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それを戦場に送る意味

投稿日時を間違っておりました……

本日の分も投稿しておりますので、そちらもよろしければどうぞ


「戦争かぁ」

「戦争ね……」

「まぁ、いいだろう」



 管理提督の提示した条件をあっさりと承諾し、情報の開示を待つかのようにその場で穏やかな表情をしている女を見て、管理提督ははじめて額に汗を浮かべた。


 あまりに迷う素振りがなかったからだ。

 口では迷っているような口ぶりだったが、内心では提案を聞いた瞬間に同意していたように感じたのだ。


『報告では文字が読めないとのことだったな』


 もしや"戦争"という言葉の意味を知らないのではないかと思い至り、虚に対して疑問をぶつける。



「すまない、君は戦争という言葉を理解しているか?」


「馬鹿にしているのか」


「そういう意図ではない、あまりにあっさりと承諾されたのでな。君の認識と私たちの認識があっているかの確認をしたい」


「ふむ、まぁいいだろう」



「戦争は組織同士が自分の目的のために発生する殺し合いだ」

「勝者も敗者も多大な損害を受け、敵対組織との軋轢だけを残す」

「自己満足意外何の利点もない行為だ」



 ズバズバと戦争に対して虚が持っている認識を話すと、管理提督以外の人間が顔を顰め、虚のことを忌避するような目で見る。


 管理提督だけは虚の回答に対して大口を開けて笑っていた。



「あっはっはっはっは!!そうだな、そうだ。間違いない!戦争なぞ元来そんなものだろうよ。欲しいものがその国にあるから戦争を仕掛けた、その国が近くにあることが腹立たしいから戦争を仕掛けたなどと、戦争とはそういうものだ」


「どうだ、私の認識は齟齬があるか?」


「いいや、ない。これ以上ない回答だ」



 管理提督は途端に笑みを消し、虚へ言い放つ。



「齟齬がないなら、なぜ即答する。君の言う通り何の利点もない。ならなぜ君は即座に了承した」


「嫌いだからだ」

「無意味に命という人から生み出されたものを壊すのが嫌いなんだ」

「だから了承した」



 矛盾していた。


 虚の言葉は嫌いであるという感情とは矛盾したものだった。


 戦争が嫌いならば行かなければいい、何かが壊れる瞬間が嫌いなら見なければいい。誰もがそう思う。

 事実この場にいる半数は戦争が嫌いで、行きたくないと心の底から思っている。

 なのになぜこの女は嫌いな場所へ自ら向かうというのか。



「なぜ嫌いな場所に行くんだ、嫌いなら見なければいい。行かなければいいじゃないか」


「あぁ、昔の私なら依頼でもなければ行かなかっただろうさ」

「だが今の私なら壊しながら直すことが出来る」

「殺しながら生き返らせることが出来る」



「私だけを恐怖するようになれば、組織間の争いを止められるとは思わないか」



 支離滅裂な言動、のように見えるが、筋は通っている。


 戦争を止めるのなら戦争をするメリットを越えるデメリットを見せつければいいのだ。

 そうすれば賢い指揮官なら戦争を中止し、撤退する可能性が高い。


 考えは悪くない。管理提督はそう評価した。



 ただ、虚の発言の中で一つ気になる点があった。



「生き返らせることが出来るのか?」


「あぁ、できる」



 サラリと何でもないような顔で恐ろしい言葉を吐いた。


 その言葉に黙って座っていた軍人の何人かが立ち上がり、虚に興味を持ち始めた。



「クソジジイ共が、さっきまで興味なしだっただろうが」



 その光景にクリスティーナは思わず悪態を吐く。



「どうせ何もしねぇくせに自分たちの利益になりそうな話題の時だけ出しゃばってきやがる。軍の中の害虫だな」


「老人はどの時代もそういうものだろ」


「人の本質などそう簡単に変わりませんよ」



 射手と矢岸もヒソヒソとクリスティーナに同調していた。



 そんなことは露知らず、虚の蘇生能力について聞き出そうとしている軍人たちを管理提督が止め、話をつづける。



「その案はどのようにして行うつもりだ」


「私とクリス元大将、〈不死隊(アンデッド)〉だけで戦場の真ん中に降りる」

「私だけでも構わんがな」

「その後敵味方関係なく近場にいる生命体をすべて殺す」

「以上だ」



 シンプルイズベストとは言うが、あまりに単純すぎる作戦とも言えないものに軍人たちは苦い顔をする。


「そもそも全員を殺すなど無理だ」と表情だけで物語っているかのようだった。


 そんな様子に虚は不思議そうな表情で首を傾げる。



「説明が足りなかったか」


「確かに説明が足りない、が……殺して終わりでは先ほどの蘇生に関する話はどうなる」


「蘇生は勝手にされるらしい、私にも制御はできん」

「効果範囲に入るとその場にいた死体は蘇生されるらしいのでな」

「現場でどう作用するかは現時点では分からん」



 そう説明しても軍人たちの怪訝そうな表情は消えず、虚に対する疑いの目が増えたように感じられた。


 その状況に虚はため息を吐いて管理提督に伝える。



「蘇生が疑わしいのならこの場で証明してもいいが」

「試すか?」



 部屋をぐるりと見渡してそういった虚の目に冗談の色は伺えず、もし頷けば迷いなく証明(殺し)が行われるのだと、普段戦場に向かうことのない書記官ですら察することが出来た。



「私をうまく使えるのは私だけだ」

「戦争に利用するなら好きにやらせてもらうぞ」

「危険因子だと判断したなら私ごと攻撃するといい」

「なに、怒りはしない」

      この先、星があるぞ     

     あぁ、星  おそらく星   


ブックマーク、評価の程よろしくお願いいたします。

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