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態度の変化


「事情は理解したが、ここまでする必要はあったとは思えないのだが?」


地面に転がっていた人達は、僕達から事情を聞いている間にもう片方の人が呼びに行ってくれて衛兵達によって、既に無事に連行されて行ったけれど、その時の相手の有様をまじまじと見て、遠目では分からなかった悲惨さに、子供の前でする事ではないと思ったようだった。それに、子供に説明をさせ、当事者であるはずの者達が知らん顔をしている事実を非難するかのような視線を向ける。


「先に手を出して来たのは向こうだ。ならば、何があっても相手の自己責任だ」


「例えそうだとしても、個人の裁量でそれを決めていい道理はない。なぜなら、そのために法があるのだからな」


「国が作った法律など、俺達には関係ない」


「観光目的で他所から来ようとも、この国にいる限りはこの国の法に従って貰う。それと、貴殿もなぜ止めない?」


「それは、私も一緒にやったからですかね?」


「保護者役を任されておきながら、貴殿らは何をしているのだ…。まったく、よく貴殿らに任せようなどと思ったものだ…」


少しは話が通じそうなグレイへと話を振れば、どちらも同じような部類と知って、呆れてものが言えないとでも言った表情を浮かべていた。


この町には観光目的で来たのはコンラットが説明してくれたけれど、僕達の親の都合が付かないから、知り合いに頼んで連れて来てもらった事にしていた。本音を言えば、そんなに無理して他国から来た事を不審がられるかと思ったけれど、この国の人達にとっては、行きたい観光地だったからか思ったよりもすんなりと受け入れられた。むしろ、他国の者にもそれ程までに価値がある物として認識されて当然といった感じだった。だから、僕達に対しては物腰柔らかく接しながら、自分達には非はなくとも騎士らしい厳格な対応で、治安に問題があった事を謝ってくれた。それもあって、付き添いで来たはずなのに何もしようとしないキール達には、さらに印象が悪くなっているようだ。


そして、子供は子供らしく遊んでて良いと言われてしまい、話に混ぜてもらえない僕は、キール達の話に時おり耳を澄ませながら男の子と今は雑談を交わしていた。


「それにしても、本当に凄かったな!俺に偉そうにしてたくせに、あっという間に現れた土と水がアイツらを捕まえて、何も出来なかったからな!それに!魔法なんて初めて見たぞ俺!!兄ちゃん達も使えたりするのか!?」


この国に魔力持ちがいないわけではないけれど、生活の役に立つよう魔法を発展させて来た僕達の国とは違って、魔法には頼らず、自然の流れや己の力で解決する事をよしとしているから、主に肉体強化などの魔法が得意で遠距離魔法は不得手らしい。そんな事情もあり、明確に視認できる魔法に馴染みがないらしく、魔法に対して強い憧れが混じったような男の子の目には、先程の騒動による恐怖は全くないようだった。


「俺か!?使えるぞ!まぁ、それは俺だけじゃないないけどな!」


剣以外の事で褒められる事があまりない事もあり、男の子から向けられる視線に少し照れながらも、どことなく得意げな顔で僕達の方に振り返る。すると、それを追うように目線が僕達の方を向いた。


「本当か!?じゃあ、アレと同じような事も出来るのか!?」


「いえ…私達にあそこまでの魔法は無理ですね…」


「まぁ、俺の親父とかなら出来るかもしれないけどな」


「うん、父様達なら出来そう」


少し申し訳なさそうに言った言葉に、バルドが何気ない調子で答えていたけれど、僕達には無理でも父様達や兄様なら同じような事が出来そうだと思って頷いていたら、僕達の話が聞こえていたのか、キール達の話もそちらへと話題が移り変わった。


「しかし、それだけの魔法を使える者の話などあまり聞かないが、貴殿達は何処から来たのだ?」


「何処からって…あっちだ」


「あちら…というと…」


方角を確かめるように視線を周囲へと向けると、ティが作った道がある森の方を指さした。でも、そんな道があるなんて知らない人達にとっては、森からやって来たと言っているようなもので不審でしかない。


