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7 類は友を呼ぶ

 早朝。アリスは心地良い気分で目を覚ましベッドから体を起こした。

 カーテンを引いて窓を開けると朝日が照らし小鳥のさえずりが聞こえる。

 山奥生活の利点は誰にも縛らない自由な時間を得られる点だ。


 アリスは紅茶でも一杯飲みたい気持ちになったが自分で淹れられないので我慢する。


「今日も素敵な日になりますように」


 何となく口にすると恥ずかしいもののそれが彼女の本心である。

 そんな時、屋敷の前に黒く輝く四輪車が到着した。栗狐の押しに負けて即日一括払いでランドクルーザーを購入したのである。一応は屋敷の私物で貸し出しという体であるが、アリス自身乗る気もないのでメイドにあげたつもりでいた。


 そんな車内からざわざわと声がする。そして栗狐と黒雪が降りて来るのでぼうっと眺めていると後部座席から白髪の美少女が縄でぐるぐるに縛られて栗狐に引っ張り出されていた。


「ぐわー! やめろー! わたしは働きたくないー!」


 白髪少女が叫ぶので栗狐が彼女の口にガムテープまでする始末。

 完全に誘拐犯のそれであったが黒雪(くろゆき)は何もみない振りをして屋敷の門を開けていた。


 アリスは大慌てで着替えて玄関まで走った。


「一体何事!?」


『アリス様、おはようございます』


「おはようなのじゃ~」


「おはよう。じゃなくて! その子に何してるの!?」


「ふごー!」


 白髪の美少女が栗狐(りこ)の手から逃げようと必死に暴れているが完全に縛られているので無駄であった。頭にはケモミミ、お尻の方には猫の尻尾が逆立っている。怒り心頭である。


「うむ! 新しい人材じゃ!」


 栗狐が全く悪気もなさそうに笑顔を見せる。アリスは内心こいつヤバいなと思ったがぐっと堪えて縛られている少女の口のテープを剥がした。


「栗狐てめー! ふざけんな! わたしは絶対に働かないからな!」


 ふーふーと息を荒げる少女にさすがのアリスも肩をすくめた。


「栗狐、この子を無理矢理連れて来たの?」


「そう! 無理矢理! わたしの意思じゃないの! 助けて!」


 猫耳少女が涙目で訴えて来るのでアリスも少しドキドキしながら栗狐の方を睨んだ。


「何を言うか。1日ずっと引きこもって家賃も滞納していい加減にするんじゃ!」


「えーまだ1カ月くらいじゃん」


「半年じゃ」


「あれーそうだっけ?」


 てへぺろという感じで悪びれる様子もなく猫耳少女がケラケラ笑う。

 これまた色んな意味で変な人が来たと思うアリスだった。


「それでこの子があなたの推薦人?」


「そうじゃ。いい加減この馬鹿を働かせなくてはいけないと思っていたのじゃ」


「働かない! 絶対働きません!」


 猫耳少女の意思はとても固くまるで話にならない。

 アリスが黒雪の方を見るも苦笑いするだけだった。


「栗狐、さすがに本人の意思がないのに無理でしょ」


「こんなのサボる為の言い訳に過ぎぬよ。こやつはいつもこう言って何かとサボり癖があるのじゃ。故にここで一度厳しくしておく必要がある」


 いつになく栗狐の態度が厳しい。実際家賃をそれだけ滞納しているのが事実であるならば、それもかなりの問題である。


「やだやだー! わたし帰ってゲームしたいー! メイドなんてやだー!」


 右に左にと暴れる彼女をどうすべきかとアリスが悩む。

 しかしせっかく来てくれた人材をこのまま手放すのも惜しい。

 そして昨日栗狐に言われた従業員に寄り添うという言葉を思い出す。


「あなたゲームが好きなの?」


「3度の飯よりゲームだー。帰って快適ゲームライフがわたしを待ってる!」


「へー。因みに私はゲーム配信もやってるんだけど使ってるPCのスペックはメモリもCPUも最高クラスよ。おまけにVRゲーム機も全部揃えてあるしそっちは超大画面で堪能できるわ。他にも完全防音で外部からの音は気にならない」


「何そのゲーマーの理想みたいな場所は!?」


 案の定猫耳少女が食いついた。


「もしここで働いてくれたら休憩中や仕事の合間に貸してあげてもいいかなぁって思ってたけど働きたくないなら仕方ないわよね」


 と一歩引いた発言をする。これには黒雪も策士だなと思った。

 猫耳少女は唸りながらも必死に考えている様子だった。


「ぐ、ぬ、ぬ! 最近オンゲがラグくてめっちゃ気になってたし、前からやりたかったゲームも出来るって超最高なんだけど。いやいや、その為にメイドになって働くとか無理でしょ。待つのよ、そのついでにお金も貰えるんだぞ。いい話だ」


