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追い掛けた先で


僕達と別れた後の足取りを追うように路地裏を駆けているけれど、誰かに追われているのか、細い路地を蛇行するように右往左往しながら同じ場所を行ったり来たりしていて、一向にその姿が見えてこない。


「本当にこっちで合ってるのか!?」


「足取りは間違いなくこっちですよ」


あの子の顔をグレイがちゃんと認識していないから、本人がいる場所に直接向かえず、地面に残っている痕跡を辿るようにしか追いかけられない状況に、バルドが焦ったような声を上げる。


「あぁ!もう!居場所を探せるって言ってたくせに!直接の居場所とか誰か分からないのかよ!?」


「足取りを追えると言っただけで、私は探せるとまでは言ってないですよ?」


「そもそも、探索が得意なのは俺達じゃない」


「言っておきますが、アレに頼るなんて死んでも御免ですからね?」


僕を抱えながら走っても息切れ一つなく、余裕そうに話していたキール達だったけど、誰かの話題になったらコンラットを小脇に抱えながら走っていたグレイが、爽やかな笑み浮かべながらも、どことなく嫌そうに答えていた。


日頃から体力があるバルドや、それについて行けるネアは良いけれど、その速度に付いていけない僕達は、キールとグレイに運んでもらっていた。だから、そんな僕が言える立場ではないことは分かっているけれど、思ったよりも頼りにならない。


「ワシも特定の人間を探した事がないからのう…。それに、上からじゃと細かい路地までは見えんのじゃ…」


人ではないからか、歳を重ねていても平然とみんなと並走しながらも、自分も役に立っていない事実に、2人の分も謝罪するように申し訳なさそうな顔をする。だから、僕は探せそうな人物へと会話を振る。


「前の時みたいに、ティは魔力で探せたりしないの?」


「魔力がない奴は無理!」


バルドが働いていた先の先輩だったロウさんを町の中で簡単に見つけた時みたいに探せないのかと聞けば、誰が見ているかも分からないから飛ぶわけにもいかず、僕の服にしがみつくしかないティがその揺れに耐えながら声を叫ぶ。


「全く、口だけで大した事ない奴らだな」


たとえ思っていても言えない言葉をネアが皮肉を込めるように言えば、売られた喧嘩は買うとばかりに反論する。


「大規模な火事でも起きて、街中で消火活動でもしてくれれば分かるぞ。まぁ、火は見るの嫌なんだがな」


「嫌なら最初から言うなよ!それに、ただ被害が拡大してるだけだろうが!!」


少しムッとした顔で本末転倒な事を言うキールに視線を向けながら、バルドが路地裏の角を曲がっていると、前を注視していたコンラットが指を差しながら声を上げた。


「いました!」


袋小路に追い込まれている男の子の姿を見つけて声を上げれば、向こうもこちらに気付いたようで、道を塞ぐように立っていた見るからに悪そうな顔をした男達が振り返る。すると、ティは服の中に素早く隠れ、先頭を走っていたバルドは、ある程度の距離を空けながらも真っ先に男達の前に立って声を上げた。


「ようやく見つけたぞ!お前らを探すために同じ所を走り回ったりして、こっちは本当に大変だったんだからな!!」


無駄に走らされて時間が掛かった事を責めるように啖呵を切るけれど、足跡を追い掛けて来たとは知らない相手は、何を言われたのか分からないような困惑しきった顔をしていた。


「何だ?コイツら?お前らの知り合いか?」


「いや?知らねぇ?」


「でも…どこかで見た事があるような…?」


「おい、こいつらって、このガキに金を渡してた連中じゃねぇか?」


「そう言われてみれば……?」


互いに不思議そうな顔をしながら話していたけれど、その中の一人が僕達の事に気付いたようで、それぞれが確認するかのように改めて僕達の顔を見始める。


「確かに!あまりに目立ち過ぎて標的から外してた奴等だ!」


「だが、何でそんな奴等がこんな路地裏にいるんだ?」


「迷いでもしたか?」


「だが、俺達を探していたような口振りだったからな。もしかして、俺達に金でも届けに来てくれたんじゃねぇか?」


「そうなのか?それはご苦労なことだな」


1人が冗談でも言うように呟けば、多少は疑問を残しつつもニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべ、こちらを値踏みするような視線を向けてくる。だけど、それで一切怯む様子もない。


