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書庫

アルファポリスで先行投稿中


昨日聞いた外出が楽しみ過ぎて、ほとんど眠れないまま朝になっていた。


今日から3日間は、授業がお休みなので、特に予定がない。父様達を見送ってから、母様の部屋にいたけど、さすがに邪魔になるかと思って、昼食の後は部屋に戻って来ていた。


今までだったら、使用人の誰かと遊んで貰っていたけれど、今では頼みにくいし、会いたくない。裏庭で遊ぼうにも、今にも雨が振りそうな空なので、それも無理そうだ。


「はぁ…また母様の部屋に行こうかな…」


部屋を出て、母様の部屋へ行く途中、兄様の部屋の前を通っていい事を思いつく。


「そうだ!書庫に行ってみよう!」


いつも兄様がいる書庫に行けば、普段何を読んでいるのかが分かるかもしれない。そうすれば、兄様と仲良くなれるヒントだって見つかるかもしれない。


その場の思いつきではあったものの、考えれば考えるほど、いい考えのような気がして書庫へと向かった。途中、僕がピアノを練習している部屋の近くを通って、意外と書庫に近かったんだなと何気なく思った。


書庫の扉を開ければ、部屋の中にはたくさんの本で溢れていた。端の本棚から順番に、本のタイトルを見ていけば、どれも難しそうなタイトルばかりで、僕には理解出来そうなものがなかった。


「そういえば、読める物がなかったから、ここに来なくなったんだっけ…」


昔、探検をしている時に一度ここに来たけど、何も面白そうな物がなかったから、まったく来なくなった事を思い出す。それでも、僕でも読めそうな本を探してみるが見つからない。


図鑑なら絵がたくさんあるから大丈夫かなと思い、本棚から引っ張り出す。僕は、それを持って書庫にある机の上に広げて見る。


図鑑には、見たことがない魔物とかが乗っていたけど、まったく興味を引かれない。授業でいるとは聞いても、魔物なんて一度も見たことがない。王都の外に行った時だって、森とかを通ったのに出てこなかった。


「本当にいるのかな?」


だんだんとページをめくるのにも飽きてきたうえ、昨日眠れなかった事もあり、僕はいつの間にか本を枕に寝てしまっていた。そして、僕が目が冷めた時には、すでに夕方になっていた。


寝ぼけ眼であたりを見渡せば、兄様が僕の隣の席に座って、静かに本を読んでいた。


「に、兄様!!」


兄様は、僕の声を聞いてこちらに視線を向けたが、本の方へと視線を戻し、再び本を読み始めた。


僕は、すぐによだれなどを図鑑に垂らしていないかを確認する。兄様の本を汚したりしたら、ますます兄様に嫌われそうだ。なんとか、本は汚していなかった事に安堵する。


しかし、兄様と二人だけの部屋はなんとも居心地が悪い。何を話せばいいのか、話題がまったく思いつかないが、とにかく兄様に話かけてみる事にした。


「あ、えっと、に、兄様…?」


兄様は、こちらに視線を向けた後、読んでいた本を閉じて席を立ってしまった。そのまま、書庫を出て行こうとする兄様に慌てて声をかける。


「あ、あの!明日も来ていいですか!?」


言った後で、自分は何を言っているんだろうとは思ったけど、その時はその言葉しか出てこなかった。


「…ここは俺の部屋じゃない、好きにしろ」


その言葉を残して、兄様は書庫を去って行ってしまった。


僕は、その後ろ姿をただ見送っていた。その後、兄様が言った言葉を考えてみた。好きにしろって事は、明日もここに来ていいって事だよね?そう考えると、兄様との距離が、少し縮まったような気がした。


その日、夕食の席に父様の姿はなく、3人だけの食事は少し寂しかった。僕達が食べ終わる頃、父様が帰って来たと聞いて、今日の書庫での出来事を話すために、僕は父様のいる部屋へと走って行った。


次の日、朝食を食べ終えた僕は、一つの扉の前に立ち尽くしていた。


一晩たって冷静になったら、距離が縮まったと感じたのは、自分の勘違いだったのではないかと思えて、書庫の扉を開けられないでいる。


今日は、兄様も学院がお休みなので、たぶん兄様は書庫にいると思う…。でも、兄様がいると思うだけで、扉から威圧感のような物が出ている気もする……。


「どうしよう…」


「…入らないのか?」


「わぁ!」


急に兄様の声が聞こえて、驚いて悲鳴が上がる。後ろを振り向けば、眉間にシワを寄せた兄様が立っていた。


「えっと……」


兄様が怖くて、扉の前から後ずさるように道をゆずる。兄様は、そのまま扉を開けて中に入ると、昨日と同じ席で本を読み始めた。


僕は、扉の隙間から兄様の様子を覗く。兄様の眉間に、シワがよっていないか見ていたら、兄様と目があった。


「…入るなら入れ、気が散る」


「はい!!」


兄様に言われて部屋に入ったのはいいけど、特にする事がない。仕方がないので、昨日と同じ図鑑を引っ張り出して、昨日と同じ席に座る。


本を見る振りをして、横目で兄様の様子を盗み見る。兄様の読んでいる本に、経済と文字が見えて、見るからに難しそう…。沈黙に耐えられなくて、図鑑を広げながら兄様に聞いて見る事にした。


「兄様は、魔物って見た事ありますか?」


「何で…?」


「僕、一度も見たないので…」


「学院に行けば見られるだろうが、今は見られないだろうな」


「どうして?」


「知能の高い魔物は、本能的に自分よりも強い相手には近づかない。知能が低い魔物は、冒険者達が狩っているからいない」


「強い相手?」


「父上の事だ。魔物でさえ、父上の前では逃げて行く。だから、父上と出かけていれば、魔物を見る事はまずない」


ああ、だから今まで外に行っても見なかったのかと納得する。その後も、疑問に思った事を質問してみれば、兄様はちゃんと答えを返してくれた。食堂に行く時だって、僕が追いついてくるのを、途中で待っていてくれた。


フェリコ先生が言ったように、兄様は優しいのかな?


お読み下さりありがとうございます

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