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増えた


「リュカには聞いてはいたけど、本当に真っ白で何もないんだな!」


「そう言うアンタは、さっきから何処へ行こうとしてんのよ!?周りを気にする前に、ちゃんと前見て歩きなさいよ!!」


僕達が道の中に入る前から興味本位であちこちに行きそうだったバルドだったけど、今も僕の方を振り返りながら周囲を見渡しているからか、前をよく見ないで歩いているバルドは、この短い間に何度も道を外れそうになっており、それに気付いたティがその度に声を上げていた。そんな事を何度か繰り返し、ようやくティ達の森へとやって来ると、そこには招いていないはずの人達が待っていた。


「なんじゃ?思ったよりも来るのが遅かったのう?」


「何でアンタ達がここにいるのよ!?」


まるで自分達の住処のようにくつろぎながら僕達を待ってでもいたような精霊王の姿と、妖精が飛び交う中、少し離れた所にある木々にもたれながらそれを離れた所で見ている2人の姿に、ティが抗議の声を上げるけど、怒鳴られた方は全く動じた様子もなく、ひょうひょうとした態度で答える。


「なに、住処を変えたのも久しぶりじゃからのう。この機会に色々とでかけてみようかと思うたんじゃ」


「だったら1人で行きなさいよ!そもそも、どうして知ってるのよ!」


僕達だけで行くはずだったため、僕達以外は誰も知らないはずなのに、いったい何処からそんな話を聞いてきたのか。そんな事を思っていると、木々の下にいた2人がこちらへと歩み寄りながら答えた。


「風ほどのじゃないが、お互いある程度の情報収集は出来るからな」


「自然は何処にでもあるからね。自分の司っている物が側にあれば、何処で何の話をしていたかなんて簡単に分かるんだよ」


水や大地も何処にでもあるから、情報収集なんてお手の物とでも言いたそうな雰囲気で言うけれど、その言葉に納得できないティは声を荒げる。


「知ってるとしても、わざわざ付いてくる必要ないでしょ!?そのまま知らない振りしてなさいよ!!」


「最初に気付いたのはこの方だ。詳しく知りたいと言われれば答えないわけにはいかんだろう」


「だとしても、止めるくらいしなさいよ!!」


「面倒だったからな」


「!!?」


「そんなに怒るなよ。世話を押し付けず、こうして私達も付いて来ているだろう?」


「そういう問題じゃない!!」


「怒らずとも、こういうのは大人数の方が楽しいじゃろう?」


「知らないわよ!それに、行きたいんなら私達とじゃなくてアンタ達はアンタ達で行けば良いでしょう!あの2人以外にもいるんだから!!」


「皆で顔を合わせると喧嘩ばかりで、そんな話にはならんのじゃよ…」


「それこそ知らないわよ!」


精霊達のあまりにもマイペース過ぎる態度に、珍しくティが振り回されながら、目尻を下げながら悲しげな精霊王を問答無用とでもいうように切り捨てる。だけど、そんな会話を聞いていたバルドが疑問の声を上げた。


「なぁ?精霊同士って仲悪いのか?」


今も僕達の周りや彼等の周囲を飛び回りながらも、妖精達はお互いに仲が良さげにお喋りをしていているからこそ、精霊達はそれと違うのかとバルドが不思議そうに尋ねれば、答えるのも面倒といった様子で口を開く。


「仲が悪いというよりも、性質そのものが合わない。そもそも、コイツ等のように仲良しこよしをする気もない」


答えてくれるだけでも寛大な対応だったのか、きっぱりと拒絶するように言い切ると、それ以上なにも答えようとしない。そんな彼に代わって、精霊王が口を開いた。


「水と火、風と土は性質が逆じゃから、それは仕方がないとはワシも思うんじゃが、もう少し仲良くしてくれても良いと思うんじゃが…?」


「性格も合わない相手となんか無理に決まっているだろう」


「じゃあ、2人は一緒で大丈夫なの?」


毎度のように一緒にいるから、2人は合うのかと思って尋ねれば、眉間にシワを寄せながら不機嫌そうな表情を浮かべていた顔が少し緩む。


「予想だにしない事をやらかし、時に驚かされる事はあるが、火のようにただ騒ぐだけでなく、俺が何をしても受け入れるから楽ではあるな」


「たまに気性が荒くなる事はありますけど、普段は静かで穏やかなので、一緒にいても苦痛なくいられますからね。なので、風とは全く合わないですね。一つの所でじっと出来ない落ち着きの無さもそうですけど、火がやった事を面白がって煽る時があるので、こっちにとばっちりが来る時があるんですよ。ですので、機会があれば地中奥深くに埋めてやりたいです」


物事に動じない所が気が合うらしく、お互い気心は知れているようだったけど、名前すらだそうとしないその人の事を語る時は、どこか嫌悪感を滲ませていて、本当にその相手の事が嫌いなんだなっていうのが伝わってくる。


