迷子の後のダンス
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父様達から離れて、1人でお菓子が置いてある場所へと向かった。後ろを振り向くと、父様達が他の来客とも話す様子が見えたので、ここなら大丈夫だろうと思い、お菓子の方へと向き直る。テーブルには、さまざまなお菓子が置いてあり、どれも美味しそうだった。
「チョコのお菓子はあるかな?」
今いる場所にはなかったので、チョコのお菓子を探してテーブルを移動する。
果物なども置いており、数多くの種類が準備されているせいか、なかなか目当ての物が見つからない。やっと目当ての物を見つけたと思った時には、父様達の姿が見えなくなっていた。
「ど、どうしよう…」
来た道を戻ろうにも、テーブルをあっちこち見て回っていて周りをよく見ていなかった。なので、どっちからやって来たのか、まったく分からない。回りを見渡しても、知らない大人ばかりで、誰に頼ればいいかも分からない。
泣きそうになるのを我慢して、歩こうとしたら、前をよく見ていなかったせいで、人とぶつかりそうになった。ぶつかる!そう思ったら、誰かに後ろに引っ張られた。
「ちゃんと前を見ろ…」
聞き覚えのある声に視線を上に上げれば、何処か焦ったような顔をした兄様が、僕のことを見下ろしていた。兄様が来て安心したせいか、泣きそうになったけれども我慢する。
「あまり離れるな、父上達の所に戻るぞ」
兄様に手を引かれながら、ホールを渡ろうとすると音楽が流れ出した。回りの人達が、ホールで音楽に合わせて踊りだしたので、終わるまでは通れなさそうだ。
こんなに多くの人が踊っている姿なんて、今まで見た事がなかった。だから僕は、兄様の手を握りながら、ホールで踊る人達を静かに見ていた。
「…踊りたいのか?」
「相手がいないし…」
兄様からの問いかけに、躊躇いながら答える。
「周りに、いくらでもいるだろ…」
言われて回りを見渡せば、さっきは上の方しか見ていなかったから気づかなかったけど、僕と同じくらいの年齢の子供が、足元に隠れてちたちらと見えた。
「でも…誰かと踊った事ないから…足踏みそうだし…」
「はぁ…来い」
そう言うと、兄様は僕の手を引いてホールの方へと歩き出した。僕は、わけもわからずに、手を引かれるまま兄様とホールへと向かった。
「そこまで難しくない」
僕の手を取ったまま、兄様は流れるようにステップを踏み出した。そのリードにつられて、僕も自然とステップを踏む。僕と兄様とは、50cmくらいの身長差があるのに、それを感じさせない動きで、気がついたら1曲踊りきっていた。
「簡単だろ」
踊り終わった後、兄様は平然と言ったけど、僕には無理そうです…。それと、やっぱり兄様は、女性パートも踊れるんですね…。
「何か飲み物を持ってくる、絶対にそこを動くなよ」
踊って体を動かしたせいか、喉が乾いたなと思っていたら、兄様も僕と同じだったのか、飲み物を取りに人混みの中へと消えて行ってしまった。
兄様から、絶対動くなと言われたので、僕は大人しくその場で待っていると、後ろから声をかけられた。
「こんな所にいたんだね。アルが君を探していたよ?」
「レクス陛下!」
「えっと、リュカくんだよね?アルから聞いているよ。ひとまずアルの所まで行こうか?」
「えっと…兄様に、ここを動くなって言われたので…」
僕の手を引いて、歩きだそうとしている陛下に、兄様との約束を伝える。
「それならしかたないかな?なら、来るまで一緒に待っているよ?」
そう言ってレクス陛下は、僕の横で待ち始めたけど、一緒に待ってなくてもいいのに…。
「レオンが、二人はあまり仲が良くないみたいな事を言っていたけど、こうして待っているって事は仲良くなったのかな?」
陛下からの突然の質問に、なんと返したらいいのか分からず、言葉に詰まる。
「彼も、アルと一緒で不器用そうだもんね?」
「陛下は、最初から父様と仲が良かったんですか…?」
質問に上手く答えられない僕は、陛下に父様との事を質問してみた。
「え?普通に嫌いだったけど?何時も無表情で愛想が無いし、偉そうだし、王族に対する敬意も持ってないような奴だったからね」
「え!そうなの…?」
「そうだよ?アルの父親の件もあって、なるべく関わりを避けていたけど、そうも言っていられなくなってね、顔合わせをしたんだよ。最初は、顔合わせだけのつもりだったんだけど、話をしてみたら意外と思ってたのと違ったんだよね~。んで、私に協力して貰ったり、アルの父親の事で色々協力したりと、長い付き合いになっているよね~」
そういえば、父様の親の話を、今まで聞いた事がないな?
「父様の父様は、なにしてるの?」
「ん?今も南の島で、バカンスを楽しんでいるんじゃないかな?」
「余計な事を言うな…」
「父様!!」
父様の声が聞こえて振り向けば、父様が母様と一緒に歩いて来るのが見える。
「リュカ。何処に行ったのかと探したよ。今度からは、1人で遠くに行っては行けないよ」
「見つかって良かったわ」
「怖い保護者が来たみたいだから、私は退散させてもらうよ。じゃあね~」
レクス陛下はそう言って、あっという間に人混みの中へと消えて行ってしまった。そして、それと入れ替わるようにして、兄様が飲み物を持って戻って来た。
「そろそろ帰ろうか?」
兄様が、持って来てくれた飲み物を飲み終えた頃になって、父様からそう言われた。
「え、もう帰るの…?」
「挨拶回りも終わったからね。それに、明日は朝から出かける予定だろう?」
「!!なら、速く寝ないと!!」
さっきまでの不満を忘れ、明日から行く、旅行への期待にわく。
僕達は、明日からの旅行のために、パーティー会場を後にするのだった。
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