影から(オルフェ視点)
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その日も、何時ものように書庫で、父上達の帰りを待っていると、屋敷が何処か騒がしい事に気が付いた。何処か嫌な予感を感じながら、ひとまずは自室へと戻った私に、早めの夕食の知れせが届いた。
何でも、夕食後に大事な話があるからと言う事だった。それがさらに、私を嫌な予感へと駆り立てた。そして、それは確信へと変わった。
リュカが来ていないのにも変わらず、運ばれてくる料理に何処か嫌悪感を感じながら、父上にリュカの事を尋ねた。
「お腹が空いていないというのでね…それに…今は休ませてあげたいんだ…」
そうして始まった、リュカがいない食事は、静まり返っており、物寂しさを感じる夕食だった。
夕食後、両親からリュカに起こった事を説明された。何も知らずに、書庫で本を読んでいた事が、側にいられない自分が恨めしい。
両親に聞かされた話しを、一人で整理するため、裏庭で座りながら月を眺めていた。
父上から提案された件には、まったく異議はない。住む場所など些末な問題であって、拘る必要を感じない。リュカを守る事に関してだって、私も全力で敵を排除するつもりだ。
しかし、最初、リュカの話を聞いた時は、私がリュカのを奪ってしまったのではないかと思った。1人で2体出てくるなど異例の事だ。その頃はまだ、リュカが生まれる前の事であり、ありえない事だとは分かっていても、罪悪感を感じるのは否めない。
無駄に2体もいるのだから、1体をリュカの護衛として付けようとも思った。しかし、図体ばかり大きくて、ろくな事をしない2体を思い出し、役に立たなそうで頭が痛くなる。
「はぁ…」
自然と溢れるため息を付きながら、屋敷に目を向ければ、父上の執務室から明かりが漏れているのが見える。今日も、どうやら執務室にいるようだ。
父上は、隠しているようだったが、夜遅くに仕事をしている事を私は知っていた。だからこそ、仕事を優先するように言ったが、聞き入れる気はないようだった。それどころか、私を気遣い勉強を減らそうとしてきた。私の事を気遣う前に、まずは自分の事を考えて欲しいものだ。
そろそろ日付が変わりそうだと思い、部屋へと戻るために腰を上げる。部屋に戻る途中、廊下を歩く小さな人影が見えた。なので、声をかけようとも思ったのだが、
「誰も…いないよね…急に出てこないでね…」
そんな呟きが聞こえてきたので、声をかけるのを止めた。
「うー。寒い…何か上に来てくれば良かったかな…」
リュカの服装を見れば、寝間着しか来ておらず、寒そうにしていた。私は、魔法で周りを温めているので寒さを感じないが、あれでは寒いだろう。
普段は、私自身を種火とする事で、暖を取っているが、廊下全体となるとさすがに足りない。私は、火魔法で指先に種火を作ると、熱だけを周囲に放出する。火属性なら得意なので、微調整も難しく感じる事なく、使う事が出来る。
魔法で廊下を温めるていると、リュカが足早に何処かに向かっていたので、私も後を追うように付いて行く。
厨房に入ったリュカは、お菓子を探しているようだった。視線を上に向ければ、リュカからは死角になっていて見えない位置に、お菓子が入った木箱が置いてあるのが見える。だが、あの位置では例え見えていたとしても、手が届くことはないだろう。
前に、お菓子をつまみ食いした事があるため、ドミニクあたりが手の届かない位置においたのだろうが、一生懸命にお菓子のない場所を探しているリュカを見ていると、何とも可哀想になってくる。
私は、風魔法を使って木箱を持ち上げる。水や火と違って、風魔法はあまり得意ではないのだが、なんとか後ろの机の上に置く事が出来た。
しかし、リュカはそんな事には気づかず、今も見当違いの場所を探している。もどかしい気持ちで様子を見ていたら、やっと気付いたリュカが、お菓子を食べ始めたのでほっとする。
夕食を食べなかったせいか、夢中でお菓子を食べているリュカに、さすがに食べ過ぎなのでは?という思いが過る。止めるべきか悩んでいると、本人も食べすぎた事に気付いたのか、慌ててお菓子を均等に並べ始めた。
正直、何故あれでバレないと思っているのかが謎だ。遠目から見ても、明らかにお菓子の中身が減っており、スカスカになっている。
しかし、本人はそのまま蓋を閉めると、扉の影にいた私には気付かずに、自室の方へと走って行ってしまった。
ここに来るまでの間に、廊下も温めて置いたので、寒さを感じる事なく部屋に戻れるだろう。私は、走り去るリュカと、入れ変わるように厨房の中へと入った。机の上にある木箱を開ければ、お菓子は半分ほど減っており、誤魔化すのは無理そうだ。
「はぁ…」
ひとまず私は、少しでも発覚が遅れるように、元の位置に木箱を戻すのだった。
次の日、何事もなく起きてきたリュカは、昨日の事を忘れているかのように、朝食を食べ始めた。
最初は、夜につまみ食いしたとは思えない様子だったが、途中から様子がおかしくなる。やっぱり食べすぎだったかと見ていれば、両親達も何かに気付いたようだった。
ドミニクの方に視線を向ければ、食堂を後にしようとしている後ろ姿が見えた。たぶん、厨房に確認しに行くのだろう…。
食堂を出る時に、ドミニクと視線があったので、私の事もバレていそうだ…。そんな事にも気付かずに、目の前の朝食を、必死に食べようとしているリュカの皿と、自分の皿を両親と話している間に取り替える。
なくなった朝食を不思議そうに見ながらも、まったく気付いていないリュカの様子に、警戒心がなさ過ぎると不安になる。このままでは、誰かに騙されてしまいそうだ。まあ、私がその分守ればいいだけか。
まずは、リュカに見られる前に、ドミニクからの小言でも聞きに行くかと、足早に食堂を後にした。
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