「そんなに毛嫌いせんでも良いと思うんじゃがのう…。何も悪気があってやっているわけじゃないのじゃから…」


「悪気がないのは知っている。だが、それが許す理由にはならない」


「謝って済むのなら、その時点で許すんですよ」


自然の摂理のように話すその姿は、拒絶という言葉が相応しくて、間には高い壁がそびえ立っているようだった。


「ねぇ?コイツ等の事なんて無視して、行くならさっさと行きましょうよ。どこに行くか決めたの?」


平行線を辿る話に終わりがないと判断したように、ティは彼等をいないものとして扱う事に決めたようだった。バルドの方も、無駄話に付き合って遊ぶ時間が減るのを嫌ったのか、その話に乗るように行きたい場所を告げる。


「どうせ行くなら、行くのが難しそうな国外に行ってみようと思うんだけど、何も知らないと何があるかも分からないから、それならコンラットが多少何か知ってそうなハンデルにしようかなと俺は思ってるんだけど…」


「知っているといっても本で読んだだけで、活気があり、珍しい品を取り扱っている店も多いというくらいしか知りませんよ。なので、私に期待されても困ります」


「その店が何処にあるかとかも分からないのか…?」


「行った事もないのに、どこに何があるかまで分かるわけがないでしょう…」


行き先を決める話になった時、物知りなコンラットから情報を得ながら色々と考えていたけれど、紙の上から見ただけじゃ街を案内するのは無理なようだった。


「そうかぁ…。じゃあ、ネアは行った事があったりするのか?」


僕達と違って色んな所に出かけた事があると言っていたネアへと話を振れば、凄く嫌そうな顔をしながらも、僕達の質問に答えてくれた。


「昔に行った事はあるが、しばらく行っていないからな。記憶も曖昧だし、街の様相が変わっていたら案内できるかは分からない。だから、もう無難な国内にしておいたらどうだ?」


「それだとありきたりで面白くないだろ?どうせなら、見知らぬ場所に行って冒険したいじゃんか?」


他の2国とは仲が良くないから、見つかった時に面倒だと言っていたネアが妥協した方が良いと諭すように言うが、それじゃあ物足りないとばかりに言葉を返す。すると、それを傍で聞いていた人物がある提案を口にする。


「それならば、ワシ等がいた国に行くかの?それであるならば、多少なりとも案内できると思うぞい」


「本当か!?」


「こっそりと街に下りて行った事もあるからのう」


「……」


「な、なんじゃ!?」


朗らかに笑いながら言った言葉にバルドが食いつくように問い返せば、直ぐに肯定するような言葉が返ってきた。だけど、それを聞いたネアはまるで余計な事を言うなとでもいうような鋭い視線を向けていて、その視線を向けられた方は、善意で言った言葉で何故そんなに睨まれなければならないのかというような様子で驚いていた。でも、そんな話に納得できないのがもう1人いた。


「ねぇ!?コイツ等も連れて行く気なの!?」


「別に案内役って事でなら良いだろ?だって、お前は街の中では外に出られないから役にたたないし」


「連れて行ってあげる時点で私が一番役にたってるでしょう!?それに、元いた場所に帰るんだったら、コイツ等が付いて来る必要ないじゃない!?」


彼等の方を指差しながら猛然と抗議の声を上げるけれど、ティの言い分もその通りだなと思っていたら、こういうのに興味なさそうな顔をしていた人が、意外と乗り気な態度を見せた。


「そうだな。帰るだけだから大した手間でもない。だから、俺がお前の役を代わり、全員をそこへ行ってやろうか?」


「はぁっ!?何でアンタの手なんか借りなきゃいけないのよ!それに、これは私が頼まれてたんだから私が連れてくのよ!アンタは引っ込んで、そこで見てなさい!!」


「そうか、それは楽しみだな」


相手はティの扱い方が分かっているようで、売り言葉に買い言葉で叫ぶティに対して悔しそうな雰囲気もなく、上手くいったとでもいうような小さな笑みを浮かべながら、そこまでの道を作ろうとしているティの姿を見ていた。


「上手く転がされているな」


「…うん」


「性格が分かりやすいですからね」


「ただ単に馬鹿なだけだろう」


傍から見ていて、してやられている感があるけれど、本人がそれに気付いていないなら良いかと、僕達は何も言わずにそっとしておくことにした。


「それで、お前等の事はなんて呼べば良いんだ?」


一応、名前だけは知っているけれど、僕の屋敷に来てからもあまり関わる事もなく、司っている属性の名称で呼んでいた。だけど、町中で精霊であると分かる呼び方で呼ぶわけにもいかず、バルドが急きょ一緒に行くことになった人達へと視線を向けながら尋ねる。


「キールでいい」


「私もグレイで良いよ」


「ワシもイセリアで…」


「ジジイで良いだろう」


「この人はお爺さんで良いよ」


「なぜ、ワシだけ名前は駄目なんじゃ!?」


気兼ねなく名前呼びを許可してくれたのは良かったけど、精霊王に対してだけは即座に否定の言葉を口にして、精霊王の方も仲間はずれにされたような対応に納得できないと声を上げるけれど、やはりその視線は冷たい。


「子供がジジイを呼び捨てにしたら不自然だろう」


「まぁ、ここは孫ができたとでも思って、爺さんで良いんじゃない」


「……孫か。悪くないかもしれんのう。ワシは爺さんで良いぞ!」


グレイに丸め込まれるように、まんざらでもなさそうな笑みを浮かべると、あっさりとお爺さん呼びを承諾しており、奇しくも一緒に行く人数が増えたのだった。

お読み下さりありがとうございます

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