第11話 夫の不倫
ホテルのベッドの一室、女性はバスローブを着て眠っていた。
そう……女性は敦士の不倫相手で恭子と言い、敦士とは8年間もの不倫関係だった。 敦士が昭恵と結婚する2年前にスナックのお店で知り合う。
恭子はスナックのママをやっており、敦士がお客として何回か来るうちに、二人は自然と惹かれあっていた。
そして、敦士は寝ている恭子を起こさないように、部屋を出ようとするが……後ろから悲しそうな声が聞こえる。
「敦士さん……帰らないで」
「ごめん……妻に怪しまれるから」
恭子は敦士の手を握りながら言う。
「じゃあ、明日も会って……」
「分かったよ……愛してる」
二人はハグをして帰った。
その夜……昭恵は娘の明美と敦士の帰りを待っていた。 明美は待ちくたびれた様子で言う。
「お父さん、遅いね~」
「そうね……敦士さんどうしたのかしら、ご飯冷めちゃうわね……先に食べましょうか?」
「うん!もうお腹ペコペコ!」
その時、敦士が帰ってきた。明美が敦士に嬉しそうに抱きついてきた。
「昭恵、明美ごめんよ…仕事が長引いてさ…」
「そうだったのね…お疲れ様…」
昭恵はこの時、疑うことはなかった。まさか、夫がホテル帰りだったとは知らず……
そして夕飯を済ませ、昭恵は敦士のスーツをしまってあげると、スーツから微かに香水の香りがしたが、いつものと違っていた……
昭恵は疑問に思い敦士に問う。
「あなた、香水変えたの?」
「え?香水?変えてないけど」
「いつもと違う香りだわ?」
「そ…そうか?」
敦士は焦る。自分ではあまり気が付かなかったのだ。
一方で千津子はお茶を飲みながら本を読んでいると、伸子が来て言う。
「千津子さん、昨日の友達には呆れたわ……はぁ……あなたとは話したくもないわ」
「そうですか……」
千津子は適当に聞いてるフリをして、その場をやり過ごす。伸子はこれ以上、何も言わなかった。
それからしばらくの間は伸子による視線はきつかったが、嫌みは格段と減った。依子のおかげだ。千津子は鼻歌を歌いながら料理をしていると佳純は言う。
「お母さん~良いことでもあったの?」
「ちょっとね!今日は佳純の好物のすき焼きよ!」
「やった~」
鍋はグツグツと音が立っていた。千津子の作るすき焼きは沸騰した出汁に白菜、ネギ、糸こんにゃく、焼き豆腐、お肉を全て入れて、煮込ませる。
そして保や伸子、真知子が食卓で待っていた。
「今日はすき焼きよ!お義母さんも好きですよね?」
「ふん!」
伸子は不貞腐れた顔をしながら無視をする。それを見て、真知子が言う。
「あれ?お母さんどうしたの?もしかして義姉さんと喧嘩でもしたの?」
「真知子は黙ってて…」
「そうだ、お前は黙ってろ…」
「兄さんまで何よ!」
真知子は余計なことを言い、保と伸子に叱られる。
その頃、宏は美智子と自宅で食事をしていると尋ねた。
「美智子……そう言えば透が言ってたのだが、取り違えって何なのか?って聞いてきたよ……」
「取り違え?……どこかで覚えてきたんでしょ?」
美智子はドキッとしていた。取り違え……その言葉を聞いただけで、美智子にとってはあの時のことが思い浮かぶ。
赤ちゃんの泣き声……火傷……何とか宏の前では平静を装う。
「透も好奇心が旺盛だな?気になった言葉を全て聞いてくるからな!」
「そうね……でも、子供の言葉は真に受けなくても良いわよ」
「そうだな」
宏は息子の好奇心をポジティブに捉えていた。 美智子の不安は常に続いていた。