それと共に
「疾ィ―――ッ!!」
隊長格の男は女へと目にも留まらぬ速さで接近し、その顔へと全力で拳を突き出す。
常人であれば首がねじれ飛ぶ攻撃だが、新たな命をくれた方であるこの方自身が「手を抜くな」、そして「気を抜くな」と言ったのだ。ここまでやらねば無礼にあたろう。
主人のために主人を殺す所業であるが、その気迫を感じた女は口を三日月型に歪め、その拳を額で迎えた。
「何を!?」
「――――ァア、良い衝撃だ。殺そうという意志が乗っていた」
「手を抜くなとのお達しでしたので」
「『気を抜くな』とも言ったがな」
僅かな脱力からの脚の一閃。
「パシッ」という軽い音と同時に首を狙って正確にねじ込まれた脛が引き戻され、男の首の骨が鈍い音を立てた。
攻撃の衝撃を余すことなく内部に送り込む蹴り方、それを一切の予備動作をせずに自分の頭よりも高い位置にある男の首に正確に打ち込む正確性。相手の身体を一切揺らさない技の熟練度、頑丈になっているはずの男の首の骨を一度で折る威力。
どれを取っても超一流、間違ってもこんなか弱い女から繰り出される技ではない。
「どうだ、立てるか?いや、立て」
「あっ、ギぎ、あ”、あ”い”!」
「いい根性だ、それと私の予想があっていればすぐに骨は繫がる」
ガタガタと膝を震わしながら痛みに耐えながら立つ男の身体から痛みがすさまじい勢いで引いていく。
曲がっていた首が次第に真っ直ぐになっていき、先ほどまでの怪我が嘘のように消え去った。
「こ、れは?」
「私が与え続けた副作用であろうよ。今のを見るに骨折程度ならすぐに治るか、よかったな?特別製の身体だ。まだまだ喧嘩ができる」
「そのお姿に似合わず、血の気が多くていらっしゃる」
「性分だ、諦めて構えろ。せめて一度は私を殺してみろ」
「胸をお借りします!!」
「この身に胸は無いがな」
先ほど以上の加速で飛び出し、その勢いのまま飛び上がり、女の脳天めがけて踵を落とす。
勢いを丸ごと横にずらすかのように下方向への勢いを横方向へと流す。そのまま開ききった脚に向かって拳を振り上げ、粉砕。
苦痛に耐えながら無事な脚で着地し、脚のバネをフル活用して勢いと体のひねりを無理やり作り出し、女の顔へと拳を突き出す。
あえて勢いを殺さずに攻撃を受けて、上体をあり得ない角度まで逸らす。
脚が再生し、追撃をしようかと試みる男へ向かって限界まで逸らした上体を跳ね戻して頭突き。
それを姿勢を低くすることで躱し、脚を伸ばす勢いを大いに活用して無防備な顎に向かい渾身のアッパーを振り上げる。
「がッ――!」
綺麗にカウンターを決められたことで隙を晒した女の顔目掛けて拳を振り下ろして追撃。
反射的に自ら地面に倒れこみ攻撃の勢いを殺し、倒れた拍子に男の腕に絡みつき捻ることで上を取る。
肩の関節を外し、おまけといった具合に顔を踏み砕きながら立ち上がる。
「マ、だ、できます」
「いいね、ナイスガッツ」
そのまま殺し合いのような喧嘩は食事の準備が終わり、探しに来た隊員が腰を抜かすまで続いた。
因みに男が女に殺せるほどの傷を与えることはできなかった。
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一晩が開け、各々が荷物を持って隊列を組む。
地理が全く分かっていない女は隊列の中央に配置され、護衛されるかのような形で移動することになった。
「まるで要人警護だな」
「俺等にとっちゃ御身は要人ですからね」
「こう、大事にされるというのも慣れんな」
「えぇ、我々の自己満足に付き合ってください。あなた様に付き従うものという証明を行動を持って示したいのです」
「構わんよ、慣れんだけで嫌いなわけでもない」
隊列を維持したまま〈不死隊アンデッド〉は自然豊かな森を崩壊させながら進む。
未だ出力の調整は叶わず、周囲の弱い存在から奪い続けてしまう。
だがそれは一方的な破壊ではなく、一方的な施しである。
命を奪ったはずの植物もしばらくすれば再生し、崩壊する前よりも強く美しくなって生まれ変わる。
まるで神のようにあらゆる生命を強い存在へと作り変えて、東へ、東へと〈不死隊〉は進む。
なぜなら崇める方が向かうといったから。
どこまでも共にあることが我らの使命だと言わんばかりに。
この先、星があるぞ
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