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落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!  作者: ユーリ
2章

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行くために


次の日、教室へ行くと、昨日とは打って変わって、バルドはひどく元気がなかった。


「えっと⋯⋯、どうしたの⋯⋯?」


困った顔のコンラットの横で、机に突っ伏したままのバルドに僕が声を掛ければ、力のない声で呟く。


「大会……見に行けないかもしれない……。親父はそこに行くだろうけど、一緒には行けないって言われた……」


「どういう事?」


あまりにも要点だけの説明に、思わず問い返す。すると、バルドは大きくため息をつきながら答えた。


「親父に付き添いを頼んだんだ。だけど、護衛任務で会場にはいるけど、俺と一緒に行動するのは無理だって言われたんだ……」


絶望しきったような声を上げるけれど、既に同じ話を聞いていたのか、ネアが面倒くさそうな様子で声を掛ける。


「仕事なら仕方ないだろ。それに、それなら俺達だけで行けば良いだけだろう」


落ち込んでいる理由がわからないとでもいうように、素っ気ない様子で言葉を掛ければ、それに反論するように声を荒げた。


「だから、俺達だけで行こうと思ったんだよ!なのに、母さんが付き添いがいないと駄目だって言うんだよ!前回みたいに、禁止区域に勝手に行かれたら困るって!!」


悔しそうに呟くバルドだったけれど、それを聞いていた僕は、どこか納得してしまった。


(前回の件で、完全に信用がなくなってるんだね……)


僕がそんなことを思っていると、バルドは少しだけ言葉を詰まらせながら言った。


「……たぶん、入らないのに!」


(たぶんなんだ……)


力強く言った言葉に、そんなことを思いながら、僕は問いかけた。


「誰か、他に頼める人はいないの?」


「聞いたけど、母さんは友人達と行くみたいだし、兄さんも予定があるみたいで駄目だったんだよ……」


肩を落とす様子を見ると、さすがに少し可哀想になる。それに、たしかに前に問題は起こしたけれど、付き添いがいないと駄目と言われるのは、ちょっと厳しすぎる気もする。そんなことを思っていれば、ネアがいつもの調子で言い放った。


「そんなのは無視して、俺達だけで行けば良いだろう」


「前回の事があるので、勝手な事をするのはどうなんでしょう……」


バルドに同情はあるようだけれど、それとこれとは違うとばかりにコンラットが止めた。だけど、このまま見捨てるのは忍びないと思ったのか、静かに声を掛ける。


「私の両親に、予定が空いてないか聞いてみましょうか?」


「頼む!」


コンラットが口にした言葉に、バルドは即座に頷きながら返事を返していた。その様子に、僕からも声を掛けた。


「僕も……駄目もとで、父様に聞いてみようか?」


「頼む!」


父様は優しいから、例え仕事で忙しくても、少しくらいなら時間を作ってくれるかもしれない。そんな淡い期待を込めて言うと、今度は、さっきよりも必死な声で返ってきた。だけど、それとは別に、妙に力の入った声が響く。


「ご一緒出来るなら、ぜひ私からもお願いしたいです!」


「う、うん……」


当人のバルドよりも、何故かコンラットの方が真剣に頼んでくる。その事実に、少しだけ戸惑いながらも、屋敷へ帰ってから、僕は父様に聞いてみた。でも、返ってきたのは、期待していた答えじゃなかった。


「悪いけど、その日は外せない予定があって、付き添ってあげられないんだ」


「えっ……」


父様が仕事で忙しいとは知っている。それでも、断られるとは思っていなかっただけに、思わず声が漏れる。すると、落ち込んだ僕の様子を見ていた兄様が、間を置かずに口を開いた。


「それならば、私が父上の代わりに付き添います」


そう言って名乗りを上げてくれた兄様だったけれど、父様は、ゆっくりと首を横に振る。


「その日、オルフェには少し頼みたい案件があるんだよ」


「……」


その一言を口にした途端、空気が変わる。そして、兄様から向けられる無言の視線は、普段よりもわずかに冷たかった。


(……怒ってる?)


そう思うくらいには、はっきりとした圧がある。父様もそれを感じているのか、ほんの少しだけ気まずそうな顔をするも、それでも言葉は止めない。


「その内容の説明もあるから、後で執務室に来て欲しい」


「……分かりました」


わずかな間のあと、兄様はそう答えた。


声は落ち着いていたけれど、不満がないわけではないのは分かる。それでも、父様が僕に甘いことを、兄様もよく知っている。だからこそ、それでも優先する理由があるのだと理解したのか、それとも内容を聞いてから判断するつもりなのか、兄様はそれ以上、何も言わなかった。


「そういう事だから、今回は叶えてあげられそうにない」


「……はい」


仕方ないと分かっていても、どうしても落ち込まずにはいられなかった。それでも、断られた以上、もう無理には頼めない。


(みんなに、なんて言おう……)


