Ⅹ やはり犯人は探偵の助手だった?
〝探偵〟が犯人を指させば、殺人事件での死はなかったことに出来る。
オルフェ・コクト(♂)……本作の主人公。探偵保険会社を辞め、現在フリーランス。
ユースティア(♀)……スラム育ちの少女。とあるアイテムのせいでオルフェの助手になる。
シマジ・ミサムネ(♂)……女装の清楚系高校生。クリスティ探偵保険会社所属。
最終確認としてオルフェとミサムネは監視カメラを全て確認する。
やはりユースティアがエントランスに向かったすぐに事件は起こっている。
庭に設置されたカメラに姿を映さず消えた。
状況証拠だけをみれば、ユースティアが怪しい。
もし犯人でなかったとしても遺体を確認してオルフェに伝えに行かず、どこかに消えたわけなのだから。
──しかしオルフェは首を横に振る。
彼女ではない。
屋敷の使用人が全員エントランスに集められた。
ほとんどがふたり以上で行動していたり監視カメラに映っていたため、事件時刻のアリバイは成立している。
「オルフェはこの事件が解けたと言った。悪いけど、まず僕の見解から話させて欲しい」
ミサムネが一歩前に出る。
「構わない」
「未だ変わらず君の助手が犯人だと思っているよ。一番の理由は伯爵が君に依頼状を出していたという点だ。彼は僕たちクリスティ探偵保険会社との契約がある。殺人予告が届いたとしてその調査だって契約内容に含まれる。フリーランスの探偵に依頼するよりも安上がりだろう」
「それは殺人予告の差出人がヨモツヘグイだったからで」
「そこだ。だからサファイア伯爵は探偵階級第一席である君に依頼状を書いた。なにかしらの情報網で伯爵は君とヨモツヘグイの関係を知ったのではないかな。この探偵ならば必ずや迷宮殺人の王を打倒してくれると期待した。──でもそれは仕組まれた事だ。差出人はユースティア、探偵の助手。ヨモツヘグイとの関係を漏らしたのだって彼女かもしれない」
「忘れていることがあるぞ。奴との関係性をスティに伝えたのはミサムネと同時、ついさっきのことだ」
「助手なら君の事務所に出入りするはずだ。情報はそこで得たと考えるべき」
「動機がない。密室殺人は明らかな動機と殺意があるものだ。スティにはそれがない」
「彼女、貧困街育ちだろう? 鍵開けの知識、監視カメラを見付ける視野の広さ、盗み癖。どれをとっても行儀の良い育ちとは思えない。ポイント欲しさで人を殺す、ありきたりな動機だよ」
オルフェは思わず渋い顔をしてしまう。
この推理を聞いて、自分が第三者なら納得していたかもしれない。
実際、使用人たちは頷いている。
「第一席の探偵の助手になり、大富豪に殺人予告を送る。大富豪が第一席の探偵を頼りにし、依頼状を書く。誰にも疑われずに屋敷に侵入することが出来たというわけだね」
「サファイア伯爵の密室殺人は俺たちがこの異性装の館に到着する前に起こったものだ」
「君の目を盗んで屋敷に忍び込んで伯爵を殺害し、ピッキングで鍵を閉めておく。それから君と合流し屋敷に入る。鍵が外から開けられた形跡がないと言ったのはユースティア。僕たちは愚かにも彼女の言葉を信じた。君が冷静を失い扉を破壊するのだって計算のうち、君と僕が言い争っている間に証拠を全て回収した。あのだぼだぼの服はポイントウォッチャーのポイント変動時の画面点灯や回収品を隠す為の物」
辻褄は合って──いや、この推理には穴がある。
密室殺人の部屋から出る唯一の扉の前には監視カメラがあり、事件時刻誰も出入りしていない。
『君の目を盗んで屋敷に忍び込んで伯爵を殺害』というのも強引すぎる。
ミサムネだってそれは分かっているはずだ。
「スティのポイントウォッチャーはずっと0ポイントのままだ。欲しいものは盗むし、盗みを依頼した報酬だって食料とかだろう。ポイントへの執着はない。膨大なポイントとリンゴひとつが落ちていたら迷わずリンゴを選ぶはずさ」
「そっか。──なら犯人は彼女だ」
あっさりと納得したミサムネは使用人の列からひとり指を刺す。
男装した細い線の女性執事、第二の殺人の第一発見者である。
「彼女だけが僕の推理を聞いてほっとしていた。自分に疑惑の目が向けられていないと知ったから。──探偵ミサムネの名のもとに罪人の首を差し出す。彼女が犯人だ」
窓からドローンが数台入って来る。
『探偵コード105シマジ・ミサムネ。階級:第三十二席。称号:金田一。──承認。犯人指定。検索。──承認不可。この人物は犯人ではありません。犯人指定失敗によるペナルティにより10万ポイントの没収と今後この事件の犯人指定が出来なくなりました』
ミサムネのポイントウォッチャーが点灯する。
探偵が犯人を指定する際にもリスクが生じるのである。
誰が定めたルールかは知らないが、これがあるせいで関係者全員を指さして犯人を見つけ出すというのが出来ない。
「はあ、やっぱり違うか。ざんねん」
「……ギャンブラーかよ」
可愛い顔してかなりの肝の据わっていた。