見送り(アルノルド視点)
私は、リュカが乗った馬車を見送った後、エレナの気付かれないように、視線だけをカルロに向ける。カルロは、それだけで私の意図を理解して、リュカが乗った馬車を追って行った。
「私のは、街の中では呼ぶ事も出来ないので、父上が羨ましいです」
「そんな事はない。私のは、移動面に関しては無理だからな」
オルフェが呟く声に、返事を返しながら、エレナに聞こえないように、オルフェと小声で会話を続ける。
「だから、何か問題が起こっても、すぐに駆けつけられない可能性がある。その時は、オルフェに頼みたい」
「分かりました。しかし、それでも時間はかかります。やはり、召喚方法をリュカに教えておいた方が良いのではないですか?」
「そうだな…。学園の方針なだけで、教えて悪いわけではないからな」
一定の学年になるまでは、学院に召喚獣を連れて行くのは禁止なため、呼び出せないように、召喚方法に付いて教えていない。それに、選択科目が始まる頃に授業をした方が、学院にとっても都合がいいというのもある。
選択科目がない中で授業をやると、召喚獣を持たないE クラス以下にいる生徒の殆どが自習か、休みにしなければならなくなる。だが、街の住民に授業内容を合わせていると知られると、不満を持つ貴族を出てくるため、この情報は公にはされていない。
「何を話しているの?」
リュカが学院生活を、問題なく過ごせるように、オルフェと対応策について小声で話していた私に、エレナが不思議そうに聞いて来た。
「いや…オルフェに任せた仕事に付いて、聞いていたんだ…」
エレナからは、あまり過保護になり過ぎるのはよく無いと言われたばかりだったので、話題を逸しながら会話を続ける。
「オルフェに、追加で頼みたいのだが、良いだろうか?」
「大丈夫です。父上と違って、それほど仕事はありませんから、時間を作ることは出来ます」
そもそも、オルフェには、あまり仕事をさせる気はなかったんだかな…。だが、私が城から帰ると、執務室に残していた仕事がほとんど片付いていたりする。おそらく、ドミニクがオルフェに任せられる仕事を選別して回しているのだろう。
オルフェだって、まだ子供なのだから、もう少し我儘を言って、遊んでいても良いと思うのだが…。爵位だって、継ぎたくないのであるなら、他に押し付ければいいだけだ。
確か、嫁いでいた姉にも子供がいたはずだ。甥だったような気もするから、押し付ける相手としても申し分ない。それに、私が遊んで暮らせるだけの金を稼げばいいだけなのだから、オルフェが働く必要だってない。
「仕事が多かったら、減らすから何時でも言いなさい」
「父上は、18歳という歴代最年少で、宰相になったと聞きましたが…?」
「なる必要があったからなっただけで、私の真似をする必要はない」
宰相になるのが、目的への最短距離だった事と、無能を排除する必要があったからなっただけで、面倒な仕事をオルフェに押し付けるつもりはない。
「私も、もう子供ではないので、仕事をする事に問題はありませんので大丈夫です」
「そうだな…」
私にとっては、オルフェもまだまだ子供なのだが、あまり子供扱いするのは良くないと、部下達から忠告を受けているからな…。
私は、度々、部下達と対応策に付いて会議を開く事がある。子供扱いをして、オルフェが口を聞いてくれなくなった時も、子供扱いをせずに、大人として接するようにと言われ、その通りにしたら口を聞いてくれるようになった。
今回のリュカの件だって、試験に対する不安を感じている者に対する対応策に付いて、部下達と会議を開いた。その際に、否定はせず肯定して励ませと言われ、その通りに対応をして問題はなかったと思う。
「なら、オルフェに頼む。何かあれば、城にいる私に連絡してくれ」
城で仕事をしている間も、何時、カルロから連絡が来てもいいように、重要案件や、私が居なければ回らない仕事から片付けていく。
オルフェは、試験などに対しても、不安そうにした事などなかった。だから、クラス分けの試験だけで、あれだけ不安そうにしているリュカの姿を見ると、学院生活は大丈夫なのだろうかと心配になる。オルフェの時も心配で、しばらくカルロを側に付けていたけれど、ここまで心配はしていなかったような気がする。
私は、自分の分の仕事を定時まで急いで片付けると、部下達にも帰るように伝えて、部屋を後にした。
この後の夕食の席で、リュカにカルロを付けていた事がエレナにバレてしまい、叱られてしまう事を、私はまだ知らない。
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