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「なんかクラスの中も賑やかになったよな」


朝の出席確認も終わり、僕は一緒に連れてきていたヒナノを膝に抱き上げて撫でていたら、バルドも同じように連れて来ていたルドの頭を撫でながら教室の様子を見渡しながら言った。


本当なら教室の立ち入りは禁止さているけれど、学院での環境に慣れるまでの期間限定で、一時的に教室の中までの出入りを許されてはいた。だけど、当然のように授業もあるため、静かに出来なければ即座にその召喚獣の入室が厳禁になるうえに、召喚獣が何かした場合はその契約者が責任を取る事になっているから、みんなは大人しくしているよう召喚獣に今も言い聞かせたりしていた。


僕のヒナノや、バルドのルドはもともと大人しい性格だから、騒ぎを起すような事はしない。だけど、そういった時も召喚獣の行動がちゃんと制御出来るかも大事だと授業でも言っていたから、僕にもちゃんと出来るかは少し不安な所がある。


「だけど、コンラットの召喚獣も教室に入れれば良かったんだけどな」


「教室に呼ぶには、私のグラニは少し大きいですからね」


僕が少し物思いにふけっていると、僕の耳にそんな声が聞こえてきた。コンラットの召喚獣は馬の姿をしているから、それなりの大きさがある。だから、今日も専用の厩舎に預けて来ているけれど、それと同じ理由で教室に連れて来ていない生徒もいて、今の教室にいるのは小さな召喚獣だけだけど、それでも教室が狭くなったように感じる。


「それに、私もグラニに掛かりきりでは、ネアばかりに2人の監視を任せる事になるので、それはそれd少し悪い気がしますしね」


「まるで俺達が不真面目みたいな言い方だな」


「実際、授業中はよそ見ばかりで、全く集中出来ていないようでしたが?」


「見てたのか!?」


「やっぱりそうでしたか…」


「なっ!?騙したな!?」


不貞腐れたような態度のバルドだったけど、コンラットからカマを掛けられるとあっけないほど簡単に自白した。だけど、やり込められて悔しかったのか、そのままの勢いで憤りを露にして抗議するけど、コンラットの方はまるで何時もの事でも言うように、全く取り合う様子がない。


「別に騙していませんよ。全く、ルドの方が大人しく授業を聞いているのに、貴方は何をしているんですか?貴方は、少しルドを見習った方が本当に良いですよ」


「うぅっ…!」


授業の間もお行儀良く伏せをしているのを見ていて知っているからか、バルドは痛い所でも突かれたかのようなうめき声を上げていた。だけど、落ち込んだバルドを励ますように体を擦り付けるルドや、それと戯れているバルドの様子を見ていたコンラットが、少し拗ねたような顔する。


「私だって我慢してるんですから、貴方の方が躾がなってないなて言われないようにした方が良いですよ。


「あぁ!お前、寂しかったから不機嫌だったのか!それなら休み時間にでもみんなでグラニの所まで行こうぜ!あっ!でも、それだとネアだけがいなくて寂しいか…」


図星でも突かれてようなコンラットを横目に、考え込むような仕草で、1人だけそういった存在がいないネアへと視線を向ければ、落ち込む素振り所か気にした様子すらなく、なに言ってんだコイツとでも言いたそうな顔をしていた。


「あのなぁ?俺がそんな事でそんなの感じるわけないだろう?だから、お前等も好きなように勝手に呼んでれば良いし、むしろ、その方が練習になって良いだろうが」


「気にしないって言うなら良いけど。でも、お前の場合はもうルイで良いんじゃないかって思うくらい一緒にいるしな」


「確かに、それは良い案かもな」


「そんなの直ぐに分かる嘘を付いた所で、余計なトラブルになるだけですよ」


「冗談だ。それに、こんな危ない場所に本当に連れて来るわけないだろう」


コンラットの言葉に冗談だと答えているけれど、僕の屋敷での言動を見過ぎているだけに、何処までが冗談だったのかは分からない。けれど、今の所はルイを此処に連れて来るつもりはないようで、そこだけはきっぱりとした態度を取っていた。