 自分の中の天使と悪魔と戦っている様子である。これはもう一押しあればよいとアリスは考えた。


「今なら専属のシェフが3食とおやつも用意してくれるわ!」


「乗った!」


 猫耳少女は勢いよく声をあげた。アリスは専属のシェフ(黒雪)に目配せして全て任せたという感じだったが、本人は嫌な顔をせずに『任せて』と紙に書いた。


「じゃあまずは自己紹介ね」


「その前に縄解いてくれよ」


 栗狐がやれやれと言いながら縄を手刀でばっさりと切ってしまう。

 何かやばいことしてるとアリスと黒雪が思ったが口にはしなかった。


 猫耳少女は開放されたことでピョンピョンと飛び跳ねる。


猫白(ねこしろ)だよ~。趣味はゲーム! この前FPSの大会でベスト8まで行ったんだよ~! よろしくぅ!」


 ダブルピースで快活な笑顔を見せる少女に本当に引きこもりだったのかが疑わしくも思われている。


『FPSって何ですか?』


 ゲームをしない黒雪が疑問を訴える。


「要約したら銃で撃って殺し合うゲームね」


『不穏!』


 ゲームをしない黒雪からしたら信じられないが界隈からすれば有名ではある。


「ゲームはゲームだから実際に人を撃つ趣味はないから安心してね~」


『黒雪です。よろしくお願いします、猫白さん』


「クロユキね。おっけー。じゃあユキちゃんって呼ぶね~」


 フランクな猫白は黒雪の話し方を気にもせずにニコニコしている。

 アリスは意外と社交性があるのかなと思った。


「私がこの屋敷の主人のアリスよ。これからびしばし頑張って頂戴」


「うーっす」


 何ともやる気のない返事である。明らかに対応の違いにアリスがムッとする。


「ちょっと何よその返事は!」


「働くのはほどほどにしますねー。わたし、肉体派じゃないんで。バリバリのインドアなんで」


 本当にゲームだけが目的らしい。それはそれで清々しくもある。


「はぁ。とりあえずメイド服に着替えて来て頂戴。黒雪、案内お願いするわ」


『はい』


 そうして猫白と黒雪が姿を消した。


「ねぇ、栗狐。あの子大丈夫なの?」


 明らかにやる気がなかったのでアリスは不安だった。ただでさえ目の前の狐少女も家事が全くできないのにこれ以上問題児が増えるのを危惧している。


「ああいう奴じゃがやる時はやるよ。ネコ科故にマイペースなのは仕方あるまい」


「あの子もあなたの知り合いというか同胞だったの?」


「いいや。あやつも色々あってな。じゃから昔のことはあまり詮索しないでやってくれ。気丈に振る舞っているがあれで繊細な所もある」


「分かった。とりあえず栗狐もメイドリーダーなんだから早く仕事覚えてよね」


「ぼちぼちじゃな!」


「あんたねぇ」


 そうこう話してる間に猫白がメイド服を着て戻って来た。

 その純白なメイド服に映えた白髪が最高の中和を起こし、ロングスカートの底からわずかに覗く尻尾が芸術点を加速させ、まさに最高のメイドが君臨した。


「やばい。逸材が来たわ」


 アリスは無言でスマホを構えた。が、黒雪の一件があったのでぐっと堪えつつだが欲望に抗えなず狭間で苦悩する。


「撮りたいの? 仕方ないねー。いいよ」


 本人の許可が下りたのでアリスが激写する。


「一枚1000円ね」


 その一言にアリスの手が止まる。完全に後出しじゃんけんである。


「ほれほれ、遊んでないで働くのじゃ」


「へーい」


 アリスと3メイドは屋敷の2階の廊下にやって来た。前は一階を終えたので次は2階だ。

 黒雪が掃除のあれやこれを説明していたがその途中で猫白は欠伸をしながらはたきを手に取った。


「綺麗にしたらいいんでしょ? 任せなさいって」


 大丈夫なのかと不安に思う一同であったが猫白は物凄い速さでてきぱきと動いて掃き掃除や雑巾掛け、モップ掛けをものの10分で終わらせてしまった。しかもたった1人で。

 栗狐と黒雪が2人で作業して30分はかかったのに物凄い違いである。


 アリスは試しに窓際の淵に指を走らせたが埃はなかった。


「えっ。あなた掃除屋か何か?」


 あまりの手際のよさにアリスが驚く。


「いいパフォーマンスはいい環境から。汚ねぇ部屋でゲームできるわけないじゃん」


 さも当然であると言わんばかりにサラッと言う。猫は綺麗好きと言われるがその影響もあるかもしれない。


「でも引きこもりでしょ? 何でこんなに動けるの?」


「長時間ゲームするって結構大変なんだよね。だから鍛えてるんだよねー」


 それはアリス自身もよく分かっている。数時間の配信してPCの画面を見続けるのは集中力がかなり必要である。だがその為に体まで鍛えようとは思いもしなかった。


「えっ、猫白って有能じゃない」


 引きこもりと聞いていたのでリハビリが必要と思っていたが全然そんなことはなかった。

 すると猫白は親指を立てる。


「アリス嬢、騙されてはいけないぞ。こやつの最大の目的は仕事を早く終わらせてゲームをするじゃからな」


「あー」


「アリス様言ったもんね~。やらせてくれるって。わたし信じてるからね~」


 全ての原動力はそこにあるようだ。だが実際仕事も早くて終わらせてくれるならばアリスに文句はない。当然彼女の願いは聞くつもりであった。


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