Ⅸ パズルの全ピースは手のひらに
〝探偵〟が犯人を指させば、殺人事件での死はなかったことに出来る。
オルフェ・コクト(♂)……本作の主人公。探偵保険会社を辞め、現在フリーランス。
ユースティア(♀)……スラム育ちの少女。とあるアイテムのせいでオルフェの助手になる。
シマジ・ミサムネ(♂)……女装の清楚系高校生。クリスティ探偵保険会社所属。
第二の被害者であるこの屋敷の息子ディップ。
身体の硬直具合、熱を確かめるについさっき息を引き取った。
胸に巨大な針のようなものが突き刺さっており、変色から見て毒が塗布されていたと思われる。
第一発見者である使用人以外の悲鳴を聞いていないため、即死か声が出ない状態で苦しんだのだろう。
胎児の姿勢にさせられているのを見るに、犯人あるいは協力者が先ほどまでここにいた。
「監視カメラは?」
「いえ、入り口外にはありますがエントランスには……」
「そんなのはどうでもいい。お前が見たのは本当にスティだったのか?」
「スティ様というのが、あの少女のことでしたら間違いありません。この先にでしたら監視カメラがありますのでスティ様がここに向かって来ている事を確認出来ると思います」
「殺人犯でなくても、名指しされた共犯者も同じく処罰される。逮捕はもちろん。ポイントだって解決探偵に確定5割持っていかれるぞ」
「わ、私は違います! ただ通りすがっただけで」
オルフェが睨むと第一発見者の使用人は震える。
それをミサムネが間に入って止めた。
「君だって彼女の事を全て知っているわけじゃないんだろう? だったら犯人の可能性を捨ててはいけない。彼女は協力者かヨモツヘグイ本人かも──」
それ以上言うなとオルフェはミサムネの肩を掴む。
痛みを感じる程ではない強さで。
「それはない。盗みは出来ても殺しはしない」
「同業者として言わせてもらうけど、その決めつけは良くないよ。急ごしらえの助手をどうして信じられる? 正義の女神と名前が似ているとしても、人は罪を犯す」
「名は体を表す、なんて言葉があるが」
「なら君の名前はひどく皮肉的だよ。オルフェ」
「言ってくれるな。──分かっている。事件を解決してスティの疑惑を晴らすだけだ」
オルフェは床に座り込み考える。
あべこべばかりの〝異性装の館〟で起こった、ふたつの殺人。
密室の消えた犯人。
被害者が残した屋敷の財宝。
「悲鳴があったというのに君の助手はここに来ていない。それが答えじゃないのかな。──彼女、ヨモツヘグイは逃げた。またしても未解決事件を残して」
屋敷の庭の三つの銅像。
エントランスにはふたつの絵画。
床の♀マーク。
「そもそも君の助手になったのだって隠れ蓑として最適だったからじゃないのかな。探偵階級第一席の助手を誰も疑わない」
「ミサムネうるさい。スカートめくるぞ」
「──……めくってから言わないで欲しい」
「下着も本格派なんだな」
「や、やめろ!」
ミサムネのスカートをぱたぱたとさせる。
相手は顔を真っ赤にしてお怒りだが、やめない。
別に助手のことを悪く言われた腹いせとかではない。
「俺は謎が解けたぞ。お前はどうかな、もうひとりの探偵クン」
「嘘だね。今の情報量で解けるわけがない。相手はあのヨモツヘグイだぞ」
「言っていなかったが、今回の事件はヨモツヘグイの犯行じゃない。名前だけ借りたお粗末な事件さ」
「ヨモツヘグイじゃないって……どうして言い切れる」
「そりゃあ、俺は世界一の探偵の称号を背負っているからな」
オルフェには犯人がヨモツヘグイではないと確信できる証拠があった。
ユースティアがつけている黒いポイントウォッチャーである。
ヨモツヘグイの最初の事件で置いて行かれた唯一の証拠。
本来ポイント変動時以外ポイントウォッチャーの画面は消えており操作するにも本人が使用しなければならない。
しかしその黒いポイントウォッチャーはポイント確認画面で固定されており本人以外も見ることが出来る。
しかしサファイア伯爵の事件時刻前から後のポイント変動はなかった。
変わらず18,884,319,461,124Pのままである。
「さあ、ここの住人を全員集めてもらおう。──【蘇生推理】を始める」