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あの後


事件があった後、僕達は予定の旅行を切り上げて、屋敷へと帰る事になった。その帰りの馬車では、父様とではなく、今、兄様と一緒に乗っている。


僕は今まで、兄様には嫌われているのだとばかり思っていた。だけど、ラクスの町で起こった事件のおかげ?で、それが誤解だったという事を知った。


兄様は、父様みたいに優しいけれど、それを上手く表現出来ない、不器用な人だった。最近では、書庫で一緒に過ごす事も、多くなっていたけれど、それを知ってからは、兄様と2人きりになっても、普通に接する事が出来るようになっていた。


ここに来るまでの馬車の中でも、兄様と色々な話をした。でも、その途中、兄様は何度か、馬車が揺れる原因を作っている道の様子を見ては、眉間にシワを寄せていた。


外は、昨日の夜から振り始めた大雪で、道を全て覆い隠していた。何でも、ここ最近見ないほどの大雪が降ったらしい。


だから、兄様の召喚獣であるイグニスが、先行して進んで貰う事で、道の上に積もった雪を溶かし、馬車が通れる道を作って貰っていた。だけど、雪が溶けてぬかるんだ道は、車輪が溝にはまったりするためするため、それだけでも馬車の進みを遅くしていた。


王都に近くなってからは、雪も少なくなり、ようやく道も良くなって来て、普通に進めるようになった。


もしも、今回の事件もなかったら、今頃ラクスで、みんなと雪で遊ぶ事が出来たのにとも思ったが、何も起こらなかったら、兄様に対する誤解もそのままだったから、事件が起こった方が良かったのか?何事もなかったかのように、平然と何時も通り振る舞う兄様を見ていると、宿で起こった事が夢だったような気にもなるが、右手を見るとしっかり手袋をはめていた。


「兄様、本当に大丈夫?」


「また、その話か?別に体調も変わりはない、何も問題はないから大丈夫だ」


「でも…」


「今回みたいな事は、もう起こらないと思いたいが、何があるか分からない。だから、その時の手段が増えたと考えればいい」


「……」


「とにかく、特に気にする必要はない」


何で兄様は、そんなに平然としているの?右手は、父様が用意してくれた黒い手袋で隠しているけど、全く焦っている様子がない。あの時だって、そうだった。


「何でー!!」


慌てふためく僕と違って、兄様は静かに、自分の右手を見ていた。


「兄様は、何でそんなに冷静なんですか!?」


「慌てても、状況は変わらない。今、目視で確認してみたが、契約紋で間違いはないと思う。私の召喚獣に付いている紋とも一致しているからな」


兄様は、僕と違って冷静に状況判断をしていて凄い!!


「なら、何でこうなったか分かりますか!?」


「分からん」


「え…」


「私の時もそうだったが、今まで前例がない事だ。だから、父上でも分からない可能性がある」


「そんな…」


「特に、体調にも変化を感じる事もない。リュカに何かあった時に、直ぐに駆け付けられる手段が出来たと考えれば、何も問題はないだろう」


「問題ありますよね!その右手とかどうするんですか!?」


「手袋でもすれば、問題ない」


父様もそうだけど、兄様もだいたいの事を問題ないと言う。でも、普通に考えて、結構な問題だと思いますよ!今は冬だから良いかも知れないですけど、夏にも手袋していたら暑いですし、不自然ですよ!


その後に、屋敷に戻って来た両親にも、兄様に起きた事を直ぐに報告した。父様は、兄様の体調を心配そうに聞いてはいたが、兄様のように冷静さを保っていた。だから、横で慌てている母様を見ていると、普通はこういう反応だよね…と思ってしまった…。何だが、新年祭での母様の気持ちが、少し分かったような気がした…。


僕達が、宿であれこれしているうちに、アジトに残していた盗賊達の回収も全て終わっていた。盗賊達を、後日、王都へ移送する手続きだけをして、僕達はラクスの町を後にした。ただ、尋問のために、1人だけは王都に連れて行くとの事で、最後尾の貸し馬車に乗って付いてきている。


何故か、その1台の馬車の周りを、大勢の冒険者の人達が取り囲み、絶対に逃げられないように、鋭い視点で見張っていた。こういう仕事は、衛兵の仕事なのではと思って、1人の冒険者に聞いてみたら。


「ラクスの、いえ、冒険者達、皆の名誉が、かかっていますので、なんとしてでもやらせて下さい!!」


そう言って他の冒険者達からも、一緒になって頭を下げられたけど…


「…本当に良かったのかな?」


「何がだ?」


「冒険者達にお願いしちゃって、良かったのかな?って」


「むしろ、困るのはあっちだ。もし、逃しでもしたら、冒険者ギルドの信用が無くなるから、死んでも逃さないだろう。それに、父上も何も言っていなかっただろう?」


そういえば、父様は頭を下げる冒険者達を、何処か冷めたような目で見ていたような気がした。


「それより、もうすぐ王都だ。休憩を入れずにここまで来たが、大丈夫か?」


「はい!大丈夫です!」


宿では、軽く軽食は食べたけど、日が登り始めるくらいに出発したから、王都には昼くらいには到着しそうだ。速く屋敷に戻って、ゆっくりしたいな。


お読み下さりありがとうございます

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