「いったい、誰が誰を倒すんでしょう?」


「知るか。ただ、俺達ではないことは確かだな」


僕達を抱えていて片腕が塞がっており、他には老人と子供しかいないにも関わらず、男達の言葉に反応はするものの、軽く無視するかのような態度を見せながら上から目線で話す。だけど、そんな態度が相手の気に触ったようで、当然のように怒気を強めてくる。


「ふざけやがって!俺達を舐めてるのか!?」


「そんな荷物を抱えているくせに、たった2人で何が出来るって言うんだよ!」


「直ぐに衛兵が来そうだったから相手しないでやっただけなんだからな!おい!聞いてるのか!?」


全く聞いていない様子の2人へと怒鳴っているけれど、何か打ち合わせでもするように会話しており、気にした様子もない。


「4人だから、半分ずつで良いか?」


「そうですね。それが妥当ですかね」


「手加減はしろよ」


「意外ですね?キールがそんなものを気にするなんて?」


「殺すと面倒だからな」


「お前ら……痛い目みないと分からねぇみたいだな…!」


なめくさったような態度ばかり取る2人に、その集団を仕切っていそうな男が我慢の限界だとばかりに怒りを滲ませれば、それに合わせたかのように他の男達も構える。緊迫したような空気が漂うけれど、その男達は僕達に近付く事すら出来ずに終わった。


2人が特に何かしたわけではなく、ただ視線を向けただけで、土と水の牢獄が現れて男達を閉じ込めてしまった。姿が見えない方は分からないけれど、水の中にいる人は空気を求めるかのように水の膜を叩いていた。


「これぐらい簡単に避けると思ったのですが、思ったよりも拍子抜けですね?」


「ふんっ、人間など所詮この程度だぞ」


「それが分かっていて喧嘩してたんですか?」


「うるさいぞ」


弱いと分かってて喧嘩を買っていたのかと問えば、そんな下らないことなど聞くなとでもいうような態度を見せる。だけど、それを横で見ていたお祖父さんは、見せ場を作れなかったから残念そうな声を出す。


「4人もいるんじゃから、1人くらいワシの見せ場として残しておいて欲しかったのう…」


「そんなことより!息出来てないだろ!?アレ!?」


「ん?あぁ、殺す気はないから安心しろ」


「さっきも気にしてましたが、何かあるんですか?」


「昔、うっかり殺した時は大勢の人間が出てきて…」


「そんな話している間に死ぬぞ!?」


昔の事を思い出すかのように話し出しているけれど、そうしている間にも、相手方の顔が段々と青いものへと変わってきていて、呑気に話しているなとばかりに注意を向ける。


「ちゃんと片付けたら、死んでも問題なさそうな気もしますけど?」


「たとえ悪人でも、人が消えたら面倒な事になるから止めろ」


「そうだな。アレのような事をまた経験する気は俺にはないな」


「私はどっちでも良いですよ」


ネアが珍しく威圧するように言えば、そこまで相手に関心がなかったこともあり、こちらの要求を呑むように引いてくれた。


身体を覆っていた物が波が引くように消えてなくなれば、見えなくなっていた姿が見えるようになったけど、息が出来るようになっても全く動く様子がない。


「なぁ…?これ…生きてる…よな…?」


「おそらく…」


「かろうじてだが、ちゃんと生きてるから安心しろ」


地面へと倒れ伏している男達の状況を確認していたネアの言葉に、とりあえず息があることに安堵していれば、緊迫したような鋭い声が響く。


「お前ら!?そこで何をしている!?」


後ろを振り向けば、男達が起こした騒ぎを聞きつけてやって来たのか、こちらへと駆け寄って来る身なりの良い2人組の男性の姿が見えた。その2人は簡素ながらも制服らしき物を着ており、僕達を心配するように声を掛けてくるけれど、僕達を抱えているグレイとキールを見た途端に警戒した様子を見せる。そうして、少し手前の所で立ち止まると、いつでも剣を抜けるように柄に手を掛けた。


