それが進むは群れの中
全身を凶器としながら群れの中を疾駆する。
触れるだけで崩れ去る異形共を腕と脚を振り回して吹き飛ばしながら進む。
立ち止まっていては退屈でも、多少なりとも体を動かすことで鍛錬代わりに使えることが分かった虚は、目的の個体を追いながら全身を駆動させて破壊をまき散らす。
凄まじい旋風と共に地を駆ける虚だが、知性のある異形に移動速度が想定以上に速く、なかなか距離を詰めることが出来ない。
速度もさることながら、左右へ蛇行し姿を眩ませながら移動するため、どうしても一瞬見失ってしまうタイミングがあり、移動に迷いが生じ、減速してしまう。
「最近全力で走っていなかったからな」
「かなり良い運動になる」
「しかし奴らの知性、確かに人間と同等のものはありそうだがさて」
「これはどうするのだろうな」
低い声と共に虚はさらに加速。
追いかけているはずの相手を追い越し、群れの先頭へと抜け出す。
その先頭からさらに距離を離してから背後へ振り向き、にんまりとした笑顔と共に拳を握り、渾身の力を込めて地面を叩く。
生前より鍛え続けた衝撃を対象へと余すことなく伝える技術、今世にて手に入れた強靭で、全てを壊さんとする力をもって振るわれたその拳は、地面を大きく揺らし、割り、砕いた。
衝撃を逃がすためなのか、地面は割れると同時に弾け上がり、向かってくる異形たちの一部を空高くへ跳ね上げながら、即席のバリケードとして機能した。
広範囲にわたって急に現れた土の壁に一部の異形たちは思わず動きを止める。
その瞬間を虚が見逃すわけもなく、瞬間移動にも思えるような動きでその異形たちの前へと立ちふさがった。
友好的な、それでいて凶悪で邪悪な笑顔を浮かべてその異形たちへと歩み寄る。「逃げたらまた追いかけ続ける」と全身から放つ圧で伝えると、異形たちは怯えている様子は変えずとも、逃げるような仕草を辞めた。
「なぜ逃げる、こちらは少々話が聞きたいだけなんだ」
「お前たちは言葉は分かるか」
だんまり。
言葉が分からないのか、それとも話せないのか。はたまた、話さないのか。
怯える以上のリアクションが返って来ず、どうしたもんかと頭を掻く。
『話を聞けないのなら追いかけてきた意味もないな』
『帰るか?あの卵もあの場に残したままだ』
話が聞けなさそうなら異形に用はない。
さっさと拠点に戻り、どうすれば早々に本部へ帰れるのか問い詰めた方がいいだろう。
必要なら虚はこの場にいる異形すべてを塵へ帰すことなど容易に行える。
変に時間を使ってまで済ませたい用事というわけでもない。
そのようなことをぐるぐると頭の中で考えていると、怯えた様子だった異形の一人が口に該当するのであろう器官を開いて言葉を発した。
「ナニが、聞キたイのですカ」
「なんだ、話せるじゃないか」
「怯えるくらいならはじめから言葉を発していればよかったのにな」
「いや、怯えているからこそ言葉が出なくなっていたのか、失敬失敬」
少々ぎこちなさは感じるものの、確かに人と会話をするにあたって不自由をしない程度の発声能力と言語中枢は存在しているようで、外見さえ見なければ人間と話していると勘違いしそうな程、流暢に話している。
「いやなに、妙に私がお前たちの同胞に襲われるような気がしてな」
「理由があるのなら聞いてみたい、というのが一つ目」
虚は指を立てながら自身が異形の群れの奥へと進んでいた理由を話す。
「そしてもう一つ」
「なぜ人類と戦いをしている?話を聞くにお前たちが仕掛けたのだと思うのだが、戦いを仕掛けた理由はなんだ」
もう一本の指を立て、この戦争を止められる可能性のある疑問を投げかける。場合によっては戦争が長引くことが確定する可能性もあるが、先の見えぬ暗闇の中を走り続けるよりはマシと判断したのだろう。
異形の一人がそんな疑問を聞き、少々思案するような仕草をしたかと思えば、姿勢を正して虚を真っ直ぐに見据えて言葉を発した。
「一ツ目、アナたヲ襲ッテイル理由は、アなたの生命力ガ溢レソウなほドに満ちテいたかラデす」
「だからと言ってなぜ私を襲うことにつながるのだ」
「我ラは、生命力ガ少なく、他ノ生物かラ生命を奪わなケレバ生キることがデキナいからなノデす」
「それはまた難儀だな」
「二ツ目ですガ、我々モなぜアナタのようナ人類と戦っテイルのかハッきりとハ分からなイノデす。フワッとシテイるというか、明確デナイというべきカ……」
「強いテ言うのデアレバ、世界ノ意志とでモ言うべキナノカモ知れまセン」
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