Ⅲ 異性装の館ともうひとりの探偵
〝探偵〟と呼ばれる人物たちが犯人を指させば、殺人事件での死はなかったことに出来る。
オルフェ・コクト(♂)……本作の主人公。探偵保険会社を辞め、現在フリーランス。
ユースティア(♀)……スラム育ちの少女。とあるアイテムのせいでオルフェの助手になる。
──異性装の館と呼ばれるお屋敷がある。
オルフェの探偵事務所から電車で二駅、徒歩1時間ほどの距離。
サファイア伯爵と呼ばれる芸術家が住んでおり、彼の趣向なのか使用人は全員異性装(女装・男装)をしている。
その趣向は彼の芸術にも表れており、お屋敷の庭にはナース服を着た少年が二匹の蛇が巻き付いた棒を掲げている像やバニー服を着た雷神ゼウス像(髭はしっかりとある)──極めつけはチャイナ服の『我が子を喰らうサトゥルヌス』像。
なにが、とは言わないが圧巻である。
いろいろとたくましい。
「うげぇ」
舌を出して拒否反応を見せるユースティア。
「なんか、胸のあたりがもやもやする。おじのふくらみは目に毒だよ」
「芸術というのは観た者の感情を揺さぶることが出来れば勝ちだ。良いものであれ、悪いものであれ。なんだかシュールで良いじゃないか」
オルフェは気に入ったのか笑っている。
特にナース服の少年の像の下に立ち、のぞく。
ほほう、これはなかなかに。
「ショタコン?」
「というより俺もサファイア伯爵同様、異性装には少しばかりうるさい。少女が家族を守る為に男として戦いにおもむく物語が好きでね」
「恥ずかしげもなく恥ずかしいこと言っちゃうとこ、私きらいじゃないよ」
オルフェはきょとんとした顔を浮かべる。
大真面目だったようで、ユースティアは面白くなって笑った。
「なんだ。僕以外に探偵が呼ばれていたとはね。──どこの探偵保険会社所属か知らないが、君たち帰って良いよ」
現れたのはセーラー服姿のおかっぱロングの清楚系お嬢様。
背が高く可憐だが、ボーイッシュな声をしている。
「帰れって、俺はサファイア伯爵本人から依頼の手紙をもらっている。内容は殺人予告が届いたようで、犯人を捜して欲しいと──」
「残念だが〝予告〟では無くなったよ。先ほどサファイア伯爵は殺された。密室殺人でね。だから彼が加入している探偵保険会社から僕が派遣されたわけだ」
生意気な微笑みを向けて来る。
オルフェは苛立ちより「可憐だ」という感情が勝る。
「……なぜまだいる?」
「受けた依頼は投げ出さないタチでね」
「だから事件は僕がもらい受けると言っているんだ。クリスティ探偵保険会社所属。探偵階級:三十二席。シマジ・ミサムネ。称号:金田一。──知っていると思うがこの〝称号〟というのは迷宮殺人を解いたことのある真の探偵にしか与えられない物さ。安心して──むにゅう!?」
「……むにゅう?」
突然、破顔するミサムネ。
顔を真っ赤にして下に視線を向けている。
オルフェも視線をそこに合わせた。
ミサムネのスカート中央部をパンパンと手を触れているユースティア。
「オルフェ。この子、ツイてる」
「鳥〇明風に確かめんでいい。……なるほど。女装男子高校生探偵か。悪くない、むしろ良い」
「ち、違っ! ──ここは異性装の館なのだろ? だったら女装が正装じゃないのか」
「手紙には好きな服装でって」
「~~~~~~なんっ」
より一層赤面する。
今のミサムネの頭にやかんを置いたら湯が沸くかもしれない。
ユースティアはしゃがみこんでしまったミサムネの方を叩き「どんまい」と励ましている。
なんかさっきまで八頭身の美少女だったのに二頭身のちびキャラに見える。
不思議だ。
──鈴の音。
三人の視線が音の方向へ。
そこには渋く、白髪の ──。
「ようこそおいでいただきました。オルフェ様、ミサムネ様。そこの少女はどちらかの助手様でしょうか。ワタクシはこの屋敷の執事長をしているセバスチャンと申します」
「──ミニスカメイドのイケオジだと!」
屋敷の玄関から現れたのは可愛らしいフリフリだらけのメイド服を着た筋肉隆々の初老の男性。
異質あまり目を見開いてしまうオルフェ。
「どうか、密室殺人の謎を解き明かし、サファイア伯爵……我が主を生き返らせていただきたい」