第17話 個性的な家庭教師
先生から謝罪をして仲直りするように提案される明美たち。しかし、男子生徒は納得がいかなかった。
「嫌だ!ボールペン壊されたんだから、弁償してもらうからな!」
「弁償?分かったわ!弁償するわよ!そんなの私のお小遣いでも全然余裕よ!」
明美がムキになると、先生が男子生徒に聞いた。
「そのボールペン、いくらなの?」
「400円だよ、高いだろ?」
男子生徒が答えると、明美と佳純は思わずクスッと笑った。
「安いじゃん」
明美は笑いを堪えるように小さく呟いた。
「こら!笑わない」
先生は口を尖らせながら、注意した。そして仕方なさそうに言った。
「400円ぐらいだったら、先生が買ってやるから明美ちゃんも、ちゃんと謝罪するんだ」
「先生……壊したのは、私なので弁償をします……壊してごめんなさい」
明美は先生の言葉を聞いて、罪悪感から素直に謝った。男子生徒も機嫌が収まったように謝った。
「お、俺こそごめん」
「いいよ」
明美は優しく答えると、二人は仲直りをした。
その後、塾の帰り道……。
「もう!放っちゃかめっちゃかだったわ」
「明美ちゃん、大変だったね……でも400円ぐらいで弁償って大げさだよね」
「本当だよ!400円くらい、自分で買えばいいのに」
明美と佳純は冗談を言うと、顔を見合わせ、面白おかしく笑い合った。
そして明美が「ただいま」と言って自宅に帰ると、昭恵は明美が最近、学校で成績が上がったことを先生から聞いており、喜んだ。
「明美、あれから成績が上がったのね!塾に行っているおかげね」
「あのね?実は佳純ちゃんも私と同じ塾に通ってるんだよ!」
昭恵は驚くと同時に、明美の口から友達の名前が出たことに、成績が上がったこと以上に安堵していた。
「あら、佳純ちゃんも?偶然ね!良かったじゃない」
「エヘヘ、成績が上がったのは佳純ちゃんのおかげでもあるんだよ?」
「そうだったのね!佳純ちゃん様々ね?」
昭恵は喜びと同時に安堵した。今まで明美は成績は悪く、勉強も嫌いだったため、昭恵は頭を悩ませていたのだ。夫の敦士が情熱を注ぎ、築き上げてきた会社を、いつか明美がしっかりと引き継ぎ、守り、発展させていってほしい。それが、昭恵にとっての切なる願いだった。そのためにも、明美には学業に励み、広い視野と知識を身につけてほしいと、心から願っていた。
明美にとって、佳純と同じ環境で勉強することになったのは、プラスになることが多かった。
その頃、いつものように透はスイート多枝子に勉強を見てもらっていた。
「ノーノー!ノーノー!まだまだ甘いわ!まだまだスイートよ!」
「そ、そうなの?あの、多枝子さん……じゃなくて、スイート多枝子さん……ちょっとうるさい……」
うるさいと言われ、顔を真っ赤にするスイート多枝子。まるで顔から湯気が出そうだ。
透はいつも思っていたが、スイート多枝子は低い声のわりに声量があった。
「う、う、うるさいですって?!透君!そんなこと言ってはダメ!あなたのお母様に頼まれてるのよ!勉強をきっちり教えてと!ちゃんと面倒を見るわ!」
「そんなこと言われても……その話し方じゃ鬱陶しいよ」
「鬱陶しい?!ダメ~!ダメ~!透君、私があなたを指導することになってるのよ!」
「はぁ……」
結局、スイート多枝子のうるさい指導のせいで、ほとんど勉強が捗らないようだった。
美智子は毎日、心配だった。
「透、今日はどうだったの?」
「お母さん、スイート多枝子さんが家庭教師なんて嫌だよ……ただでさえ勉強嫌いなのに、余計つまんない!」
「透、今週だけ我慢してちょうだい?次の家庭教師を探すから……私も多枝子さんじゃ嫌だわ、辞めてもらうわ」
美智子と透はスイート多枝子のことが、気に入らなかった。
母親なら、誰でも同じように願うのではないだろうか。わが子には、少しでも学力を伸ばしてほしいと。美智子もまた、その一人だった。息子の将来を案じる焦りも感じていた。
それは昭恵の家庭と同じように、透もいずれは宏の会社を継ぐ立場だ。立派な大人になってほしい。けれの、今の家庭教師では、その願いも遠のいてしまいそうで、気が気でなかった。