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心配は尽きないが…(オルフェ視点)

アルファポリスで先行投稿中


学院から戻ると、夜中にお菓子を盗み食いしたことが発覚し、リュカにはしばらく“お菓子禁止令”が出されたと聞かされた。それを知った母様から「自分達だけで食べるのは可哀想だから」と、私達も自粛でも良いかと聞かれたが、特に異論もなかったため、そのまま肯定の返事をした。


しかし、その日の夕食でのリュカは、明らかに元気がない。視線は沈み、返事も弱々しく、匙もほとんど進んでいない。


(お菓子が食べられないだけで、ここまで気落ちするものだろうか?)


ただの“甘いもの禁止”で片づけられないような、もっと別の何かがある気がして、食事中ずっと胸の奥にひっかかりが残った。


翌朝になっても、昨日のリュカの様子が頭から離れなかった私は、学院へ向かわず、書庫へ足を向けた。無断欠席だと気づかれないようにするためでもあるが、書庫ならばドミニク以外ほとんど来ないうえに、リュカの様子も静かに探ることができる。


書庫はピアノのある部屋からそう遠くないため、ここにいれば、窓越しにリュカの奏でる音が届く。


両親もそうだが、私自身もリュカのピアノを聞くのが好きだった。学院が休みの日には、窓を開けて書庫で本を読みながら、リュカの弾く音に耳を澄ませていた。


この日も、ピアノの授業があると知っていたため、音色を聞けば少しは気持ちが掴めるかもしれないと考え、しばらく書庫で耳を澄ませていた。だが、聞こえてきたのはいつもの伸びやかで澄んだ音ではなかった。


どこか焦ったような、落ち着かない響き。リズムは乱れ、音が転び、まるで心の中の不安がそのまま音になって溢れ出しているようだった。そして、途中から音は完全に途切れた。


嫌な予感が的中したことを悟り、胸の奥がゆっくりと沈んでいく。だが、今の私が顔を出せば、リュカは余計に怯えるだけだ。踏み込んで慰めることも、支えることもできず、ただ影から見守ることしかできない自分が、ひどく情けなく感じられた。


その日、夕食の席では、リュカの好きなお菓子を出してもらえるよう、父上を通してドミニクに交渉してもらった。少しでもリュカの気分が楽になればと思っていたのだが、その反応は決して良いとは言えなかった。


両親も心配して優しい声をかけていたが、まるで届いていないようだった。両親の言葉でさえ効果がないのなら、私が声をかけても、むしろ状況を悪化させるだけだろうと口を噤むが、なかなか寝つけない夜になった。


翌朝、ドミニクの所へと向かうため、少し早めに部屋を出た。しかし、朝は使用人達に、その日の指示を出すために歩き回っているために、なかなかその姿を見つける事ができない。ようやく見つけたと思えば、それは原因と厨房の前だった。


「その件でしたら、アルノルド様からもすでに頼まれていたため、たった今、厨房には伝えてきたところです」


リュカのお菓子禁止令を早々に解いてもらおうと、ドミニクに直談判をするつもりだったが、すでに父上が手を打っていたらしい。とりあえず、その事に安堵しながら、思わず小さく息を吐く。そして、踵を返すと、懐から懐中時計を取り出して時間を確認した。


朝食の時間まで、あとわずか。この時間なら、きっとリュカも食堂へ向かっている頃だろう。そう思い、私も食堂へと向かった。


食堂の近くまで来ると、ちょうどリュカが食堂へ入っていくところが見えた。ならば、目的の人物もまだ廊下のどこかにいるはず。そう考えた私は、食堂へ背を向け、リュカの部屋のある方へ足を向けた。


彼女はいつも、リュカを食堂まで送り届けたあと、そのまま部屋の掃除に向かう習慣を私は知っていたからだ。


「おい……」


「え?お、オルフェ様!?な、何か御座いましたでしょうか!?」


リュカの側仕えのメイドを見かけ声をかけると、彼女は驚いて大きな声を上げた。その甲高さがどうにも耳に刺さってしまうが、今は気にしている場合ではない。リュカのことを一番近くで見ているのは、他でもないこのメイドなのだから。だが、悪い人間ではないと分かっていても、昔から女性と話すのが苦手だ。


