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それとの契約

「よし、そろそろいいだろう」

「落ち着いたか?」



 少々時間を置いて、〈掃除屋(クリーナー)〉へと話しかける。


 自分の今までを否定されるようなことを言われてしまっては頭を抱えたくもなるだろう。悩む時間も必要だろうと時間を取った。



 しかし、虚が話しかけたときにはもうすでに立ち直り、まっすぐ立った状態で虚を見据えていた。


 その目には怯えや迷いの色は見えるものの、表情は軍人然とした凛としたものになっている。先ほどまでのうろたえた様子は見えず、何かを決断したのだと一目でわかるだろう。



「ふむ、立ち直ったか」

「そんな覚悟を決めたような表情をしているということは、私の作戦に対しての回答が出たということか?」



 その場にいる全員が頷き、虚の次の言葉を待つ。



「私は奴らを殲滅する」

「理由は単純」

「私を勝手に使おうとした可能性があるからだ」

「極めて個人的で、理屈の欠片もない」



「しかしこれを実行することで確実にこの戦いは終わる」

「そのために」

「自分を罪人にできる奴らはいるか?」



 目の前の女が手を挙げた。


 そしてその女の部下は、手を挙げていなかった。



 虚の周囲を囲んでいる隊員たちを見ても挙手しているものは皆無。


 目の前の女、〈掃除屋(クリーナー)〉の隊長であろう者だけが手を挙げ、自分を異形を殺しまわった罪人とする覚悟を決めていた。



「まぁ、こんなものだろう」

「手が挙がるとは思っていなかったからな」

「一人でも挙手したことに驚いたくらいだ」



 と、満足そうに頷いているが、隊長本人は納得が行っていないようで、不満を隠せないと一目でわかるような表情になっていた。



「あなた達、なぜですか」

「この人が言ったように、この戦いを始めたのは私たちです」

「だったら!罪になると自覚しても、最後まで責任を持つべきなのではないのですか!?」



掃除屋(クリーナー)〉の隊長は信じていた。


 この部隊の人間が自分と同じ信念を持っている者たちなのだろうと。

 正しいと思ったことを突き通す、真っ直ぐな意思の持ち主なのだと。



 しかしそれは隊長の願いであって事実ではない。


「そうあってくれ」という他者に求め、「そうであるはずだ」と決めつけ、「間違いない」と型に嵌めた。


 自分の理想を他者へ押し付けていただけ。

 目の前の光景が、隊員たちは自分と違う判断をした人間だという事実を突きつける。



「いや、俺達は隊長が戦うっていうから戦っただけですし……」


「異形を殺すことは害獣を殺すのと同じだと思って殺していたんです。『害獣が溢れてこっちに被害が来たらやだな』って」


「そもそも指示出したのは隊長ですし、この戦いを起こすって本部に連絡入れたのも隊長なので、その~、殺しとかは無関係かなって」


「―――ッ!!」



 自分の皮膚が破けるほどに強く拳を握り、割れてしまいそうなほどに力を込めて歯を食いしばりながら、〈掃除屋(クリーナー)〉の隊長は部下の言い分を聞いていく。



 やれ、罪悪感を感じてしまったからできない、だの。


 やれ、責任は軍と隊長が持ってくれると思ってたから殺した、だのと好きかってに話す隊員の言葉を黙って聞き、心の中にたまった黒い、どす黒い感情を押し込める。


「部下にあたってはいけない」、「怒りは理性で制御できる」と心の中で何度も、何度も復唱する。



「そうですか、分かりました。あなた達は拠点へ戻り、中にいる負傷者の治療をしていてください」


「「「了解!」」」



 我先にと拠点へと戻っていく部下の背中を眺め、拠点の中へ全員が入ったことを確認して、大きく息を吐いた。


 そして、握りしめた拳を地面に叩きつける。



「なんで……」


「お前は妄信していたんだろう」

「『着いて来てくれているから』心意気は同じなのだと」


「そう、かもしれません」



 先ほどよりもトーンが下がった声で虚の言葉に答える。


 まるで隊長が裏切られた、とでも言うような光景に見えているかもしれないが、〈掃除屋(クリーナー)〉の隊員にだって選ぶ権利はあるし、何かを殺すという罪は重い。


 他人の命を背負って生き続けるというのは想像するだけでも恐ろしく、苦しい。

 それに耐えられるような人物がそこら中に転がっているはずがない。

 それを部下に強いるのはあまりに酷だ。



 自分と違う判断をしたことを間違いかもしれないと指摘することは出来るが、間違いだと断定することは出来ない。


 洗脳や脅迫もなしに他人を操作することなどできないに等しいのだ。



「お前は物分かりがいいな」

「私の言葉をずいぶんと素直に受け取るじゃないか」


「実際に、ここに残って戦おうという人間は私しかいないのですから、結果から見てそう判断せざるをえません。それに、彼らの言うことも正しいですから」


「というと?」


「この戦いを始めたのも、戦えと部下に命令したのも、私です。だったら部下の分全部を私が背負って生きればいい」


「一人でもやってやりますよ」



『やはりここ最近の私は運がいい!』と内心で満面の笑みを浮かべている虚の心中を知らぬ〈掃除屋(クリーナー)〉の隊長は真っ直ぐに虚を見て話す。



「〈掃除屋(クリーナー)〉隊長、六華(りっか) 春晴(しゅんせい)。異形殲滅作戦へ参加させていただきます。よろしくお願いします!」

      この先、星があるぞ     

     あぁ、星  おそらく星   


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