生まれる者と顔を見合わせていた。上を見ると崖になっており、玲は上には登れないことを悟った。
「……ガ……ガァ!」
「くそ……が!」
生まれる者がこちらに飛びついてくるのを見計らい、腰に差してある魔剣を抜き、なんとかその攻撃を防ぐ。その重みを感じながら横にいなす。
「はぁ、はぁ……やっぱり、全然効かねぇ……僕もみんなみたいに魔法が出せれば……」
弱音を吐いている暇はなく、次々と生まれる者が襲ってくるのをいなしては、避け、いなしては避けを繰り返す。時には斬ろうと試みたこともあったがやはり全く効いてる気がしない。
「そろそろ……やばいかもな……」
玲の限界を察したのか、生まれる者が一斉に襲ってくる。
「くっ……」
咄嗟に魔剣を横に構える。
「———っ?」
その時、何か異変が起きたのがわかった。前を見ると生まれる者の動きが遅く感じたのだ。
そして、心のどこかで斬れる。そう思った。先ほどまで歯が立たなかったのに、だ。
「ふ———っ!」
その意志に従い、魔剣を横に一直線を描きながら振る。
「———!」
まるで実感がわかなかったが、振り返ると、そこには何十体もの生まれる者を真っ二つにしていたのだ。
「レイ……?」
「シャリオンさん……それにオリヴィアさんも……」
「レイ様……それ……」
「……二人とも……どうしたんですか……?」
先程の生まれる者の群れを一通り一掃したのだろう、シャリオンとオリヴィアがいつからいたのか木の陰から姿を現した。玲を見る二人の表情は何か変なものでも見たような驚愕の表情であった。
するとシャリオンが口を開き、玲に問う。
「お前……その目……なんで……」
「レイ様……体は、なんともないんですか……?」
次いでオリヴィアも同じようにして玲に問う。
「二人とも何言って……」
シャリオンとオリヴィアの目線の先には、両目から炎のようなオーラがけ怒涛の如く噴き出している玲の姿があった。
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
今回の話も読んでくれてありがとうございます!
第十話、いかがでしたでしょうか??
ついに二桁突入ですよ皆さん!いや~、長いようで短かったですね……!
これからも頑張って書いていきますのでよかったらコメントやブックマークお願いします!作者が飛んで喜びます!
「別界勇者」は毎週金曜日の20時投稿です!乞うご期待ください!!