そんなことを考えながら、その日は眠りについた。


「ごめん……。やっぱり、無理だった……」


次の日。教室に遅れてきたバルドにそう伝えると、少し間を置いてから、沈んだ声が返ってきた。


「……そっか。でも、忙しいなら仕方ないな……」


強がるような言い方だったけれど、それでも完全に落ち込んでいるわけではないあたり、少しは覚悟していたのかもしれない。だけど、その分だけ、余計に申し訳なさが残る。だから、僕は視線を逸らすようにして、傍にいた二人へと声を掛けた。


「二人の方は、どうだったの?」


「すみません。私の家も無理でした。何故か、その日は予定があるそうで……」


コンラットが申し訳なさそうに答える。


(……同じ日、なんだ)


偶然にしては出来すぎている気もするけれど、今はそこを考えている場合ではない。


「ネアは?」


僕が話を振ると、いつも通りの平然とした声が返ってきた。


「聞いてない」


「いや、聞いて来いよ!何で一人だけ聞いて来ないんだよ!」


その言葉には、さっきまでの落ち込みようが嘘のように、バルドでさえも思わず突っ込む。だけど、ネアは顔色一つ変えずに続ける。


「アイツに付き添いなど、頼める訳がないだろう。それこそ、笑われる……」


わずかに苛立ちを滲ませた声で言った言葉に、前にネアの屋敷へ行った時のことを思い出した。それだけに、僕達はそれ以上何も言えなくなったけれど、その一言で、張り詰めていた空気が、良くも悪くも少しだけ緩む。


「はぁ⋯⋯。さて、どうするか……」


仕切り直すように、ため息混じりにバルドが呟く。だけど、すぐに答えを出せるわけもなかった。それもあり、ただ時間だけが、静かに過ぎていく。


「やっぱり、俺達だけで行くしかないか……」


「私達は構いませんよ。怒られるのはバルドだけですからね……」


「あぁぁっ!?」


バルドが苦し紛れのように呟くけれど、コンラットの一言に、バルドが頭を抱える。


(僕達は、別に禁止されないからね⋯⋯)


バルドと違って、行き先さえ言えば許可がおりると思う。それだけに、バルドだけが何の解決策が見えないことに、空気が重くなりかける。そんな中、僕は一番簡単な選択肢を口にした。


「……諦める?」


「兄貴と約束したからには、絶対行く!」


それは予想通りの即答だった。


(……だよね)


僕も簡単に諦めるとは思っていなかっただけに、内心でそう独りごちる。


(本当に怒られる覚悟で、ネアの言う通り、僕達だけで行くしかないのかな……)


そう思い始めた、その時だった。


「どうかしたんですか?」


声を掛けてきたのは、リオ先生だった。どうやら、僕達が揃って難しい顔をしていたのが気になったようで、心配そうな顔をしていた。それだけに、一度顔を合わせてから、僕は口を開いた。


「実は……」


これまでの事情を順を追って説明すると、最後まで聞き終えたリオ先生が、ふっと笑みを浮かべる。


「それなら、私が付き添いますよ」


「いいのか!?」


思いがけない言葉に、バルドの顔が一気に明るくなる。その変化が分かりやすすぎて、思わず少しだけ笑ってしまいそうになる。けれど、これで全部解決するかもしれないという期待を込めて見る。


「はい。頼ってくださいと言ったのに、あまり役に立てませんでしたからね」


どこか申し訳なさそうに、リオ先生は微笑んだ。でも、コンラットがすぐに否定する。


「そんなことないですよ」


(そもそも、先生に頼るようなこと自体、あまりなかったし……)


そう思いながらコンラットの言葉に頷いていると、リオ先生は一度視線を伏せてから、静かに続けた。


「ですが……商会の金で成績を買った、という手紙が届いた時も、私は何も出来ませんでしたから」


その言葉に、少しだけ空気が静まる。それだけに、僕は安心させるために口を開いた。


「それなら、犯人はもう分かってるって、父様が言ってたから大丈夫です」


僕がそう言うと、リオ先生の目が、ほんのわずかに見開かれた。


「犯人が……分かっている?」


思っていた以上に驚いた様子に、僕は内心で首を傾げる。


(父様なら、関係者には話していそうな気もするけれど……先生には、伝わってないのかな?)


そんな事を思いながらも、僕は問に答えるように口を開く。


「はい。今度また何かあったら、相手とちゃんと“お話”するって言ってました」


「……そうですか。それなら、安心ですね」


そう伝えると、リオ先生は一瞬だけ言葉を詰まらせながらも、すぐに、いつもの柔らかい笑みを浮かべながら言った。その間が、ほんの少しだけ気になったけど、今はそれよりも、目の前の問題が解決したことの方が大きかった。


「それで、どこに集まる!?」


バルドの弾けるような声で、話が前に進んでいくけれど、そこには、さっきまでの沈んだ様子は、もうどこにもない。その勢いに引っ張られるようにして、僕達は待ち合わせの場所や時間を決め始めた。

お読み下さりありがとうございます

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