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Treasure Days  作者: 舟津湊
7/10

蝉と姉

「ああ暑い、ああウルサイ。」



 ケンが居間で氷をたくさん入れたカルピスを飲んでいると、姉が二階から下りてくるなり、そう言って、窓をピシャリと閉め、エアコンのスイッチを入れた。途端、最近鳴き始めた蝉の声が遠くなった。


 ケンは、このくらいの暑さなら、外の風が部屋に入って来る方が好きだ。



「あ、私にもカルピスつくって。相談に乗ってあげるから。」


 キッチンのテーブル席についたケンのお姉さんは、唐突な提案をしてきた。


「え? 相談なんて特にないよ。カルピスはつくるけど。」



 ソファーから冷蔵庫に向かうケンの背中に声をかける。


「そうかしら。最近なんか考え込んでんじゃん。」



 ケンはカルピスと氷が沢山入ったコップとストローをテーブルに置き、姉の斜め前に座る。



そして、やっぱり何か考え込んでいる。



「相談・・・無くはない。」


「ほら。言ってみ。」



「クッキーのリベンジしたい。」


「はい?」



「それから・・・僕の気持ちは変わらないってこと、伝えたい。」


「なんじゃそりゃ?」



 どうせ姉に相談しても、ろくなアドバイスをもらえないだろうからと、ケンは説明をかなり端折った。



「ああ、相手はクミちゃんね。」



 どき。



 実はお姉さん、ケンたちが小一の時、仲よくしているところを学校内で何度も目撃していたし、お弁当の話や、山での遭難未遂の話はお母さんからいろいろ聞いていた。にしても、察しがいいというか、ちょっと怖いというか・・・



「ケン、あの子にクッキーあげたことあるの?」


「う、うん。」


「ああ、そう言えば、あんたにクッキーもらったことがあったね。あん時か。・・・それはお馬鹿ね。あの子、食物アレルギーが出るんでしょう?」


「え、うん。お弁当を一緒に食べてたのに。・・・うっかり忘れてた。」


「クッキーは小麦とか卵とか使ってるからなあ・・・ん?」



 ケンの姉さんは、ストローをくわえたまま、窓の外をぼーっと見ている。



「高校の同級生、『みさと』って子の家がケーキ屋さんなんだけど。そのお店、確かアレルギーの原因となる材料は使ってないって言ってた。あとで電話して、クッキーも売ってないか聞いてみようか?」


「ありがとう。・・・でも、できれば自分で作ってみたい。」


「おう、それは随分ハードル上げてくるわね・・・まあいいわ。聞いてみる。」



「ありがとう。で・・・もう一つの相談だけど。」


 ケンは思った。姉の気遣いはありがたいが、さすがにこれは難しいだろう。


 というか、姉にこんな相談するのは無茶苦茶恥ずかしい。



「クミちゃん、もうすぐ転校しちゃうんだっけ。変わらないことを伝える、か・・・難しいね。だいたいね、みんな『ずっと忘れないよ』とか『手紙交換しようね』なんて調子のいいこと言うけど、まあ、だいたい三日坊主ね。愛は、距離には勝てないわ。」



・・・ケンのお姉さん、マンガかラノベか、何の受け売りかわからないけど、ミもフタもないことをおっしゃる。



「あんた、絵とか工作とか得意でしょ。せっかくだからその特技使って何とかしなさいよ。」


 参考になったような、ならないような。



「姉ちゃん、ありがとう。何とかやってみる。」


「お礼。」


 お姉さんは、ケンの目の前に手を差し出す。


「は? カルピス作ったけど。」


「そんなもんじゃ済まないでしょ。」


「じゃあ何?」



「これから、クミちゃんとの間で起きること、うまくいってもいかなくても、洗いざらい全部報告すること。」



 蝉×姉=超超ウルサイ。

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