入学
試験が終わってからは、試験の結果ばかりが気になって、本当に落ち着かなかった。そのせいで、夜もなかなか眠れなくて、食欲もわかなくなった。そんな僕を、屋敷の皆が、心配してくれていたのは、僕にも分かってはいた。
「リュカ、本当に、そんなに心配するような事じゃないから、所詮はクラス分けだから…」
「父様には分かんないよー!!」
心配してくれているのは、分かっているけれど、不安なものは不安なんだよー!
「アルは、学期末の試験で、赤点を取るかもしれない不安とかも、分からなそうだものね…」
「……」
母様の言葉に、返す言葉がなかったのか、父様は何も言わず、僕達から少し視線を逸していた。
「リュカ、落ち着かなくて、不安なのは分かる…」
「兄様は、分かってくれる!?」
「え?あ…不安を感じているかは…分かるぞ…」
「なら、兄様も同じだね!!」
「あ…ああ…」
父様だけが、僕達の輪に入れずに、1人、後ろに取り残されていた。
入学式の日、初めて来た制服を着ながら、学院へと向った。黒を基調としたブレザーを着て、緑色のネクタイを締めていると、学院に入学するんだと実感する。
学院に着くと、クラスが書かれた紙を受付から渡された。生徒数が多いため、掲示板で表示すると、名前を探すのだけで時間がかかるから、貴族は個別で渡すらしい。
「リュカが、あれだけ頑張っていたんだから、大丈夫だよ」
「はい!!」
父様は、あの次の日から、僕の事を励ましてくれるようになった。僕は、ドキドキしながら封筒を開けて中の紙を確認した。
「Aクラスでした!!」
紙に書かれた文字を見せながら、僕は、誇らしげに父様達に報告する。
「やったわね!!」
「リュカが、頑張ったおかげだね」
「良かったな」
「はい!!」
その後、行われた入学式では、次席で合格した子が、代表挨拶をしていた。少し伸びている緑色の髪を、紐で結っており、細長い目から見える緑眼からは、性格がきつそうな印象を受けた。
最初は、真面目に話しを聞いていたけれども、学院長の話しがはじまると、安心したのと、最近、眠れていなかった事もあって、途中から寝てしまっていた。
兄様の卒業式の時と同じボックス席だったから、寝ていてもバレていなかったのは、ありがたかった。それにしても、学院長の話しには、睡眠効果でもあるんだろうか?
その日は、入学式だけだったため、登校初日は、午前中だけで終わってしまった。
次の日、僕は、学院へと向かうため、制服に身を包み、馬車の前に立っていた。学院まで、馬車で送って貰うにしても、これからは、1人で学院に通わなくてはいけない。でも、馬車に1人で乗るなんて、初めてだから少し不安もある。
「やはり、私も学院まで、一緒に付いて行こうか?」
「アル…。それだと、あまりにも遠回りで、仕事に遅刻しちゃうから無理だって、昨日も話しをしたでしょ?それに、学院に入学するんだから、過保護過ぎても駄目っても言ったわよ」
「だが…」
「大丈夫です!1人でも行けます!!」
僕よりも、不安そうにしている父様を見ていると、何だか不安も、少し落ち着いてくる。
「では、行ってきます!!」
「行ってらっしゃい」
「何か合ったら、すぐに学院まで駆けつけるからね!」
「気を付けてな…」
馬車の窓から、父様達に手を振りながら屋敷を後にした。ここからだと学院まで、馬車で30分くらいかかる。そのため、馬車に乗った後は特にやる事もなく、馬車から外を眺める事しかする事がない。
これから僕は、最低でも10年間は学院に通うことになる。学院には、成績によって留年はあるが、飛び級制度などはない。それは、その期間に、自分にあった職業や、やりたい事を見つけるための期間も含まれているため、認められていない。
その間に、学院では選択教科などで専門的知識を受けられたり、冒険者ギルドや街の職人に協力して貰い、職業訓練なども受けられる仕組みになっている。なので、卒業後はそこで身に付けた技術を持って、故郷に帰る者や王都でそのまま働く者などさまざまいる。
そのため、成人が18歳となってはいても、学院を卒業した者は、立派な大人として、周りから扱われる。
兄様は、学院を卒業した日から、父様が経営していた店の1部を任されて、忙しそうにしていた。それでも、兄様は僕といる時間を作って、一緒にいてくれた。
その時に、慣れない事が多く、思ったように仕事が進まないと言っていたけれど、兄様は何処か楽しそうにしていた。それにしても、卒業してすぐに店の経営者って、兄様は凄いな、僕には絶対無理だ…。
馬車に揺られながら道を進み、ようやく学院の門が見えてきた。学院の門が見えると、これから僕の学園生活が始まるのかと感じる。学院生活に、不安もあるけれど、楽しみでもある。まずは、友達を作れるように頑張るぞ!!
僕は、馬車の中でこれから始まる学園生活に、気合をいれるのだった。
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