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それと〈不死隊〉

 女が光の下へ辿り着くのに2秒を要さなかった。


「向かおうと思ったらその場にいた」これ以上に今の女の心情を表す言葉はないだろう。




 そして女が〈不死隊(アンデッド)〉の元へ辿り着いた頃には、立っていたものはすべて地に伏していた。




「ふむ、やはりこの身は寄るだけで命を奪うのだな」

「であれば荒野に戻ることが最も迷惑を掛けない行動だと思うが如何か」

「それがいいのかもしれないな」

「まさか前の身体よりも壊すことに長けた身体だとは思わんよなぁ」

「死の間際の言葉を神は聞いていなかったとみえる」

「いち人間の言葉なんぞ神が気にするわけもなし、さもありなんといった具合だがな」




 倒れ伏した人の集団の中心でぶつぶつと言葉を紡ぎ続けるその姿は傍から見ればどう見えるのだろうか。


 どんな言葉であったとしても良い意味にはならないことだけは確かだ。




 女は動かない〈不死隊(アンデッド)〉の一人の傍に行き、その体に触れる。


 かつての草原のようにすぐに崩れ落ちるということはなかったが、ひと撫ですればボロボロと皮膚が剥がれ落ちる。


 とっさに手を引っ込めるも人体の崩壊は止まらず、しばらくした後、女が触れた男は着ていた衣服を残して塵となった。




「人相手でも変わらず……か」

「予感はしていたがな」

「この身体機能はどうにか引っ込められないものか」

「せめて見境なく殺してしまうことだけでも止められれば人里に住めるやもしれんというのに」

「どうにかして逆流させられんのか、これは」

「やるだけやってみればいい。どうせこの先に進んでも町を消すだけやもしれんしな」

「時間はある、ここの者らでいろいろ試してみればいい」

「すでに全員死んでいるようだしな」




 女はキャンプ地の中心にある大きな鍋を恐る恐る触る。


 崩れ落ちないことを確認し、その鍋を使って死体を一か所に集めた。


 直に触れず、近づいただけで肉体の崩壊が進む為かなり雑になったが、29個の遺体を並べることが出来た。




 女は死体の崩壊が進まなくなる位置まで移動し、座り込む。


 胡坐をかき、頬杖をついて死体を眺める。


『いろいろやるといっても見知らぬ人間を実験体にするのも気分が良くないな、すぐに何かしようというのも思いつかんな。いっそ久しぶりに眠ってみるか』


 女は荒野を進んでいる途中、一切の休憩を取っていない。


 睡眠はおろか立ち止まることすらなかった。


 この体は休眠を必要としない。食事も、排せつも、水分すら必要だと感じなかった。


 故に睡眠という行為をとること自体が女にとって初めてとなる。


 女は墓を見守る大樹のような気持ちで眠りにつく。


 その姿勢のまま目を瞑れば意識はゆっくりと沈んでいく、そして即座に浮上した。眠りから覚めたのだ。




 目を閉じたまま、首を動かすとパキッ、コキッと骨が小気味よく鳴る。


 もう朝か、と目を開ければ目の前に29個の遺体はなく、30人の人間がこちらを見ていた。




 驚きを隠せず反射的に後退りをするとブチブチッと何かが千切れる音が響き、何かが切れた。




 音のした方へ眼を向ければ、それは蔦や根だった。


 自分の下半身から生えていた根が切れ、肩にかかっていた蔦が千切れたのだ。


 そんな状況に目を白黒させているとこちらを見ている人間の一人が声を発した。




「起きたか、女」




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 時は遡ること60日。


 女と〈不死隊(アンデッド)〉が接触した日。




不死隊(アンデッド)〉は接触した謎の人型生物により壊滅、生存者は無し。隊の全員が無傷で死亡した。


 軍本部は一週間ごとに行っている定期連絡がなく、体内に埋め込んでいた生体センサーの反応が消えたことで、何らかによって部隊が全滅したことを知った。




 しかし軍は隊の捜索を即座に打ち切り、事故死という扱いで放置した。


 もとより捨て駒同然の部隊だ。そんな部隊を捜索するために人手を割くわけもなし、多少優秀なものを取り戻すためにそれ以上に優秀なものを送らなければならないのだ。やる意味がない。


 それにより、〈不死隊(アンデッド)〉は行方不明となった。





 女と〈不死隊(アンデッド)〉が接触してから30日が経過した。


 その場には29個の遺体と1人分の衣服の周辺に積もった塵、そしてその体面で眠る女。




 死亡して30日が経過しているのにも関わらず、その場の遺体は腐っていなかった。


 血色はよく、呼吸こそしていないものの、眠りについているようだった。




 さらに30日が経過。


 その周辺には草木が生え、遺体と女には蔦が絡まっていた。


 そして風も吹かぬ停滞したこの空間で初めての変化が起きた。


 衣服の周りに積もっていた塵が熱を帯び、まるで時間が巻き戻るようにして肉体が作られていったのだ。


 死ぬ直前のままの体が作られ、ついに男は目を覚ます。


 それに釣られるようにしてほかの29個の遺体が目を開き、動き出す。




「これ、は……」


「いったい、何が起きた?」




「点呼を行う!端から各自所属部隊と名前!」


「「「はっ!!!」」」




 隊長格の男が声を張り上げ、点呼を行う。


 そして自信を含めた30人がその場にいることを確認し、質問をする。




「目が覚める直前の記憶はなんだ」


「隊長が警戒命令を出した後、武器を構えたところまでは覚えています」


「あぁ、俺もそうだ。全員に質問だ。あの女に見覚えがあるものはいるか」




 と、自分たちの向かい側に座っている女を指さす。


 隊員の一人が女を見て声をあげる。




「恐らく警戒命令の直前に万死荒野からこっちに向かってきてた者かと思われます!」


「ということは俺たちはあの女にやられたということか」


「危険人物では?即座に殺処分するべきかと愚考します」


「あぁ、それには同感だが、どうにも気になる」


「というと?」




 隊長格の男は少し躊躇い、言葉を発した。




「馬鹿馬鹿しい話だというのは承知の上だが、さっきまで俺は塵になっていたように思うんだ」




 隊員全員が訝し気な表情を浮かべる。




「では隊長は塵から蘇ったとでも言うつもりなんで?」


「ただの妄想の可能性もあるがな、ただそうだとしても一度この女と話がしてみたいんだ」


「一目ぼれですかい?」


「断じて違う。今までの人生で培った勘だ。こいつを殺すのは俺たちにとって害でしかないように感じる」




 そこまで言われて、女に敵意を向けていた隊員が敵意をおさめた。


「そこまで言うなら」と女が起きるまで監視をすることにしたのだ。




 そして1時間が経過して女の眼が開いた。


不死隊(アンデッド)〉が並んでいるのを見て目を見開き、観察するようにこちらをじっと見つめている。


 起きた女に対して隊長格の男が声を掛ける。




「起きたか、女」

      この先、星があるぞ     

     あぁ、星  おそらく星   


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