「つかぬことを聞くが…その服では森に不向きだとお見受けするのですが…?」


「服は変えて来た。昔、服を変えずに来たら、人に群がられてろくに何も出来なかったからな」


ゴロツキを連行にやって来た衛兵達が、この二人にやたら恐縮しきったような感じで敬われていたから、この人達は思ったよりも偉いのかと思っていたけど、何故かキール達への口調が途中から敬語に変わっており、厳しめだった態度がどこかよそよそしげに変わっていた。だから、態度が急に変わったことで、ハラハラしながらも聞いていた緊張感が緩んでしまった。でも、それがいけなかった。


「えっと…お住まいもあちらで…?」


「そうですね。あっちで間違いないですよ」


僕達の国が森の先にあるからか、グレイが間違いないと答える。でも、その答えは自分から不審者と肯定するようなものだ。僕が止める機会を見逃してしまったせいで、怪しい言葉ばかり言う僕達を不審者として認定でもしたようだ。


「すまないが…その話をもう少し詳しく…」


「そろそろ帰るぞ」


真剣味を帯びた目をこちらに向け出し、詳しく事情を聞き出そうとする声を遮るかのように、ネアが少し大きな声を出しながら僕達の方にもやって来た。だけど、向こうの話をよく聞いていなかったバルドが、盛り上がっていた話に水を指されたかのように振り返る。


「もうちょっとだけ良いだろ?」


「日が暮れ初めてたら、町の外に出させてもらえなくなる可能性があるだろう。それに、時間がない」


騎士の人達に聞こえない声量で答えながら空を仰ぎ見る。すると、追い掛けて町の中を走ったり、説明に時間を取られたせいか、日が傾き掛けて色が変わり出していた。


「やばい!早く帰らないと!」


ネアが言った通り、日が傾き掛けてから魔物がいる町の外に子供を出すわけもなく、もう少し早く出るはずだったのに、その予定した時間を過ぎかけていた。だから、なんとか誤魔化しが効く時間までに町の外に出なければと声を上げれば、直ぐに名残惜しそうな声が上がる。


「えぇー!もう帰っちゃうのか!?」


「悪いな!また来る事があったら付き合うからよ!」


「絶対だぞ!俺はだいたい町の入り口あたりにいるし、そこにいなくても他の奴に俺の名前を出して聞けばすぐ分かるからさ!」


「分かった!ところで?お前の名前聞いてなかったけど、なんて言うんだ?」


「そういえば言ってなかったな!俺はビスって言うんだ!」


「そうか!俺はバルドだ!よろしくな!」


人と仲良くなるのが得意な事もあり、すっかり友達になっているようだった。バルドが親しみがある笑みを浮かべながら話をしていたら、さっきの声が聞こえていたキール達が僕達の方へとやって来た。


「帰るのなら行くぞ。コイツらの話には飽きた」


「いえ…我が主がいるところまでお付き合い願いたいのですが…」


この短い時間で、なんでそんな話になったのかは分からないけれど、自分達の主人に合わせたいと思うくらいには親しくなったようだ。でも、主人に危険が及ばないように、よほどの事がない限り誘ったりしないのに、何がそこまで気に入られたんだろう。不審者だと思われたのは勘違いだったのかと考えていたら、当の本人達は迷惑そうにしていた。


「ですから、そちらの都合に付き合う気はないと言っているでしょう…」


「決して、お手間を取らせませんので…」


「くどいぞ」


「なぁ!?その話はまだかかるか!?こっちは帰らないといけない時間だから急いでんだよ!?」


「観光で来たのであれば、当然この町に宿を取っているはずだろう?それに、この方達が保護者を務めているのであれば、君等も急ぎ帰る理由もないのではないのか?」


「そ、それは…!」


いつ終わるとも分からないような会話に、早く終わらせて欲しくて声を上げれば、遅くなる事に問題などあるはずもないとでもいうように切り返される。それに、キール達の実力を知っているかのように話す。そのせいで、それを否定するような事も言えず、さらに、さっき説明した事に合わせた理由を言わなければならない。そんな上手い理由を思いつかないバルドは、勢いで押し切ろうとするかのように声を上げる。


