心配は尽きないが…(オルフェ視点)
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学院から戻ると、自分達だけが食べるのは申し訳ないから、夕食のデザートは無しでいいかと母に聞かれたので、問題はないと答えておいた。
その日の夕食は、お菓子禁止令を出されたせいか、気落ちしているようだった。しかし、何故かそれだけではないような気がして、気がかりだった。
次の日、心配になった私は、学院には行かず書庫へと向かった。
学院に行かない事を、リュカには知られるわけにはいかないので、夕食まで書庫で過ごすつもりだ。それに、今日はピアノの授業だとも聞いている。
書庫は、ピアノが置いてある部屋とも近く、ピアノの音がよく聞こえてくる。両親もそうだが、私もリュカのピアノを聞くのが好きなので、学院が休みの日などは、窓を開けてリュカが引くピアノをここで聞いていた。
しかし、その日聞こえてきた音は、何時もと違っていて、そればかりが気がかりだった。途中からその音さえも聞こえなくなり、心配は増すばかりだったが、私が近付いても怖がらせるだけだと思い留まる。
その日、夕食の際にリュカの好きなお菓子を出して貰うように、ドミニクに交渉してみたのだが、リュカの反応は良いとは言えない。両親も、そんなリュカの反応を心配して声をかけているが、効果は見られなかった。両親でも効果がないのなら、私が声をかけても悪化するだけだろう…。
その日は、心配でなかなか寝付き難い夜だった。
翌朝、少し速めに部屋を出てドミニクを探す。途中、使用人達に聞きながら、厨房前でドミニクの姿を見つけた。
「その件でしたら、アルノルド様からもすでに頼まれていたため、厨房には今伝えて来ました」
リュカのお菓子禁止令を解いてもらうために、ドミニクを探していたのだが、父上が先に手を打っていたようだ。私は、踵を返すと、懐から懐中時計を取り出し時間を確認する。
朝食の時間まで、もう少しという時間だ。この時間ならば、リュカも食堂に向かっているだろうと思い、私も食堂へと向かう。
食堂の近くまで来れば、ちょうどリュカが食堂に入って行くのが見えた。ならば、目的の人物もまだ近くにいるだろう。ある人物の後を追うため、食堂に背を向けてリュカの部屋がある方へ向かう。何時も、リュカを食堂まで送った後、部屋の掃除をしているのを私は知っていた。
「おい…」
「え?お、オルフェ様!?な、何か御座いましたか!?」
リュカの側仕えのメイドに声をかければ、驚きながら大きな声を上げる。私には、それがどうしても煩いと感じてしまう…。
「聞きたいことがある…そ、その…リュカの様子は…どうだ…?」
「リュカ様の…ご様子ですか…?何だか無理して、明るく振る舞っているようご様子で…私もどうしたら良いのか…」
「そうか…」
両親の次に一緒にいる人間にも分からない事を、私が何とか出来るとは思えない。ひとまずは、朝食の時間が迫っていたため、今来た廊下を戻る。食堂へと入れば、遅い私を心配して様子を見に行こうとしている所だった。
その場は、適当な嘘で誤魔化そうとしたが、両親は私の嘘に感づいているようで、昔の話でからかってきた。
リュカの前では、止めて欲しいと思いながら受け流していると、父上はあの日の事を話始めた。今思い出しても、未だに怒りがわいて来るが、リュカがいる場所で魔力を暴走させるわけにはいかないと、冷静さを保つように心がけた。
デザートを食べる様子を見る限りでは、大丈夫そうにも見えるが、断言する根拠もないため心配は尽きない。
学院に行くのは気が進まなかったが、今日もさぼるわけにもいかず、仕方なく学院へと向かった。しかし、学院に行っても、授業に集中できない。そんな私に、昨日の事も含めて、レオンが騒がしくまとわりついてきた。なので、八つ当たりも込めて殴っておいた。
学院から帰ると、屋敷の前に先生とリュカの姿が見えた。馬車が側にあるという事は、街にでも遊びに行って来たのだろう。せっかく、楽しんできた時に水を差すわけにもいかず、横をすり抜けるように通り過ぎれば、私を呼ぶ声が聞こえた。
後ろを振り返れば、リュカがこちらに駆け来るのが見えたので、立ち止まって追いついて来るのを待った。
「兄様にお土産です!」
リュカから差し出された人形を見て、何故これを買って来た、というのが正直な感想だった。リュカが知るはずがない事だと思い、何故これを買って来たのか尋ねれば、先生から聞いたと答えが返って来た。
人が隠そうとしていた事を、勝手に話した先生を睨んでも、平然としている様子に苛立ちがつのる。だが、リュカの手前何も言えない。
「兄様の目みたいに…きれいだったから…」
リュカの一言で、先程まで感じていた苛立ちが霧散する。むしろ、私の目を綺麗だと思っていてくれた事に、何処か照れくささを感じて言葉に詰まる。
その後、先生が余計な事を言って来たが、リュカが人形を下げようとしていたので、慌てて人形を手に取った。
「…ありがとう」
リュカから貰った初めての贈り物とあって、最初から喜んで受け取るつもりではあった。だが、うさぎの人形を貰って喜ぶのは、兄として格好がつかないのではないか?という思いもあって、踏ん切りがつかなかっただけだ…。
嬉しいやら、気恥ずかしいやらで、その場に居続ける事が出来ずに、急いで自分の部屋へと戻った。
部屋に戻った私は、何も飾らなくなった飾り棚の真ん中に人形を飾った。
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