ⅩⅢ 声 声
〝探偵〟が犯人を指させば、殺人事件での死はなかったことに出来る。
オルフェ・コクト(♂)……本作の主人公。探偵保険会社を辞め、現在フリーランス。
ユースティア(♀)……スラム育ちの少女。とあるアイテムのせいでオルフェの助手になる。
シマジ・ミサムネ(♂)……女装の清楚系高校生。クリスティ探偵保険会社所属。
「まずサファイア伯爵は密室で殺害された。鍵はかかっており、窓もひとつもない。〝犯人はどうやって逃げたのか?〟。──その〝前提〟自体がミスリード。もし逃げていなかったら」
「わかった! 犯人は石像の中に隠れてやり過ごした。空洞の物があればそこに隠れておく。こんなに沢山の石像があるんだもん。全部は調べられないよね。みんながいなくなったら屋敷から出て行けば──」
ユースティアが元気よく手をあげるがオルフェに頭ぽんぽんされて制止されてしまう。
「面白い推理だが、ざんねんだ。第一・第二の事件はふたつとも監視カメラに映らない犯行だった。犯人が同一人物であるのなら監視カメラの位置を熟知している者に限られる。その時点でここの住人の犯行だろう。──ましてや、犯行が可能なのはひとりしかいない」
「えーと……伯爵は密室殺人。推理素人の私が考えても分かんないし……第二の事件、金持ちの息子は遺書のなぞなぞを解いたけどそれは罠で……」
オルフェは指はとある人物に向けられる。
密室だった作業部屋、血の池に浮かぶひとつの遺体。
この異性装の館の主人サファイア伯爵に。
「自殺は最も身近な殺人。探偵オルフェの名のもとに罪人の首を差し出す。──サファイア伯爵とその息子ディップを殺害した犯人はこの男だ」
数台のドローンが入り口から入って来る。
『探偵コード001オルフェ・コクト。階級:第一席。称号:ホームズ。──承認。犯人指定。検索。──承認。この人物が犯人で間違いありません。』
犯人が確定し、被害者は生き返る。
血の池は徐々に被害者の身体に戻っていく。
まるで時間が巻き戻っているような光景。
呼吸をし、かっと目を開く。
「かはは、オレが用意した謎は解けてしまったか。解いたのはどっちだ? 名探偵オルフェ君か女子高生か、はたまたそこのちんちくりんか」
「スティだよ!!」
「僕はオトコだ」
年齢は50代ほどで中肉中背、白髪がやや多い人物。
芸術家として知られている彼は生き返った途端高々に笑い出す。
「ご主人様、おはようございます。正解されたのはオルフェ様です」
「おお、セバスチャン。ご苦労」
深々と頭を下げる執事長。
それを労うように右手を上げるサファイア伯爵。
「ふむ。推理は途中かな? もし終わっているとしてもオレが聞いていなかった。細かい所まで頼む」
「まずこの部屋の鍵を閉め、監視カメラに映らない場所で作業を始めた。しばらくして口論のひとり芝居をし、ナイフを自分に刺して。地面に伏した」
遺体の近くには倒れて手が砕けている石膏の像があった、その像にナイフを固定し刺したのなら他殺と言われても不自然じゃない角度でナイフが通るだろう。
倒れる拍子に像も壊してしまえばその証拠はなくなる。
「はいはい! オルフェ疑問点あり。録音の口論は間違いなく伯爵と女性の声だった。あそこにはふたりいたはずだよ」
「身体を動かした時に出る微かな音、それがひとつしかなかった。ましてや伯爵は女装していない」
「オルフェ、君はいったいなにを言ってるんだ」
「ここまで混沌を愛する人物だぞ。トイレ標識はマークを逆、使用人・芸術品は全員異性装。当の本人がしていないのは少し違和感がある。別の方法で表現しているのでは? 例えば男女の声を使い分ける──両声類だとか」
「ただの癖の場合。自分も異性装するとは限らないだろう。それに両声類……証拠がないよ」
「男が女の声を出そうとすれば声帯を操作する為に筋肉や息使いを変える必要がある。あの録音にはその不自然さが残っていた」
サファイア伯爵は嬉しそうに微笑む。
「結構完成度高いと自負していたんだがな。ヒッチコックの映画のようにはいかんようだ」
中年の男性から綺麗な女性声が出る。
この場の全員の脳がバグったことは間違いない。
「じゃあ次はお前の〝本命〟、息子ディップの殺人について話そうじゃないか」
「ほう?」
オルフェがそう言うとサファイア伯爵は怪訝そうに眉をひそめた。
きっとその殺人は知られるはずがないと確信していたのだろう。