いざ、教会へ!
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5歳になった僕は、召喚の儀を行うために、父様と一緒の馬車に乗って教会を目指していた。
来年になれば、僕も兄様と同じように学院に通う事になる。でも、学院では召喚獣との付き合い方を学ぶ授業もあるため、召喚の儀を行う必要のある者は、入学する前までに、召喚の儀を済ませておかなければならない。
「リュカが入学で、オルフェが卒業なんて、月日が経つのは何とも速いね」
「うん…」
「学院で友人達が出来てたら、屋敷に呼んで遊んで良いからね」
「うん…」
緊張している僕の気持ちを和らげようと、色々父様が話題を振ってくれるけど、上手く返事を返す事が出来ない。
「オルフェも…もう少し…遊んでくれると良いんだけどね…」
兄様は学院を卒業した後、父様の仕事を手伝いながら、当主として勉強をするらしいけど、父様の様子を見る限りだと、その事に対してはあまり乗り気ではない様子だった。だけど、そわそわしていた僕は、その後の父様の話しもあまり聞いてはいなかった。
しばらくすると、ガタゴト揺れながら走っていた馬車が止まった。先に下りた父様の手を借りながら、僕も馬車から降りれば、教会に続く階段が見えた。
そこから視線を上に向けると、見事な装飾が施されており扉が目に入り、壁や柱にも目立たないながらも華やかな細工がされていた。窓の上部分に嵌められた綺麗なステンドグラスは、冬の日差しを浴びながらキラキラと光輝いていた。
馬車から下りて教会の前に立つと、緊張なのか、それとも冬の冷たい風のせいなのか分からないけれど、自然と身が竦んだ。
「リュカ?大丈夫かい?」
「だ、大丈夫です!!」
僕の様子を心配した父様が、僕の顔色を伺うように僕に声を掛けてきた。なるべく父様に心配をかけないよう、僕も返事を返したつもりだったけど、父様の表情は晴れなかった。
転ばないよう父様と手を繋ぎながら、目の前の階段を一歩づつゆっくりと登る。登りきると、目の前に現れた大きな扉を、反対の手で父様が静かに開けた。
教会の中に入ると、あまり人影は見えなかった。協会には、僕と同じようにやって来た人がもっと大勢の人が来ていると思っていたのに、そうではないのだろうか?不思議に思って、何時もように父様の事を見上げれば、父様は僕じゃなくて、何処か遠くの方を見てた。
父様の視線を追うように、僕もそっちに視線を移せば、祭壇の方から白いローブを着た人が、こちらに向かって歩いて来るのが見えた。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。先日、御連絡を頂いた、レグリウス公爵様で、間違いございませんでしょうか?」」
僕達の前に立つと、協会の人と思われる人は軽く頭を下げながら、僕達の名前を確認して来た。
「そうだ」
「レグリウス公爵様、お待ちしておりました。では、召喚場へとご案内させていただきます」
「誰も来ていないのか?」
「お一人、今来ている方はおりますが、お忙しいレグリウス公爵様を、ただお待たせするわけには参りません」
「連絡はしたが、時間をしていたわけでもない。先に人がいるならば、大人しく部屋で待つ」
「いえ、今日は予め、街の者達には伝達していたため、レグリウス公爵が気にする事では…」
「此処で私を待たせるか、控室に案内するのか、お前はどちらだ?」
「……わかりました。こちらへどうぞ…」
父様が意見を変えるつもりがないと分かったのか、渋々といった様子で、僕達を控室へと案内するために歩き出した。
「では、準備が出来次第、お迎えに上がります」
僕達を案内し終わった人が扉を閉めると、僕は置いてあったソファーへと腰を下ろした。ただ待っているのが退屈だった僕は、隣に座った父様に聞いてみた。
「とうさま?なんで、さっきことわったの?」
「ん?ああ、混乱を招かないよう、今日、訪問する事は教会側に伝えていたが、時間を指定していたわけではなかったからね」
「なんで?」
「えっと…時間を指定しても、私が何時に来られるか分からないからね。それに、今の季節は、儀式をしに来る物をも少ないから、すぐに順番が来ると思うよ」
後になって分かった事が、僕が寝坊しても大丈夫なように、あえて予約はしていなかったようだった。でも、そこは起こさずに寝かせてくれるんだから、父様は甘いと思う。
「ふ~ん?なら、なんですくないってわかるの?」
そんな事情を知らない僕は、次に気になった事を父様に尋ねてみた。
「儀式を受けるは、基本、貴族の子供だからね。それでいて、その多くの子達は、春か夏に産まれるからね。それに、皆、誕生日を迎えると直ぐに儀式を終わらせてしまうから、今の季節は、他の貴族と関わりたくない者や、街の者達しか来ないんだよ」
「だから、ひとがいなかったの?」
此処に来た時に、あまり人影が見えなかったのは、誰も来ないからなんだろう?
「普段は、協会には大勢の人が来ているんだけど、どうやら教会側が変に気を使って、人払いをしてくれていたようだね……」
「なんで?」
「召喚の儀を行う貴族は、表ではなくて裏から来るんだよ」
「ほかにも、いりぐちがあるの?」
「あるけれど、私達が使う事はないよ……」
静かにそう言った父様は、笑顔を浮かべているのに、僕には何故か笑っていないように感じた。そんな父様の表情は、今まで見た事がなかった。
「とうさま……?」
不安になって僕が父様を呼べば、さっきの顔が嘘のように、普段の優しい父様の顔に戻っていた。
「心配しなくても大丈夫だよ。私達には、全く関係がない事なんだ。だから、リュカは何も気にしなくてもいいよ」
「?」
僕には、父様が何の事を言っているのか、さっぱり分からなかった。ただ、父様が僕の頭を撫でてくれるのが嬉しくて、それに甘えたいた僕は、父様の呟きに気付くことはなかった。
「貴族の矜持なんて下らない…。そんな下らない事で、私が家族を蔑ろにする事は絶対にない……」
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