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第5話 それぞれの成長


 数日が経ち、千津子と昭恵は無事に退院の日を迎えた。 病院の玄関前で、二人は顔を合わせる。


「千津子さん……落ち着いたら連絡するわね?」

「ええ、分かったわ……これからも友達よ?」


 二人は互いの顔を見て、微笑み合った。 それぞれの夫が車で迎えに来ていた。昭恵が車に乗り込もうとしたその瞬間、 「待って!」 と、背後から声をかけられ、昭恵が振り返ると、そこに立っていたのは美智子だった。


「美智子?どうしたの?」

「昭恵……どうしても伝えたいことがあるの……」


 美智子は胸がドキドキするのを感じながら、言葉を絞り出した。


「あなたの子……昭恵の子は……」


 昭恵は不思議そうな表情で美智子を見つめる。


「昭恵の子……私、見守っているから……」


 美智子は、本当のことを口にすることができなかった。


「わざわざありがとう……車、送ろうか?」

「大丈夫よ……」


 そう言うと、昭恵を乗せた車はゆっくりと走り去っていった。


「これで良かったのよ……誰も知らないわ……私さえ黙っていれば、バレることはない……明美ちゃんは、昭恵とは縁がなかったのよ……」


 美智子は、まるで言い聞かせるようにそう呟いた。



 それから6年の月日が流れた……2002年の春。


 二人の女の子は、可愛らしい小学生になっていた。 自分が本当は明美だとは知らず、貧しいながらも心の優しい娘、佳純。 そして同じく、本当は佳純だとは知らず、お金持ちでわがまま放題に育つ娘、明美。


 明美は何やら不機嫌な様子だった。


「ママ~、今度、可愛いお洋服買って~」 「明美!この前買ったばかりでしょ?いい加減にしなさい!」

「だって~、クラスの子、みんな可愛いお洋服着てるんだもん!」


 明美は、当たり前のように昭恵にわがままを言っていた。


 一方で千津子は、佳純の好物の大学芋を作って食べさせていた。


「佳純……出来たわよ……いつもこんなもので良いの?」

「うん!いいよ!私、何でもおやつ大好き!」

「佳純はお利口ね。本当にわがままが少ないから……」

「そうなの~?」


 佳純は、千津子の言葉を少し不思議そうに聞き返した。その足には、赤ちゃんの頃の火傷の痕が、今も微かに残っている。


「そんなものばかり食べさせて……千津子さん、何を考えているの?」

「お義母さん……佳純が喜んで食べるから……良いかと……」

「良いわけないじゃない!大学芋はね、甘いのよ?今から太ったらどうするのよ!」

「すみません、気をつけます……」


 伸子は相変わらず、千津子に辛辣(しんらつ)な言葉を投げつけていた。


「おばあちゃん、ごめんなさい……大学芋……そんなにダメなの?」

「佳純ちゃんは気にしなくても良いのよ~、まだ6歳なんだから……でもね、甘いものは控えましょうね!」


 伸子は、にこやかにそう言った。

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