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入学


試験が終わってからというもの、僕の頭の中は、ずっと試験の結果のことでいっぱいだった。


夜になっても、布団に入ると結果のことばかり考えてしまって、なかなか眠れない。食事の時間になっても、あまり食欲がわかず、そんな僕を屋敷のみんなが心配しているのは、自分でも分かっていた。


「リュカ、本当にそんなに心配するようなことじゃないよ。所詮はクラス分けなんだから……」


「父様には分かんないよー!!」


父様が心配してくれていることや、励ましてくれていることは分かっている。でも、胸の不安はなくならない。


「アルは、学期末の試験で赤点を取るかもしれない不安とか、分からなそうだものね……」


「……」


母様の言葉が図星だったのだろう。父様は何も言い返せず、気まずそうに視線をわずかに逸らした。そんな沈黙を埋めるように、兄様が静かに口を開いた。


「リュカが落ち着かなくて、不安なのは分かる……」


「兄様は、分かってくれる!?」


「え?ああ……リュカが不安を感じている、ということは……分かる」


「なら、兄様も同じだね!!」


「あ……ああ……」


兄様は、戸惑いと罪悪感が混ざったような顔をしながらも、僕の言葉を受け止めるように頷いてくれた。けれど、その空気の意味が分からない父様だけが、僕達の輪に入れず、少し取り残されたようだった。そして、その横顔はどこか寂しそうで、ただ黙って、その後の僕達の話に耳を傾けていた。


入学式の日。初めて着る学院の制服に、自然と背筋が伸びる。


黒を基調としたブレザーに、緑色のネクタイ。鏡に映る制服姿の自分を見て、ようやく「学院に入学するんだ」という実感が湧いてきた。その気持を抱えたまま、父様達と学院に着くと、受付で一つの封筒を渡された。


生徒数が多いため、全生徒の家庭に個別で知らせを送るとなると、莫大な費用がかかってしまう。そのため、クラス分けの結果は掲示板に一覧として掲示されていた。もっとも、貴族に対してだけは例外で、個別にクラス分けの表が手渡される。


胸の奥が落ち着かないまま、中を開けられず封筒をぎゅっと握りしめていると、父様が僕に声をかけてきた。


「リュカ、あれだけ頑張っていたんだから、大丈夫だよ」


「はい!!」


輪に入れなった日から、父様は少しずつ僕を励ましてくれるようになっていた。僕は、その言葉に励まされ、ドキドキしながら封筒を開き、中の紙を見る。


「……Aクラスだ!!」


紙を掲げて、胸を張るように誇らしげに報告すると、二人も一緒に笑みを浮かべて、自分のことのように喜んでくれた。


「やったわね!!」


「リュカが頑張ったおかげだ」


「良かったな」


「はい!!」


胸の奥に、ぎゅっと溜まっていた不安が、一気にほどけた気がした。その後、入学式に出るため講堂へと移動すると、案内された席は、兄様の卒業式の時と同じ、三階のボックス席だった。


そして、今回、入学者代表として挨拶をするのは、次席合格者らしい。名前を呼ばれて現れた子は、少し伸びた緑色の髪を紐で結い、細長い目の奥には緑の瞳が覗いている。そして、どこか神経質そうで、近寄りがたい印象を受けた。


(首席の子じゃないんだ?)


聞いていた話とも違っていたため、そんな疑問を抱きながらも、最初は真面目に話を聞いていた。けれど、学院長の話が始まる頃には、クラス分けに対する緊張が解けたこともあり、ここ最近まともに眠れていなかった疲れが一気に押し寄せてきた。


気付けば、途中から、うとうとと意識が揺れ始めていたこともあり、寝ていても目立たない席だったのは、正直ありがたかった。そして、その日はクラス分けの発表と入学式だけだったため、午前中だけで終わってしまった。


翌日。僕は制服を着て、馬車の前に立っていた。


馬車に乗り慣れていても、一人で乗るのは初めてで、少しだけ不安になる。けれど、これからは、他の子と同様に一人で学院に通わなければいけない。


「やはり、私も学院まで一緒に行こうか?」


そんな僕に、父様は優しく声をかけてくれるけれど、母様は嗜めるように声をかけた。


「アル……それだと遠回りで仕事に遅刻するって、昨日も話したでしょ?それに、過保護過ぎるのも良くないわ」


「だが……」


「大丈夫です!一人でも行けます!!では、行ってきます!!」


むしろ、父様の方が、僕よりも不安そうだった。その様子を見ていると、不思議と僕の心は落ち着いてくる。だから僕は、父様を安心させるように声を張り、続けざまに挨拶をした。すると、母様は僕に視線を向け、笑みを浮かべながら返事を返してくれる。


「行ってらっしゃい」


「何かあったら、すぐ学院まで駆けつける」


「……気を付けてな」


母様の後に、父様が少しだけ真剣な声で言い、兄様もそれに続くように声をかけてくれた。そんな家族に手を振りながら馬車に乗り込む。すると、僕を乗せた馬車はゆっくりと、学院へ向けて屋敷を後にした。


学院までは、馬車で三十分ほどかかる。一人で話相手ももなく、僕は揺れる馬車の中で外の景色を眺めながら、これから通うことになる学院のことを考えていた。


僕は、これから最低でも十年間、この学院に通うことになる。


少し長い期間ではあるけれど、この学院生活は、ただ“学ぶ”だけでなく、“自分の進む道を見つける時間”でもある。そのため、留年はあっても、飛び級は存在しない。また、冒険者ギルドや職人と協力することで、さまざまな職業訓練を受けることができ、選択教科では多くの分野を学べるようになっている。


その結果、卒業後は身につけた技術を活かして働くことができるため、学院を卒業した者は、年齢に関係なく、周囲からは大人として扱われるのだ。


そんな兄様は、卒業したその日から、父様が経営していた店の一部を任されていた。慣れない仕事に苦労していると言いながらも、その表情はどこか楽しそうだ。そして、前以上に忙しいはずの兄様は、僕と過ごす時間を変わらずに作ってくれていた。


(……やっぱり、兄様は凄いな……)


まだ自分には遠い世界だと思いながら、僕は馬車の外へと視線を向けた。すると、揺られながら進むうちに、いつの間にか学院の門が見えるところまで来ていたようで、建物の一部が見え始めていた。


今日から、始まる学園生活に、もちろん不安もある。でも、それ以上に、楽しみでもあった。


(まずは……友達を作れるように、頑張ろう!)


僕は馬車の中で、これから始まる日々に、そっと気合を入れた。

お読み下さりありがとうございます

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