第12話 愛人の苦悩
千津子は友人、依子にお礼を言うため、誘う…そこは、いつもの喫茶店だった。店内はいつものように人が賑わっており、そこへ依子はニコニコしながらやって来た。
「お待たせ!千津子」
「うん……ごめんね呼び出して」
「大丈夫よ!あの後どう?」
「お義母さんの嫌味がなくなったわ……それだけで随分と気が楽になった……依子のおかげよ……ありがとう」
「良かった!きっぱりと言ってやって正解ね!」
「これね……甘くて美味しいと評判のチーズケーキよ……良かったら食べて」
「わあ……私ったらラッキーね?ありがとう、千津子!」
千津子はチーズケーキの入ったケーキボックスを依子に渡すと、喜んで受け取った。
その頃、美智子は昭恵の家でお茶していた…。二人は他愛もない話、近況報告、面白い話、いつものように話している。そして話の流れから、出産の時のことを昭恵は思い出し、美智子に話す。
「出産の時のこと……いつも、美智子には感謝してるわ!ありがとう」
「感謝って……そんな、大げさよ?」
「旦那の代わりにあなたが支えてくれたじゃない……あの時、あなたがいなかったら不安で仕方なかったの……」
「私は何もしてないわ……」
「いいえ、私にとってあなたは救世主よ」
「私の方こそ、昭恵のおかげで今の夫と出会えたわ…感謝してる…」
美智子は昭恵にお礼を言われて複雑な気持ちだった……。本当は昭恵の子を別の子と取り違えてしまったのだから。美智子は心の中でお願いだから、出産の時の話は辞めて……!そう感じていた。
「そういえば……私と同じ日に出産した女性がいたって話、前にしたことあるわよね?」
「ええ……」
昭恵がそう問いかけた……。ちなみに美智子は娘を取り違えた、もう一人の母親が千津子という名前であることは知っていたが、面識はなく、昭恵と親しくしていることまでは知らなかった。
「その女性とはね……今でも友達のように付き合っているの。」
「そうなのね……それは良かったわ。」
この時、美智子は相手が千津子とは知らず、素直に喜んでいた。
一方で、敦士のスーツからは不倫相手、恭子の使っていた香水がにおう。昭恵は昨日と同じにおいだ……と思い、敦士に問う。
「あなた、やっぱり香水変えたの?」
「変えてない……」
「そうなの?気のせいかしら……」
「人混みの中、歩いたから…そのせいかもな」
敦士はすました顔で誤魔化すが、昭恵は首をかしげてスーツを見ていた。
そして……敦士は恭子から電話で呼ばれ、昭恵に会社に忘れ物を取りに行く……と嘘をついて、出かける。
敦士は恭子とホテルでいつものように密会する……。そして恭子は敦士に抱きつく。
「敦士さん……待っていたわ……」
「恭子……実は話があるんだ」
敦士は恭子をそっと離した。
「話って何?今日の敦士さん、なんだか顔が怖いけど」
「しばらく、会う頻度を減らそう……」
「どうして!私は敦士さんと毎日だって一緒にいたいのに……」
「香水のことで、妻に俺たちの関係がバレそうになったんだ……」
「奥さんなんて、私にはどうでもいい!」
「やめてくれ…そんな言い方はしないでくれ……」
「だって……敦士さんは、私と奥さんと、どっちが大切なの?」
敦士は困惑した……。恭子は敦士に二択を迫った。