「ネア。危ない場所って言うが、此処は学院なんだから、危ない場所っての違うくないか?」


「此処には、質の悪い悪ガキ共が大勢いるだろう」


まるでそこかしこにいるとでも言うように、教室の隅の方にも視線を向けたけれど、そこには以前に揉めた事がある子がいて、何となくネアの言いたい事が分かるような気がした。


「そういえば、召喚獣を連れている街の子は絡まれ易いって言ってたよ」


「そうなのか?」


「うん。平民のくせに生意気だって因縁を付ける奴がいるんだって」


「ろくでもないな。そもそも、それで優劣を付けようとすること事態が小さいよな」


昨日聞いたばかりの話しをすれば、ネアと同様にバルドも嫌悪感を露にしながら悪態を付いていた。


父様が無理をしてヒナノを連れて来てくれたから、僕もみんなと同じように一緒にいられるけど、それがなかったら一緒にいられなかった。だから、そんな僕としては、いてくれるだけで嬉しい相手で優劣を決めるようとする気持ちが分からない。


「そんな奴は毎年腐る程いるだろうな。まぁ、排除に向かわないだけ、まだマシなんじゃないか?」


「排除って…お前なぁ…そんな物騒なこと言うなよ…」


「昔は結構あったんだぞ?」


「昔って、それ何時の話しだよ?」


「……建国時を少し過ぎた頃の話だな」


「そんな昔の話を今されてもなぁ…」


「それもそうだな」


歴史が得意な方なバルドでも、さすがに昔過ぎて少し困ったような顔をしながら答えれば、言い出した方のネアも直ぐに納得の声を上げていた。だけど、コンラットの方は少し疑問を抱いたようだった。


「そんな話しを私は聞いた事がないのですが、それは何処からの情報ですか?」


「図書館の本にでも乗ってたと思う」


「そうですか。なら、今度探してみる事にします」


図書館にある大量の蔵書量の中から、目当ての本を探すのは大変そうだと思うけれど、前に全部読んでみたいって言ってたから、本人はそれ程苦じゃないのかもしれない。でも、僕にはとても無理そうだ。だけど、そう思ったのは僕だけじゃないようだった。


「俺には絶対に無理だな。一冊目で寝そう」


「そんな堂々と言う事ではないですよ」


「仕方ないだろ?事実なんだから。まぁ、面白そうな話しでも乗ってたりしたら別なんだけどな。そういえば、面白い話しじゃないけど、今日学院に来る時に召喚獣が消える事件が起こってるって話しを街の奴から聞いたんだけど、ネアは何か知ってるか?」


「あぁ、そんな話しを確かに聞いたな」


バルドの問い掛けにネアは興味なさげな声を上げるけど、何が事件なのか分からなかった僕は、疑問に思った事を口にした。


「でも、姿が見えなくても、呼べば良いんじゃないの?」


「俺等みたいな奴なら良いけど、入学したての奴等とかには無理だろ。だから、街の衛兵達は子供の戯言みたいな扱いで、まともに取り合ってくれないらしいんだ」


「だろうな。自分が持ってないものを持ってるやっかみを持っている連中は、聞く耳さえ持ったないだろうからな。だけど、街の衛兵なんてそんなものだろ?」


「そんな事ないって!ソイツ等がただ不真面目なだけで、他の奴等はちゃんとしてるって!!」


関係者が家族にいるからか、バルドはネアの発言に納得出来ずに抗議すれば、ネアは相手をするのが面倒くさそうな様子で口を開く。


「そうだな。腐っているのは下だけで、上の方は意外とまとも奴等だけだからな」


「当然だろ。まぁ、帰ったら親父や兄さんにも言うから、どっちも直ぐに解決すると思うけどな」


バルドは何気い調子で言っているけれど、ベルンハルト様の性格を考えると、解決すると言うよりも、その衛兵達が真っ先に罰を受けて終わりそうだ。でも、そこは自業自得なのかもしれない。


「でも、何処に行ったんだろうね?」


特に興味が惹かれなかった衛兵の事よりも、いなくなった召喚獣についての話題を戻せば、バルドは少し考える混むような仕草をしながら宙を睨む


「うーん、門を潜らないと王都の外には出られないから、飛べない限り中にはいると思うんだけど、王都は広いからな。それに、裏路地とかは複雑で、余程慣れてないと地元の奴等も迷子になるらしいからなぁ…」


