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第18話 家庭教師の危機?


 

 スイート多枝子は今日も元気よく、美智子の家にやって来た。


「スイート多枝子!参上しました!」

「多枝子さん……いえ、スイート多枝子さんお座りになって」


 美智子は深刻そうな表情を浮かべながら、ソファーに座っていた。


「はい……何かお話でも?」

「ちょっと申し上げにくいのですけど……今週いっぱいで、辞めて頂けないかしら?」


 美智子はスイート多枝子の顔を見ることもなく告げた。


「何故でしょうか?透君は、まだ勉強があまり出来てません!私が見なければ、成績は上がりませんよ!」

「いえ、それは大丈夫ですから」

「奥様!私に何か至らないところでもありますか?あれば教えてください!スイート多枝子は日々精進します!」


(ダメだわ、これは……)


 美智子は心の中でそう思い、半ば呆れながら、スイート多枝子に家庭教師を辞職するようお願いした。

 スイート多枝子は納得がいかないまま、とりあえず今日は透の部屋で勉強を教える。


「透君!ここはね?魔法の数字のお引越しタイムよ!ほら見て!7+5は?まず、5を3と2に分けるの!そうすると、7+3で10!これが魔法の箱!そして、残りの2を10に仲間入りさせて、12!どう?簡単でしょう? スイート多枝子!今日も張り切って教えるわ!」

「分かったから……ちょっと静かにして?」


 透もいつものように突っ込む。


「ノーノー!ノーノー!透君、チガーウ!」

「あぁぁ、うるさい……勉強に集中出来ないじゃん!」

「透君!それでは勉強という試練に勝てません!さあ、このパイナップルで元気を出そう!」


 そう発言すると、スイート多枝子は、カバンから大きめのタッパーを取り出して、パイナップルの輪切りを透の口に入れようとした。

 透は嫌がり、スイート多枝子の手を押し避けるも、しつこく迫ってくる。


「透君!パイナップルでエネルギーチャージしなければダメだよ!さあ元気出して!」

「やめて……それより何でそんなに果物ばかり、持ってるの?」


 透のわめく声が聞こえ、心配になった美智子は2階の透の部屋まで様子を見に来ると、その光景を見て驚く。嫌がる透にパイナップルの輪切りを無理やり食べさせようとしているスイート多枝子だった。それを見て美智子は怒った。


「多枝子さん!何をしてるの?」

「奥様……すみません、果物を食べて元気出してもらおうと」


 スイート多枝子はタッパーをしまいながら謝った。


「もういいわ!今日までで結構です!今すぐ帰ってください!」

「奥様!私が悪かったです……お許しを」

「あなたの教え方では、透の勉強が捗らないわ……帰ってちょうだい!」

「すみません」


 スイート多枝子は頭を下げながら急いで帰っていった。


「まったく……」


 美智子は透の顔を見つめる。透は悲しそうに下を俯いていた。それは先ほどの出来事に少し疲れていたからだった。



 一方で、千津子は娘の佳純から明美と同じ塾に通っていることを聞かされた。


「お母さん、あのね?塾に通ったらね、そこに明美ちゃんがいたの!」


 佳純が喜んで説明すると、まさかこんな偶然があるなんて、と千津子は目を丸くした。仲の良い明美と一緒に勉強できることはとても良いことだと思った。


「すごい偶然ね!良かったわね」

「うん!」


 佳純は勢いよく返事をすると、千津子はそんな楽しそうにする娘を見て、優しく見守る。


 そしてこの出来事に心の中で小さく拍手を送った。一人で新しい環境に飛び込むのは、佳純にとって少なからず不安があったであろう。それが、気心の知れた親友と一緒ならば、心強く、安心して通えるに違いない。勉強面でも、お互いに励まし合い、良い影響を与え合えるだろう。


 千津子は、娘の成長を願いながら、明美との友人関係を影から応援するのだった。



 その夜、自宅で昭恵は敦士と2人きりでお酒を(たしな)んでいると、敦士にデートのお誘いをした。


「ねえ?あなた……週末、久しぶりにデートしない?二人だけで」

「週末?そうだな……久しぶりに出掛けようか!」

「本当?嬉しい……ほら、あなたにも休息が必要だからね!」


 昭恵は嬉しそうに、コップに入った、残りのお酒を飲み干す。敦士はそんな茶目っ気のある昭恵を見て優しく微笑む。


「昭恵はどこに行きたい?」

「そうね……美術館でゆっくりと、絵を眺めたいわ」

「分かったよ、その後はレストランで食事しような?」


 昭恵は優しく頷きながら、少し酔いがまわってきた。


 一時期、敦士の女性関係のことで2人の関係は壊れそうになったり、夫婦喧嘩も時折あるものの、何だかんだいって仲が良い。

 しかし、昭恵は心の底ではどこか、不安な気持ちがあった。本当に自分のことだけを妻として、女性として愛してくれているのだろうか?そんな風に思うと怖くなる。


 敦士も、この家庭を守りたいと思いつつ、同時に愛人である恭子との関係を断ち切れない。寧ろ、恭子のほうへ愛が深まってる自分を何となく恐ろしく感じていた。



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