表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

Ⅶ されど推理は腹が減る

〝探偵〟が犯人を指させば、殺人事件での死はなかったことに出来る。


オルフェ・コクト(♂)……本作の主人公。探偵保険会社を辞め、現在フリーランス。

ユースティア(♀)……スラム育ちの少女。とあるアイテムのせいでオルフェの助手になる。

シマジ・ミサムネ(♂)……女装の清楚系高校生。クリスティ探偵保険会社所属。




 事件時の監視カメラ録画を見せてもらったが、サファイア伯爵と誰かが口論をしており、すぐ後に苦しむ声、現場の作品が何体か倒れ、被害者が崩れ落ちる音。

 ダイイングメッセージも最後の言葉も残さず息を引き取る。


 死因は腹に突き刺されたナイフの傷による出血多量。


 監視カメラには音声のみで、全て死角で犯行が行われた。

 口論の相手は見付っていないし、扉を閉めて出ていってもいない。

 完全な密室で声だけを残した犯人……。


「探偵方、頭脳を回転させるにも食事は必要でしょう。どうぞ、食堂にお集まり下さい」


「賛成! 私お腹ぺこぺこだよ~。行こ、オルフェ。ミサちん」


「タダ飯ほど美味いもんはないからな。しかもこんな豪華な屋敷のご飯だ。さぞかし良いものが出るんだろうな」


(ボク)は結構。ここには仕事で来ているんだ。一時も気を抜くわけには……」


 ミサムネのお腹が鳴った。

 オルフェたちは微笑ましい視線を向けて来る。

 だから目も合わせないように真っ赤になった顔を隠した。


「少しだけならご一緒しよう」


 恥ずかしがっているミサムネの手を引くオルフェとユースティアだったが、「自分で歩ける! 子供扱いするな」と拒否られてしまった。

 セバスチャンに連れられ、食堂へ。


 やはり多くの使用人が出迎えてくれた。

 ステンドグラスの部屋、絵柄を見なければ教会とも見違えるほどに神聖的な空間。

 その中心に新約聖書を思わせるような長机。


 魚料理がずらっと。


「……サファイア伯爵は魚・菜食主義(ペスカタリアン)だろうか?」


「いや、この魚たちはおそらくクロダイみたいな性転換する種類だ。食事にまで趣味を取り入れているらしいな」


(ヘン)なの。でもお魚さん好きー。ここ座る。オルフェ、となりとなり」


 引き気味な探偵ふたりを気にせず、椅子に座ったユースティアは勝手に食事を始めてしまった。

 しかもかなりの速度で平らげていく。

 まるで登山中行方不明になった人物がようやく温かい食事にありつけたような。


「とりあえず、俺たちもいただくか」


「……うん、そうしよう」


 ふたりも座り、オルフェは目をつむって頭を軽く下げ、ミサムネは手を合わせる。

 料理を口に運ぶが、なかなかイケる。

 魚料理しか並んでいない以外は高級レストランだ。


「失礼ながら、私からおふたりにお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


 席には座らず三人の食事を見守っているセバスチャンが恐縮そうに手を挙げた。

 探偵ふたりはこくりと頷く。


「先ほど、お坊ちゃま──ディップ様との会話を耳にして、気になったのですが。もし仮に、この事件が未解決になった場合はご主人様やこの屋敷はどうなるのでしょうか?」


「少なくともすぐにあの息子に伯爵の全遺品が引き継がれることはないよ。未解決遺体は遺体保存施設に送られる。被保険者は〝最高3年間〟で保証は全く付かない。でもクリスティ探偵(うちの)保険会社に加入しているから施設には〝最低3年間〟、その間はこの屋敷の維持費や使用人の給金などは保証させてもらうよ。──いつ生き返っても困らないようサポートする」


「未解決のまま、3年が経った場合はどうなるのでしょうか」


「家族が施設でかかるポイントを負担しなければならない。拒否したら遺体は火葬されるが家族に罪はない。しっかり遺品は相続出来る」


「遺言などが残っていた場合は。──例えば「私の保存期限が過ぎても維持ポイントを支払うように、でなければ遺品・ポイントを一切相続しない」という文面があったとします」


「相続出来るぞ。この世界では探偵の推理が法だ。その探偵が未解決にしたのに3年後にあっさり解決なんて事例は少ない。解決するか希望薄な事件の為にポイントを支払い続けるのは苦しいしな」


「でも遺書自体に効力はあるかな。実際、遺体廃棄後に事件が解けて家族に多額の賠償請求がなされたなんて事例もあるくらいだからね」


 なるほど、とセバスチャンは深く頷く。

 それから胸ポケットに入れていた封筒を取り出す。


「実はご主人様から遺書を預かっておりまして。私が殺害された時には探偵方にもこれを伝えて欲しいと」


 ふたりの探偵は目の色を変える。

 未だにユースティアは食事に夢中だけど。


「では、──「この屋敷に財宝を隠した。何代も遊んで暮らせるような財宝の山だ。謎を解いたものにだけ、その場所を教える。そして手に入れた者に全てを相続させる。この決定は誰が異議申し立てをしようとくつがえらない」──」


 そしてこう続く。

 〝鏡の中の金色の明け方、燃え滾る火をかき分けて戦士は進む、それらが指し示す我らが故郷に宝は眠る〟。




「お、この刺身美味っ」


「えへへ、フライも! 幸せ〜」


「……あの、聞いてます?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