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別界勇者  作者: 隠岐供契
第一章:森
1/6

??時間前の後悔

 ———はぁ……はぁ……!

男は歩いていた。もうかなりの距離を歩いたのだろう、服がボロボロになっている。

 ———はぁ……はぁ!

まるで何かを探すかのように慎重に歩いていた。足が歩いてるだけなのにもつれそうになる。

「くそっ……」

 男はとっくに疲れ果てていた。もう走れもしないし、歩けもしない、しかし、今はただひたすら前に進むしか選択肢はない。

 そんな状況に、男は陥っていた。

「なんで……こんな……」

 男は後悔している。

 昔よく怒られて、あぁ、なんでこんなことしたんだろう、次からはしないようにしなければと後悔をしたことがあった。しかし、これはそんなもの後悔とは言えないほどに、男は後悔をしていた。

「どこだよ……ここ……」

 男は困惑もしている。

 よく学校でまだ小学二年生なのに五年生の内容を少しかじる先生がそういえばいた。あの時はみんな困惑していた。もちろんこの男も困惑した記憶がある。今思えばなんで先生は習ってもないことをちょくちょく教えようとしていたのだろうと考えるときもある。しかしそんな困惑の記憶も上書きされるほどに、今置かれている状況に理解が追い付かなかった。

 そして男は、一つの文章を、疲労で立ち止まる度、口ずさんでいた。

「……なんで僕は……()()()()()を受け取ってしまったんだ……」


———??時間前———


 心地よい風が吹いている中、木刀が空気を切る音だけがこの剣道場に響き渡っていた。普通、こういう時は道場の名前をいうのだろうが、この道場の師範がめんどくさがって一向につけないので、仕方なく剣道場と言っている。

 もう一つ、道場に名前を付けない理由が存在している。それは、この道場の門下生がたった一人しかいないことである。そのたった一人の門下生が、今まさに木刀を振っている青と水色を足して二で割ったような髪をした男だ。名前は———

(れい)~~~!」

 碓氷玲(うすいれい)、それが今木刀を振る音よりも大きい声で叫ばれた者の名前である。

 どうやら、近所迷惑という言葉をもう一度教えなおさなければならないらしい。

「今行きますよー」

 そう言って、なかなかにきりの悪いところで素振りをやめ、その大声の主のもとへ歩いて行った。

「早くーーーー!!」

 静かに黄昏ていた小鳥たちが一斉に飛び立っていく。

 ……早歩きで行くことにした。

 長い廊下を歩き終わった先にある通常の扉より十センチほど大きい扉についた。

 大声の主の部屋である。少し、いやかなりの憂鬱感を抱きながら扉に手をかけた。

「もう……なんの用ですか?師範」

「おお!よく来てくれたな!!」

 玲が部屋に入ってもなお大きな声で話してくるその人は、玲の師範だった。もう結構な年のはずなのだが、どこからあの大声は出ているのだろうか。

 ちなみに先の扉は師範がでかい方がかっこいいからと言ってわざわざ業者を呼んででかくしたものである。

「そうそう、今日はな、この荷物を倉庫に運んでほしいんだ」

 そういながら大きな段ボールを持ってきて玲の前に置き、腰をポキポキ言わせている。

 ここまで運んだのだから自分で運べばいいのにと思いはするが、そんなことを言ってもなんかしらの理由をつけて結局は運ばされる羽目になるのは目に見えてわかっている。この師範とももう長い付き合いだ。そんな無駄なことはいまさら言うまい。

「それはそうと師範、相変わらず今日もつけてるんですね。その変なカラコン」

 そう、師範はいつも変なカラコンを付けている。赤くて、目の中に十字が入った見たことがないものだ。いや、カラコンに詳しいわけではないが、どこからどう見てもおかしなデザインをしている。

 それを毎日欠かさず付けているのだ。お風呂に入るときも、寝るときも。いつでもどこでも付けている。どこから仕入れているのだろうか……少し気にはなるが、言ってもいつもシラを切られて終わりなのでこれも言わない。

