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Ⅳ あべこべこべあ

〝探偵〟と呼ばれる人物たちが犯人を指させば、殺人事件での死はなかったことに出来る。


オルフェ・コクト(♂)……本作の主人公。探偵保険会社を辞め、現在フリーランス。

ユースティア(♀)……スラム育ちの少女。とあるアイテムのせいでオルフェの助手になる。

シマジ・ミサムネ(♂)……女装の清楚系高校生探偵。クリスティ探偵保険会社所属。





「いらっしゃいませ。ようこそ異性装の館へ」


 エントランスの扉を開けて、オルフェ達を出迎えたのは女装・男装の使用人数十人。

 美男美女を揃えて、とかではなく。

 美女からおばちゃん。

 美男からひげもじゃ。


 ここの主人であるサファイア伯爵はそういう()の持ち主というよりも〝そういった世界観〟をこよなく愛しているのだろう。

 世間は彼を変人とひとくくりにするだろうが、使用人の中に恥じらいや嫌悪の表情が見えないことから少なくとも共感は得ていたようだ。


「飾ってる絵画も随分変わっている」


「ほう。保険会社所属の探偵殿は頭がお固いようだ。〝変わっている〟という感性は結局のところ多数決で決まった〝普通〟があるから浮き彫りになるだけで、ハンバーグが嫌いな子供だっているしピーマンが好きな子供だっている。普通が推理の軸にあっては解ける事件も迷宮入りだぞ、ミサムネ」


「わかる。いつも少数派に立たされてる私から言わせてもらうとほんとそれ。良い事聞いたね、ミサちん」


(キミ)達も変わり者って事はよく分かった。──「ちん呼び」はやめてほしい」


 エントランスに飾られている異質な絵。

 入って左手には『果実を食して裸の男を誘惑している男装の悪魔』、右手には『調理器具のおたまとフライパンを持った女装のローマ兵士』。

 そして床には(女性シンボル)マーク。

 入り口からは逆向きになっているが。


「あまりにもあべこべだ」


 お手上げだと言わんばかりにミサムネはため息をつく。

 その息使いを耳にしたのかミニスカメイドのセバスチャンは視線を後ろに送った。


「拒否反応を起こすお客人は少なくありません」


「あ、申し訳ない」


「いえ、責めたのではありませんとも。当然の反応です。信仰が強ければ特に。我々は自分の在り方に意義があるだとか不満をぶつけるとかではなく〝あべこべにしたほうが楽しいから〟という理由でご主人様に仕えております。だからそういう団体からの避難も多い。少数派(マイノリティー)を異質として表現した芸術で金を稼いでいる屋敷と呼ばれているくらいです」


「つまりサファイア伯爵は多方面で恨まれていたと」


 複雑そうにセバスチャンは微笑んだ。

 ふたりの会話を聞きながらオルフェとユースティアは思う。

(ここに否定的なミサムネが一番女装が似合っているんだよなぁ)


「その殺人予告の差出人にはなにか心当たりはないのか? その団体からとかは」


 オルフェの質問にセバスチャンは足を止めた。


「差出人は律儀に名前を残しました。〝呼び名〟が正しいでしょうか。──……()()()()()()


「──────な!?」


 戸惑いをみせるミサムネ。

 その名を聞いて左手を隠すユースティア。

 バレたらどうすると彼女の頭をはたくオルフェ。


「……迷宮殺人の王。まさかここで出会えるなんてね。この事件を解決したら(ボク)の大出世も夢じゃない。第一席から称号ホームズを奪い取れる!」


「金田一も立派な探偵だと思うぞ」


「だとしてもふけをまき散らす不潔探偵より英国最高の名探偵の称号の方が(ボク)に相応しい」


「スケキヨに謝れ!」


 ユースティアは不安そうな眼差しでオルフェを眺めていた。

 表向きミサムネとじゃれ合いのような掛け合いをしているが『ヨモツヘグイ』と聞いて彼の瞳の色が明らかに変わったのだ。


「呼び名の通り、冥界で人間を(はりつけ)にしている殺人鬼でございます。探偵(あなた)方が指をさしていただくだけで、我が主だけでなく、遺体保存施設にいる多くの被害者が息を吹き返すことが出来るのです」


「おいおい、まるで魔王討伐を依頼される勇者みたいじゃないか」


「だとしたら聖剣は(ボク)が抜く。このふたりにはお帰り願いたいね」


「確かにミサちんは()持ってるもんね」


「や、やめろちびっこ!」


 セバスチャンはミサムネの言葉に首を横に振り否定する。


「それは出来ません。この方はオルフェ・コクト様。探偵階級第一席。称号はホームズ。この時代におけて彼以上の探偵はいません。──オルフェ様が解けなければ、この事件も他と同じく永遠に迷宮入りでしょう」


「──(キミ)が、第一席」


 その場の空気が固まる。

 ミサムネ、使用人達の視線はオルフェへ向けられた。


「え。まさかオルフェって実はすごい人?」


「ふふん。そーだよ」


 当の本人は自分の助手に向けてドヤ顔Vサインである。

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