「とにかく!今日は無理なんだよ!」


「ほんの少しでも…!」


「無理なものは無理!行くぞ!?」


「ま、まってよ!」


「さっさとしろ」


その場から逃げるように僕達に一声掛けてから駆け出したけれど、そこまで足が速くない僕にとってはその差が大きい。そのうえ、意表を突いたとしても騎士で鍛えている人達に勝てるわけがなく、直ぐに追いつかれると思っていると、後ろからキールが抱えてくれた。


「お待ち下さい!」


制止の声を掛けて追いかけて来るけれど、僕達が犯罪者じゃないからか手荒な事は出来ないといったように、懇願に近い声で呼ぶ。騎士に追われるという、傍から見られたら困る絵面に、表通りを走れずに裏路地を走っていると、グレイが声を上げた。


「そこを右に曲がって下さい」


「右!?そこに何かあるのか!?」


「良いから曲がれ」


騎士達に追いつかれないように全力で走るのはバルドも大変なのか、息切れを起こしながら返事を返す。だけど、キールから有無を言わさない答えが帰ってきた。だから、この状況の打開策でもあるのかと思って、グレイの指示に従って右に曲がると、急に視界が変わった。


「へっ…?ここって…?」


「俺も移動させる事はできるからな」


僕達が最初に来ていた場所にいることに気付いて上を見上げながら唖然と呟けば、上からは落ち着き払ったような声が降りてくる。キールの魔法で移動したのは初めてではないけれど、その時よりも速く、気付く暇もなかった。その事にも驚いていると、僕の服の中で、もぞもぞと動く気配がした。


「うぅっ…酔った…」


真っ先に騒ぎそうなティは、暗い服の中で激しく揺すられていたせいか、具合悪そうな様子で這い出して来ていた。だけど、そのおかげで一息付く暇ができたからか、勢いを殺す事が出来ずに少し走り過ぎたバルドが、その場の地面に座り込みながら言葉をこぼす。


「はぁ…何だったアイツら…?」


「知るか」


「あんなに引き止められてたのですから、何かあったのではないのですか…?」


「いや?何もなかった」


僕と一緒でグレイに抱えてもらっていたコンラットが尋ねるけれど、本人達には身に覚えがないようだった。


「まぁ、何にせよ。逃げ切れて良かったな」


「何が良かったのですか?」


「……っ!」


息を整えようとしていた時に声を掛けられビクリと身体を揺らせば、僕達を待たせては駄目だと思ったのか、御者も早く来て、ここまで僕達の様子を見に来たようだった。


「それにしても、そんなふうに息を切らせながら座り込んで、いったいどうなされたのですか…?それに、この方達は…?」


完全に油断しきっていた事もあり、迎えに来た御者に気付かなかった驚きで直ぐに声は出なかったけれど、ここで口ごもれば怪しませると思ったのか、しきりに視線を泳がせながら言った。


「ちょ、ちょっと遊び疲れて…?それに、コイツらはリュカの所にいる奴らだ!そ、それより、ルド達を迎えに行かないとな!」


「そうだね!」


「はい。迎えに来て下さった方を待たせるわけにはいきませんからね!」


屋敷に残していると直ぐに感付かれるのもあり、僕達が出かけている間は召喚獣同士で遊んでもらっていたけど、遊びに夢中になっているのか、僕達に気付いた様子もなく、此処から遠く離れた場所で遊んでいた。だから、ギクリとした冷や汗のようなものを流しながら早口で喋ると、キール達に下に下ろしてもらってから、みんなと一緒に子狐のヒナノを迎えに行くのだった。

お読み下さりありがとうございます

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