それの扱い
「それで、私に何を要求するつもりだ?」
その場の雰囲気を維持したまま大将は女に問いかける。
女も姿勢を崩し、顎を引いて大将を見据える。いつ戦いが始まっても応戦が可能なように。
「何かを聞くような雰囲気じゃないな、もう少し圧を下げろ」
「そいつは無理な要求だ、お前を前に油断なんかできるかよ」
「そうか、ならまずはこいつらを下げさせる。今は私の手駒だ、変に死なれても困る」
「あなた様……」
「感動するのか悔しがるのかどっちかにしろ、今はお前たちの出番はない。外に出ていろ」
言外に戦力外だと言われた〈不死隊〉は自分の今の無力さを悔いて歯を食いしばり、一度俯いてから顔をあげた。
「承知しました。我らは外で待機しております。どうか、お怪我の無いように」
そう言葉を発し、静かに部屋を出て行った。
食い下がらなかったことに大将は驚き、女は満足そうに頷く。
「驚いたな、あいつらをどうやって手懐けた。軍でも屈指の問題児共だぞ」
「言ってもいいが、聞いて利用しようなどと考えるなよ」
「分かった。私の心の中に留めておこう」
「何度も殺した、その度に蘇生させ、さらに殺した」
「私に寄って死ななくなるまで殺し続けたら従順になった」
あまりに中身を省略しすぎた話だが、大将は少し考え、納得したように手を叩く。
そして納得した表情と同時に、女に対しての警戒心が跳ね上がった。瞬間的に腰の拳銃へ手を伸ばし、何か動きがあれば即座に射ち殺せるように構えた。
ただ、その様子を一切外部に漏らさず、動きも察知させなない。隠密行動に優れた自分の技術を総動員して女に対して有利に動こうと試みている。
流石の女もその様子には気付かず、しかし油断なく姿勢を変えずに大将を見据えている。動いたことまでは分からずとも、微妙な圧の変化は察知出来た。
察知できたのなら、それに合わせて内々で準備を整えておくだけ。
お互いに何も変化がないように相手に見せながら話を続ける。
「蘇生、なぁ。にわかには信じられんが、奴らの態度が変化するとなるとそれくらいのことが起きないと無理だな」
「そうだな、初めて会った時も一日中あいつらとにらめっこをしていた」
「実際に目の前で殺して見せるまではずっと私のことを探ってきていたし、軍人としては正しいのかもしれんがな。あまりに頑固だ」
「軍人なぞ、少なからずそんな奴らの集まりだ。その程度で痺れを切らすようでは軍ではやっていけんな」
軽い雑談、のように演出しているが、大将は女の言動から少しでも情報を得ようと誘導し、それをわかって自分から情報を吐く女。
お互いに意味のない雑談が暫し続き、本題に入るよう大将は促す。
「そろそろこちらに寄った理由を話せ、おおかた分かっちゃいるが形式上聞かなきゃ何も言えないからな」
「ふむ、まぁそこそこ話したか。わかった、理由を話そう」
「要求は実にシンプル、あいつらの所有権をすべて私に寄越せ」
「最悪寄越さなくてもいいがな、どうとでもなる」
要求した直後に正反対のことを述べ、交渉相手を混乱させる作戦…などではない。
寄越さなければ無理やり奪うと言外に宣言しているだけだ。
「渡さなかったときが怖いな、管理局全体をめちゃくちゃにされちゃあ割に合わねぇ」
「別に腹いせにここを潰そうなんぞ考えてない、あの部隊を奪うくらいなら手はあるからな。都市全体って程ではないがある程度の被害は出そうだがな」
「大して変わらねぇよ」
「要求はその一つだけだ」
それを聞いて大将はしばらく思案する。
元より80日前には死亡扱いで存在を無視されていた部隊だ。ここで手放したところで軍に何の痛手もない。
渡すことに損はない、が、軍としての体裁を保たなくてはいけないという点でタダで部隊を明け渡してしまうのもよろしくは無いのだ。
大将本人としてはさっさと渡してしまえ、というのが本音であるが、自分より上の立場の者と下の立場の一部の者がいろいろと言ってくる可能性があることをよくわかっているために面倒だと思いつつも対価を要求しなければならない。
先の少将との会話でこの女が部隊を救っていることは聞いている。それを対価としてしまうのが一番良いのだ。
良いのだが、それで納得しない一部の馬鹿のために頭をひねらなければならない。
(いっそ私も〈不死隊〉に混じって出て行ってやろうか)などと考えてしまう。
「いろいろとしがらみがありそうな顔だな、大将閣下」
「あぁ、多いとも。組織である以上、個人の感情で自由には動けん。ましてや私のような中途半端に高い地位にいるとなおさらな」
「ふむ、流石にこの場で即決はできないか。しかたあるまい」
先ほどまでの剣呑な空気はどこへやら、先のことを考えてすでに疲れきったような表情になった大将に対して女は同情の目線を向ける。
女は責任など知ったことか、というような考え方をするが、責任を負う者の気持がわからないわけではない。
外見だけでも可憐な美少女の大将がそんな表情をしていたら同情の一つでもしたくなるもの。
「私はもう〈不死隊〉はお前に渡してしまっても構わないんだがな」
「組織的にタダで、というわけにはいかないか」
「無理やり奪ってしまうことも可能ではあるが……」
「そういった顔を見てしまうとやりにくいな」
そう言って姿勢を崩し、にへらと笑う女を見て、大将は面白いものを見たといわんばかりに笑う。
「ハハハハハ!お前、もしや性根はまともか!?」
「悪いか、自分から進んで殺しなどする訳ないだろう」
「なにも生まない、奪うだけの行為に意味があるとは思えんな」
「せいぜいが交渉のための脅しの道具だ」
「傑作だ!!手も触れずに命を奪うバケモノがそこらの人よりも命に対して敬意を以て接しているとはな!!」
手を叩いてひとしきり笑った大将は、笑顔のままに女へと問う。
「おい、部隊を譲る代価として一つ頼まれてくれないか?」
「終わらせりゃあ、軍で身分を保障してやるし、他の管理局でも融通がある程度効くように取り計らってみてやる。実際にできるかどうかは分からんがな」
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