「確かに、この前チラリと見ただけでしたが、随分と入り組んでいるように見えましたね」


「長い間、色々と立て直しや増築したりしたせいで、複雑化したみたいだからな。それに、治安が悪くて地元の奴等でさえ近付かない場所もあるくらいだから、全部の道を知ってる奴なんてスラム街の奴等だけだって言ってたけど、そんな奴等との知り合いなんて俺にはいないからさ」


「いや…そこはいない方が普通だろ…」


平然とあり得ない事を言ったバルドに、さすがのネアも何処か引いているようだった。だけど、バルドの方は何が問題なのか分かっていないような顔で首を傾げながらも、まあ良いかとでもいうように話題を元に戻した。


「とりあえず、俺達が探せないようなそういった場所は、衛兵に頑張って探して欲しい所だよなぁ」


「アイツ等は治安維持が仕事みたいなもののくせ、中々腰が重くて動こうとしないからな。それなのに、来なくていい奴ほど無駄に来たがったりするしな」


まるで実体験でもあるかのように言うネアだってけど、その一言で学院まで付いて来ようとした事があるティを思い出し、今日の朝も似たような出来事があった僕は、愚痴でも溢すかのようにみんなにその話しをした。


「そういえば今日、話しを邪魔された仕返しにって、ティがこっそり父様に付いて行ったみたいなんだよね」


「それ…大丈夫なのか…?」


「兄様に聞いたら、父様の顔が効く城の中なら簡単に揉み消せるって」


「それはそれでどうかと思うけど、普段が大変そうだからなぁ…」


僕が学院に行く時に付いて来ようとしたりすると、何時も兄様がそれを阻止してくれているから、今までは付いて来たりした事はないけれど、そのせいで何時も八つ当たりされていた。そのせいもあって、自分で対処が出来そうな父様には、あえて関わろうとはしなかったようだった。そんな兄様の苦労を僕から聞いてしているだけに、バルドは少し同情したような苦笑いを浮かべていた。だけど、そんな何とも言えないような気まずい空気を払拭するかのように元気な声を上げた。


「そういえば、今年の夏休みは何処に行くんだ?今年は軍資金があるから思う存分出掛けられるぞ!」


「軍資金って、バイト代を全部使うつもりか?」


「全部は使わないって。だって、そんな事したら、親父達から疑われるだろう?」


「まぁ、急に金回りが良くなったら不自然だからな」


「だから、今から何にいくら使ったらバレないか、考えておこうと思うんだ!」


「いくらなんでも、それは気が速いと思いますよ…。それに、休みの前に宿題が先ですからね…?」


待つ休みまで、2,3ヶ月もあるのに、あまりにも気が速すぎるバルドの発言に、コンラットは呆れたような声を上げていた。けれど、未だに何の話しも父様から出ていないから、とりあえず屋敷に帰ったら父様に聞いて見ようと思った。


「父様!おかえりなさい」


「ただいま」


何時もより少しだけ遅く帰って来た父様に、玄関先で待っていた僕が声を掛ければ、何時になく疲れたような様子で馬車から降りた父様が返事を返してくれた。


「疲れているみたいだけど、どうしたの?」


「アレが、城の中で騒ぎを起こしてね…。その対応で余計な仕事が増えてしまったんだよ…」


「あぁ…」


「別の事に気を取られ、注意が疎かになっていた私も悪いのだが、何とも頭の痛い話だ…」


何だか大変そうな父様を前に、こんな話しをしても良いのかと僕が躊躇っていると、父様の方から僕へと問い掛けて来た。


「私に、何か話したい事があるんじゃないのか?」


「何で分かったの?」


「此処で待っている時は、頼み事がある時だからね」


僕の行動なんかお見通しなようで、僕が屋敷の中へと入りながら学院での出来事を話し、夏休みの予定を尋ねれば、仕事との兼ね合いもあるのか、少し考え込むような顔をした。


「そうだね。何処へ行くかはまだ決めてはいないが、今年は出来るだけ穏やかな時を過ごせれば良いものだ…」


去年はずっと落ち着き事が出来なかったからか、まるで願い事でもするかのように天を見上げていたけれど、何となく父様の願いは叶いそうにもない気がした。

お読み下さりありがとうございます

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