「聞きたいことがある……そ、その……リュカの様子は……どうだ……?」


「リュカ様の……ご様子、ですか……?何だか……無理して明るく振る舞われているようで……私にも、どうしたらいいのか……」


「……そうか」


ぎこちなく問いかけると、メイドは一瞬戸惑いながらも答えた。だが、事情を聞き出しながらも、胸に重いものが落ちる。


両親の次にリュカと長く接しているこのメイドでさえ分からないというのなら、私が何かできるとは到底思えなかった。


時間を再度確認すれば、朝食の時間が近づいていたため、ひとまずそこで話を切り上げ、来た廊下を戻る。食堂へ入ると、遅い私を心配したのか、両親が様子を見に行こうとしているところだった。


その場は、適当な嘘で誤魔化そうとした。だが、両親は私の嘘などとうに見抜いていたようで、昔の出来事を引き合いに出しては、からかうように笑ってくる。


少なくとも、リュカの前だけではやめてほしいと思うが、隠したい事実を話さなければと受け流していた。すると、父上があの日の話を切り出した。


あの日のことは、今思い出しても、未だに怒りがわいて来るが、リュカがいる場所で魔力を暴走させるわけにはいかない。私は深く息を吸い、平静を装うよう努めた。そして、横を見ると、リュカはデザートを食べながら、以前よりは落ち着いた表情を見せている。だが、“大丈夫”と言い切れる証拠はどこにもなく、不安は尽きなかった。


翌朝も、本当は学院へ行く気分になれなかった。だが、さすがに二日も欠席するわけにもいかず、気乗りしないまま学院へ向かった。しかし、頭のなかはリュカのことで埋め尽くされ、不安と苛立ちが消えない。


授業に集中などできるはずもなかった私に、昨日の出来事も含めてレオンがやかましくまとわりついてきた。そのしつこさが火種になり、剣術の授業では八つ当たりも兼ねて、いつも以上に本気で相手をしたが、結果的に頭が冴えるという成果を得た。


そんな私が学院から帰ると、屋敷の前に先生とリュカの姿が見えた。


馬車が傍らに止まっていることから、街へ遊びに行ってきたのだろう。せっかく楽しんできた帰りに、私が水を差すわけにもいかず、二人の横をそっとすり抜けようとしたが、背後から、はっきりと自分を呼ぶ声が聞こえた。


振り返ると、リュカがこちらへ駆け寄ってくるのが見えたため、私は足を止め、静かに追いついてくるのを待った。


「兄様に、お土産です!」


差し出されたものを見て、思わず言葉を失う。リュカが手にしているのは、赤い目をしたうさぎの人形…だった。


(……なぜこれを)


正直、それが最初の感想だった。私の過去を知っているはずのないリュカが、どうやってコレを選んだのか。理由を尋ねると、先生から聞いたと言う。


私が隠してきたことを平然と話した先生を睨んでも、当の本人はどこ吹く風の様子で苛立ちが募る。しかし、リュカの前では何も言えなかった。


「兄様の目みたいに……きれいだったから……」


何も言わずにいれば、下からか細い声が聞こえ、その一言で張り詰めていた気持ちがふっと解けた。怖がられていると思っていただけに、そんなふうに見てくれていたのかと思うと、胸が熱くなり、今度は妙に照れくさくて言葉が詰まる。


そこへ、先生がまた余計なことを言い出し始めたので睨みつけようとしたが、リュカが人形を下げようとしたのを見て慌てて手を伸ばした。


「……ありがとう」


リュカから貰う初めての贈り物だ。最初から拒否するつもりはなかった。ただ、うさぎの人形を喜ぶ姿を弟に見せるのは、兄としてどうなのかと躊躇っていただけだ。


しかし、受け取ったは良いが、嬉しいやら気恥ずかしいやらで、その場に居続けることができず、礼もそこそこに、早足でその場を去った。


部屋に戻ると、何も飾らなくなって久しい飾り棚の中央に、その人形をそっと置いた。すると、最初からその場にあったかのように、しっくりと収まった。

お読み下さりありがとうございます

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