 そういうと師範は少し間をおいてから口を開いた。

「……まぁ、いいじゃないか。おじさんの趣味なんだから。」

 いつもの言い訳だ。まぁ、ひとそれぞれ趣味はあるだろうし咎めはしない。が、正直とても不気味なので出来ればやめてほしい。

「お前ももうここに来て十……何年かだろ、そろそろ彼女とかできたんじゃないのか~?」

 先の話をすり替えるかのようにテキトーな恋バナを話し出した。

 ここに来てから何年もたつと師範は毎回言うが、師範が玲を迎え入れた年を覚えていないように、玲も剣道場に来た記憶がない。というか物心ついたときにはもうこの剣道場にいた。なので師範がお父さん替わりで、この剣道場は玲の家のようなものなのだ。師範の話だと天から授かったとか変なことを言ってるが、まぁ、親に捨てられたとか、浮気でもしたとか、まぁそんなとこだろう。玲のことを思ってかは知らないが師範は全く教えてくれない。

「僕がここに来てもう十何年かなら師範もそろそろ()()教えてくださいよ」

「無理」

 即答だ。

 そう、師範は謎が多い。名前も教えてくれないし、玲がなんで捨てられたのかも、なんでカラコンを付けているのかも。とにかく教えてくれないことが多いのだ。特に名前に関する質問は特に拒絶反応を起こしているのかと思うぐらい即答で無理の一言で終わらされる。

「なんでですか、そろそろ教えてくださいよ。お父さん替わりだというならなおさら」

 少し粘って聞いてみた。

「無理なもんは無理だ、わかれ」

「…………」

 やはり無理だった。

 沈黙に耐えられなかったのだろうか、師範は頭を掻きむしりながら口を開いた。

「あぁ、もう!とにかく運べっ」

「……はい」

 しぶしぶ重たいその何が入ってるのかもわからない段ボールを持ち上げて扉へと向かう。

「あぁ、そうだ玲」

 急に後ろから声を掛けられる。

「……重たいので一回おろしますね」

「いや、そのままでいい」

「………………」

 段ボールをおろした。師範が「なんで?」みたいな顔をしてくるが無視する。

「なんですか」

 座布団に座りなおしてから師範の変なカラコンを見つめながら問う。

「お前、誕生日いつだっけ」

「何で知らないんですか、師範が知らないなら僕が知るわけないでしょ」

 やれやれといったようにため息をつく。

 ここに来るまでの記憶がないのだ。誕生日を知らないのは当然だ。お父さん替わりの師範がそれを知らないとなるとなおさらである。

 師範は少し笑みを浮かべこちらを見ると

「まぁ、そうだな。すまんすまん」

 また悪びれもせず「すまん」の一言で終わらせられた。子供が自分の誕生日を知らないのはなかなかまずいことだと思うのだが。

「まぁ、なんだ、その、毎日きついトレーニングこなしてるだろ」

「まぁはい、そうですね」

 急にどうしたんだと疑問に思いながら答える。

「だから、その、なんていうか、俺からのプレゼントが……あるんだが」

「え……」

 さすがに驚いた。あのクリスマスの時も、絶対誕生日も過ぎてるタイミングですらプレゼントを渡さず、そのくせ自分の誕生日だけはプレゼントをよこせとか言ってくるあの師範がプレゼントを渡すと言ってきたのだから。

