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第15話 変化の兆し


 保の賛成を聞くと千津子は早速、佳純に塾の話をした。


「そろそろ佳純に塾へ通って欲しいなって思っているんだけど、どうかな?」

「塾?うん……勉強も難しくなってきてるし、分かったよ!」

「でも嫌なら無理しなくても良いのよ?」

「大丈夫だよ!塾で仲の良いお友達できると良いな~」


 勉強が好きな佳純は塾へ通うことに抵抗はなかった。

 佳純は学校で、成績は良いのだが学年が上がるにつれて、勉強内容も難しく感じていた。


 そして数日後、佳純の塾の初日。先生に紹介されて教室に向かい、中へ入る。辺りを見渡すとそんなに生徒の人数は多くはなかった。そこには、見覚えのある女の子の姿が……。何と、明美もいたのだ!


 佳純は驚いた様子で呟いた。


「あっ!明美ちゃん」


 明美も佳純のことを見て同じように驚く。


「佳純ちゃん?嘘……」


 先生に指定されて佳純は席につくと、すぐ前の席に明美が座っており、振り向いた。


 二人は手を振って、小さく笑い合う。


 佳純は小さな声で話す。


「すごい偶然だね!私ね、勉強が難しくなってきたから通うことにしたの」

「そうだね!私はね?お母さんに秀才になりなさいって!本当は嫌だけどね?」


 佳純は微笑むと、明美は安堵する。佳純がいたら、塾も楽しくなりそう……そう思う明美だった。


「みんな、この長方形の周りの長さを求めてみよう。どこから考えるのがポイントかな?近くの席の子と相談しても良いぞ!」


 先生は大きな声で問いかける。二人は塾で先生の話をしっかり聞いていた。


 帰りの時間になると、明美は分からないことを佳純に聞き、佳純も答えに詰まると二人で考えを巡らせていた。



 一方で、美智子は家庭教師を招き入れた。この前、パソコンで探していた人だ。素朴な外見で眼鏡をはめた、真面目そうな女性……名前は多枝子(タエコ)。年齢はまだ若そうな感じだった。


 美智子はお茶を出して、少し顔を覗き込むように、尋ねた。


「あの、多枝子さんですね?よろしくお願いします」

「はい、今日からお世話になります!家庭教師の多枝子です……坊っちゃんのために熱心に指導したいと思います!」

「す、すごく熱心な方ですね?では多枝子さん、息子の透の部屋へ案内しますわ」


 美智子がソファーから立ち上がると、多枝子も立ち上がり、熱く語り出した。


「私、果物とか甘いものが好きなんです!是非、スイート多枝子と呼んでほしいです!果物の力で勉強のやる気もアップさせますよ!」

「す、スイート多枝子さんですね?覚えておきます……」


(この人、大丈夫かしら……)


 美智子は引いた目で多枝子のことを見つめた。そして2階へ上がり、美智子は、「では、よろしくお願いします」と頼む。透の部屋にスイート多枝子がやって来ます。


「透坊っちゃん!よろしくね!スイート多枝子と申します」

「多枝子さん?よろしく……」

「いいえ、違うわ!スイート多枝子よ……覚えてくださいね?」


 多枝子の声はとにかくうるさかった。


「うん、よろしく……す、スイート多枝子さん」

「お腹空いてないかしら?まずはこのブドウでエネルギーチャージよ!」


 多枝子はカバンからタッパーを取り出すと、中には大量のブドウが詰め込まれていた。ブドウのかすかな甘いにおいが漂ってくる。


「う、うん……」


 しかし、透も引いた目で見ていた。それに気づかず微笑み、元気に対応するスイート多枝子。



 その夜……敦士は、恭子と密会を度々していた。3年経っても関係は続いている。いつものホテルの部屋、レコードから官能的なゆったりとした音楽が流れていた。


 二人はスローダンスを踊りながら、恭子は機嫌が良さそうに話した。


「敦士さん、最近はよく会ってくれるのね」

「ああ、家庭の方も落ち着いてな……」

「ねえ?あなたの娘の母親になりたいわ」


 恭子は敦士に抱きつきながらお願いする。


「恭子?それは話のスケールが大きいぞ」


 敦士は困惑しながらも、落ち着いた様子で言った。


「良いじゃない!私の中ではあなたの妻なのよ?」


 恭子は図々しくも、明美の母親になりたいと考えていた。それは敦士への愛が大きいがゆえの考えだった。当然、明美とは話したこともなければ、会ったこともない。

 いつまでも、愛人という立場では悲しい……。それはこの3年間、気持ちは変わることはなかった。


 そして敦士は二重生活に少し疲れている部分もあった。しかし、恭子との関係はどうしても辞められなかった。


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