「貴様ら、ここで何をしている!?町の者達が小さな子供を抱えながら逃げる子供を追いかけ回しているならず者がいると言っていたが、それはお前達か!?」


地面に転がって土くれまみれになっている人と、水浸しになっている人に一瞥しながら、いまだに僕達の事を抱えている2人に厳しい視線を向ける。どうやら、僕達を抱えながら、必死に走っているバルド達の後ろを追い掛けるように走っていた姿を見て、町の人達が人さらいでも出たと思ったようだ。だから、この人達は僕達が起こした騒ぎで駆けつけたようだった。


「ち、違います!この人達は、そこにいる人達からお金を取られそうになっている俺を魔法で助けてくれたんです!」


「魔法で…?」


「それよりも、それは本当のことか…?」


僕達が何か言う前に男の子が擁護すれば、それを確認するかのように僕達へと視線を向けて来たので、僕達も無言で頷きながらそれを肯定する。


「そうか。それは失礼な事をした」


未だに半信半疑の様子を見せながらも剣の柄から手を離し、礼儀正しく頭を軽く下げながら謝罪の言葉を口にする。そんな様子に僕がホッと胸を撫で下ろしていると、着ている物もそうだけど、どこか町の衛兵とは違う雰囲気を出す人達に、バルドが疑問の声を上げる。


「ところで、おっさん達って誰だ?」


「お、おっさん…!」


「子供からは…私達がそんな歳に見えるのか…?」


「彼はただ口が悪いだけなので、彼の言うことは気にしないで下さい!それより、町の衛兵の方ではないようですが、私達を助けに来ようとして下さっていたのですか!?」


まだ見た目も若く、今までそんな事を言われた事がないのか、ショックを受けているようではあったけど、コンラットから尋ねられれば、気を取り直したかのように口を開く。


「あ、あぁ、その通りだ。我々はとある高貴な方に仕えている騎士なのだが、その方の付き添いでこの町の教会までやって来たのだ。だが、何時もと違うざわめきに、何やら不穏な気配も漂っていたのでな。何事かと近くの者に尋ねてみれば、やたら目立つ容姿をした者達が子供を抱え、必死な様子で逃げる他の子供も追い掛けていたというのだ。だが、人目を気にした様子もなく、堂々としている事から、衛兵に通報した方が良いのかと決めかねていたそうだ」


「我々も、悪事を働く者がそんな目立つような行動をするとは思えなかったが、もし、それが事実であれば大事であるからな。そのため、急ぎ確認のために様子を見にやって来たのだが、あまりにも不穏な気配だったのでな……。それで、ここで何があったのだ…?」


自分達が話したのだから今度はそちらが話す番だと、拭いきれない疑いの眼差しを持って言葉を返してくる。相手が騎士だと分かってからは、騎士らしい所作などに感動と憧れが混ざったような視線を向けていたバルドだったけれど、事情を問われてしまい戸惑いの声を上げる。


「説明するにしても…どこから説明すれば良いんだ…?」


細かい説明は苦手なうえ、嘘が下手なのは自分でも分かっているのか、助け船を求めるかのように僕達に視線を向けてくる。だけど、未だに僕達を下に下ろしてくれないキール達は、自分達は関係ないとばかりに説明するのを放棄しているような態度だった。それに、僕も説明するのが得意な方じゃないし、ネアも面倒事を嫌ってやってくれそうにもない。だから、こういうのが得意で、やってくれそうな人へと視線が自然に向く。


「はぁ…何だか私ばかりが損をしているような気もしますが、とりあえず下に降りてからで良いですか…?」


誰も説明する気がない様子に、自分がやらなければ前に進まないと思ったのか、これまでの説明をしようとする。でも、このままでは格好がつかないとばかりに、自分を抱えて離さないグレイへと懇願するような声を上げていた。

お読み下さりありがとうございます

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