それにかなう
大将は体の調子を気にしていた。
『触れられていないのに力が抜けていく。コイツの効果範囲に入っているから?いや、触れられていなければ何かを吸われるような感覚はなかった。別の要因?』
先ほど触れられた右手、殴られた頬、蹴るときに足で触れた頭、首、胴、腰。そして今、腹。
触れた瞬間に何かが抜けていったような感覚はあったが、それ以外で距離を詰められた時にはそんな感覚はなく、行動にも支障はなかった。
だが、ついさっき腹を何かで攻撃された瞬間から、何かが垂れ流されているように力が抜けていく。気を張らなければその場でふらついてしまう程に。
「お前、オレに何かしたか?」
変化を悟られぬよう、調子が悪くなっていることを気取られぬように努めて平静を装う。
それに気付いたのか、気付いていないのか。どちらとも取れぬニヤついた顔で大将を見る女。
「何もしていない」
「せいぜい殴ったくらいだろう?」
「それが良くない方向に作用した可能性はあるがな」
大将は漠然とこの女が何かをした、もしくは知っていると判断した。
調子が悪いのなら悪くなりきる前に最後まで動く。それで殺せるなら良し、死ぬ前に一矢報いることが出来るならそれもまた良しと自分の命を秤に乗せて動く。
一瞬停止、からの超加速。
女の周囲を床、天井、壁を問わず縦横無尽に駆け回る。
女がこちらを見失った直後、先ほどと同じようにその後頭部に鞭のようにしなった脚を叩きつける。ゴキリ、と嫌な音が足を通して大将の耳に届いた。
女の首がちぎれ飛び、転がった首が大将を見つめた。
ふらりと首の無いからだが起き上がり、骨が作られ、肉がつく。
髪も、顔も、飛び散った血液すらも消え去って何事もなかったかのようにその場に佇む。
転がっていった首を拾い上げ、おもちゃを見つけたかのような無邪気な表情で自分の首をいじくり回す。
「首が飛ぶとは……すさまじい蹴りだな、私でなければ死んでいる」
「はぁ、バケモンが……」
「首が飛んでも生き延びる、なるほど確かにバケモノだ」
手元の顔の口をパクパクと動かしながら女は話す。もう戦う必要がないと言わんばかりに悠々と。
「私の身体はいったいどうなっているのだろうな?」
「私を幾度も殺せる攻撃を与えている大将閣下は息も絶え絶えで」
「私はこの通りだ」
「怪我も治った、疲労もない、多少の精神的疲労はあるかな、だがその程度だ」
「もう勝てんよ」
ガクガクと笑う膝を手で押さえながら大将は悔し気な表情を見せる。
だが、その表情もどこか満足げなものへと変わっていった。
「さ、流石、に…届かねぇ…かぁ」
「いや、私でなければ死んでいると言っているだろう?」
「私のこの体は努力で手に入れたものじゃない、先天的なものだ」
「それに対して大将閣下は才能の後押しはあれど個人の努力で得たものだ」
「届いた、あぁ、届いたとも。だから」
「一度死ぬといい」
そう言って女は大将の頭を掴む。
急速に髪色が白けていき、筋肉が衰える。
腕や脚は枯れ木のように萎んでいった。
その時点でそれ以上に姿が変わらなくなったことを確認した女は少し離れてその場に座る。
眺めていようと膝に肘を置いた瞬間に変化は起きた。
〈不死隊〉の連中と同じように、時間が巻き戻るように肉体に生命力が漲っていく。
枯れ木のようになっていた手足はハリの良い艶やかなものとなり、髪は元の赤らんだ茶髪へと戻る。
全てが元に戻った後に目を開き、跳ね起きた大将は自身の身体の調子を確認する。
死ぬ直前、戦う前、女と話す前よりも調子が良く、力が漲っている。
今ならこの女を間違いなく殺せると思ってしまう程に。
「羅ァ―――!!」
立ち上がろうとしている女に向かって直進し、腹を突き破る勢いで蹴りを放つ。
「馬鹿が!!!」
腹に刺さった脚をへし折り、千切り捨てる。
掴んだままの大将の頭蓋、肩、腕、胸部、腰部を力任せに破壊。
何も言わぬ骸となった大将を見下ろし、独り言をつぶやく。
「なぜ蘇生した奴らは一度私に向かってくるのだろうな?」
「蘇生した時の全能感に酔っているのかもしれん」
「初めから大将殿は強さに飢えていたようだしな」
「暴れる気持ちもわからないでもない」
そう自分と話している間に大将の蘇生が始まった。
飛び散った肉片、骨片、脳髄、血液が集まって人の形を成し、皮膚が作られる。
今度は起き上がる前に大将を捕まえておく。
「ッ!」
「もう一度殺す必要はあるか?大将殿」
「いや!もう、大丈夫だ」
「そうか、そいつは残念」
腕に置いていた腕を除け、念のため距離を取る。
「警戒しなくてももうやらねぇ、蘇生してもらって一回殴り掛かってんだ。これ以上恥を晒せるかよ」
「話が通じるようでなによりだ」
大将はその場にドカッと座り、両手をひらひらと振る。
その体面に女も座り、その中央に先ほどから弄り回している自分の頭を置いた。
「研究したいならこれを使うといい」
「サンプルにはちょうどいいだろうからな」
「いいのか!?助かる!研究結果は絶対教える!あと依頼の達成料もな」
人の頭を抱えてドタドタと走っていき、壁のボタンを押して部屋の障壁をひっこめ、入れ替えるように元のドラマのセットのような部屋に戻した。
本棚からファイルを引っ張り出し、デスクに投げ捨てる。
そのまま自分も椅子に座って書類を凄まじい勢いで書き始める。
その間も女の頭部はデスクの上から女を見つめていた。
「まずその頭を仕舞ってからいろいろ書いてくれると助かる」
この先、星があるぞ
星を押すと良い、作者のテンションが上がる
ブックマーク、評価の程よろしくお願いいたします。




