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逆風ダイヤモンド  作者: 七色雨
序章
6/10

5.5話 好きだよ、凪くん


「凪くん、どうしたんだろう……」


 急に外に行くって教室に忘れ物でもしちゃったのかな。それでもあんなに急ぐ必要ないのに、あっ、でも財布とかだったら一大事だよね。泥棒する人とかいるかもしれないし……。

 でも……こんな雨だと絶対危ないよね。もしなにか飛んできたのが頭に当たったら……。


「行かないと……ダメ、だよね……」


 鞄から取り出したレインコートを着ていると周りから不思議そうな視線が飛んでくる。こんな天気なのに外に出る理由なんてないから当たり前だ。

 そういえば凪くんってレインコートも着ずに行ってたけどそんなになるぐらい大事な物忘れちゃったのかな。もしかして昔好きだった人との思い出の品とか……想像するだけですごい凹むからやめよう……。


「やば……」


 想像通り外は荒れ狂っていた。正直立っているのもやっとだけど校舎までなら行けないことはない。強い向かい風に押されながらも何とか一歩、一歩と確実に進んでいく。

 そうやって校舎のドアまで辿り着いたのに何故だか向かい風が未だに吹いてるような、そんな錯覚が全身を襲っていた。


「ん……」


 なんだか感覚が気持ちが悪くて肌に張り付いていたレインコートをその場に脱ぎ捨てる。向かい風も少しマシになった気がする。

 それより校舎の中に入れて凪くんを安全に探せるようになったんだからそっちに集中しないと。


 そう意気込んで窓を見ながら走っていると拍子抜けするぐらいあっさり見つかった。グラウンドの端、それもこっちに近いところで凪くんは立っていた。

 何しているんだろ。もしかして探し物があそこに飛ばされちゃったのかな。そうだとしても今は危ないし早くこっちに来るように言わないと。


「凪く……」

「おーい戸澤ー! 俺、野球やるよー!」


 耳を疑う一言が私の胸に突き刺さった。


(えっ……何言ってるの凪くん?)


 冗談で言った言葉と信じたい。信じたかったけど凪くんの顔は私が今まで1回も見せられたことのない、とても輝いた笑顔だった。


「やっぱりー!?」


 凪くんの宣言を聞いた戸澤君は服が汚れるのも気にせずに跳びはねた。凪くんもよく見ると泥まみれで、レインコートなんて着ていなかった。

 二人とも汚れるのを気にした私と違ってなりふり構わなかったんだ。お互いの想いに応えるためにそんなこと気にしなかったんだ。


「ていうか名前いつわかったー!?」

「島根代表って言った辺りで思い出したー!」

「うわ、すげぇ記憶力ー!」


 やめてよ戸澤君。私と凪くんの間に何にもなかったこと証明しないでよ。一目ぼれだから話した時間もなんにもなかったってわからせないでよ。

 これから色んな思い出作るはずだったのに邪魔、しないでよ……。


『あのっ! 伊佐、凪くん……であってるよね……?』

『合ってるけど、何?』

『その、バドミントン部って興味ない? 一人で入るの勇気いるから、本当にお遊びぐらいの気持ちでいいからさ。一緒に入ってくれないかな?』

『……別にいいけど』


 でも……誘った時を振り返っても凪くんは苦い顔をしてた。私は勇気を出したつもりだったけどあんなの自己満足でしかなかったんだ。

 うまく行くわけがなかった。最初から一方的な愛の押しつけでしかなかったんだから。


「……大好きだよ、凪くん」


 届かない想いを声にして……違う、こんなのただ呟いただけ。伝えようとしてなかった、また自分を満足させたいってだけの自己満足。

 バトミントン部に凪くんを勧誘したのも、もしかしたら凪くんを好きなことも全部全部全部自己満足かもしれない。だとしたら本当に私は最低な人間で凪くんの人生に関わる資格なんてこれっぽっちもない。


「うっ……あぁぁ……」


 膝から力が抜けて、涙がポロポロと落ちる。その音も無情に雨はかき消す。まるで凪くんにとっての自分が有象無象でしかない事を表しているような、そんな気がした。


(……この台風さえなければ私は凪くんと一緒になれたのかな)


 そんなわけもないのに恨み言を荒れ狂う空に向けた。

 次回まで少し空きます。

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