 照れ隠しをするように師範は邪魔な犬を払いのけるように手を振った。

「ほ、ほら!わかったら早くもってけ!」

「は、はい」

 久しぶりにワクワクした。だってあの師範が玲にプレゼントを渡すと言い出したものだからどうしても心が弾むというものだ。心なしか段ボールも軽くなった気もする。

 そうして師範の部屋の一回り大きな扉の前に着く。ほとんど師範の置物だらけの倉庫だ。師範の娯楽部屋ともいえる。

 中に入ると、真っ暗な部屋から数十個の段ボールが顔を出している。

 そして倉庫に入ってきた玲を迎えるかのように大量の埃が舞った。

「……空いてるスペースないじゃん」

 そこらへんのもう使ってないであろう段ボールの上に適当に置いておいた。置き場所は倉庫としか聞いてないのだから怒りはしないだろう。

「……いや、怒るか」

 師範は自分が間違ったことを言ってると分かってても今の場合だと置き場所を指定したと言い張るだろう。そしてビールを買わされるのだ。

 しぶしぶそこら辺の段ボールの向きや置き場所を変えてなんとか隙間をつくり、重い段ボールをねじ込んだ。

 この埃まみれの部屋から早く脱出するべく扉へ向かい、外へ出る。

「ふぅ……」

 やはり蒸し暑い倉庫の中から外へ出ると、入っていた時間は短いとはいえ気持ちいものである。

 しかしまた遅いと叫ばれては困るので早めに戻ることにした。

「戻りました~」

「お!帰ってきたか!」

 前の座布団に座るよう手招きをしてくる。

 背中をポキポキ言わせながら座布団に座ると、前には何かを包んでいるものがあった。見るからに高級そうな生地でおおわれているそれに、玲は更に興奮した。

「師範、これが?」

「そうだ!まぁ見てみろ」

 そう言って、師範は包みを剥がした。

 ……こういうのは普通もらう側が自分で剥がすものではないだろうか。なにせ「見てみろ」といったのだから。

「これは……」

 刀だ。それも鍔が桜の花びらの形になっている綺麗な真剣である。これは玲が幼少期に本物の刀が欲しいと言っていたからだろうか。鍔に関しては剣道場に桜が植えられてるから、なのだろうか。いやしかし、銃刀法違反とかに引っかからないだろうか……免許を持ってたら大丈夫なのだろうか……忘れてしまった。

 しかし、そんなものはどうでもよくなるほどに、玲は興奮していた。

「慎重に扱えよ~?なにモノホンだからな」

「ほ、本当にいいんですか……?」

「あぁ、今まで頑張ってきたきたろ。ま、真剣扱う許可証?だっけ、あるからそこらへんは安心しろ」

 そういいへらへら笑っている。……心配になってきた。

「で、では……」

 しかし玲の興奮する心はそんなものでは覆せなかった。

 玲の手が、真剣へ伸び、緊張する手はついに柄を握った。

 柄を握ると同時に待ってましたと言わんばかりに明らかな不吉の予感が背筋を凍らせた。

「うっ……⁉」

 なにかがおかしい。

「し……はん……?」

 視界が曲がって……いや、これは貧血か?いやそんなものではない、そんな都合よく起こるはずがない。師範を見やると、どこか悲しい表情をしているのがぼやけた視界の中見て取れた。

「師範……な……んですか……これは……うぐ……っ!」

 師範は何も答えない。どんな表情をしているのか、もう今となっては見ることもできないが、とにかくなにかまずい状況に今自分が陥っていることだけは確かだった。

 もう座ってもいられなくなってきた。玲の目にはもはや何も映っていなく、次第に意識も薄れていく。

「し……は……ん」

 最後にだれも聞き取れないぐらい小さな声で言うと、完全に意識を失ってしまった。


———??時間後———


 なんだ、何が起こった?そう考えてる内、どんどん意識が戻っていく。

「ん……あ、あれ……ここ……は」

 ぼんやりとした視界が次第に鮮明になってくる。すると目に入ってきたものに玲は目を丸くした。

「……は?」

 思わず周りを何度も見返した。しかしそれも仕方のないことだ。

「嘘……だろ……」

 なぜならここは———

「…………森……?」

皆様始めまして!隠岐供契おきとも ちぎと申します!

今日から「小説家になろう」初めました!

頑張って書いたのでよければ感想など、コメントしていただけると飛んで喜びます!

これから頑張って毎週金曜日の20時に連載していきたいと思っておりますので、応援よろしくお願いします!!

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