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職場の先輩

「お前、この忙しい時に何で油売ってんだ?」


「あっ!すいません!」


僕達と話していたバルドの後ろから、茶髪の目立たない感じのお兄さんがお盆を片手に少しだけ叱るような声が聞こえて来た。すると、バルドは振り返り様に謝罪の言葉を口にする。


だけど、初めて見る人だっただけに、その人の事を戸惑いながら無言で見ていると、それに気付いてたバルドが、その人の事を手で指し示しながら紹介し始めた。


「まずは紹介するな!この人はロウさんって言って、一言で言うなら此処での先輩だな!」


「先輩だなんて呼ばれる程、大層な者でもないんだけどな。なにせ、コイツと違って俺には性も何もないしな」


「俺だって今はただのバイトだし、此処ではそんなの関係ないだろ!?」


「あっはっはっ、まぁ、こんな所で働こうなんて考える奴には、確かに関係ないわな!」


バルドからロウさんと呼ばれたその人は、バルドの言い分に大きな笑い声を上げながら、納得したような声を上げていた。そんなお互いの会話を聞く限り、仲が良さそうだったけれど、そんな相手の様子にコンラットは何処か疑問を感じたようだった。


「バルドの事を知ってるのに、随分とお互い砕けた口調なんですね?」


「あぁ、それは俺から敬語なんていらないって言ったんだ。だって、こんな下町の店で敬語なんて使ってたって違和感しかないし、それに1番年下の俺だけが敬語使われてたらおかしいだろ?」


「こんな下町の店で悪かったな。まぁ、本来ならその提案を断るべきなんだろうが、そのせいで此処に貴族がいるなんて知られたら、それこそ大事になりそうだったからな。それに、コイツがそれを気にするような奴じゃなかったしな」


まるで事件に巻き込まれでもしら困るとでも言うような感じだったけど、何処か心配しているようでもあった。でも、店の中から聞こえてくる話し声などを聞いていると、学院とかでは聞いた事がないような荒い口調で話す人達もいて、面倒事に巻き込まれ易い僕としては、凄く納得出来る理由だった。


「俺としては少し不満な理由だけど、店側に迷惑を掛けるわけにも行かないからな。あぁ!紹介が遅れたけど、こっちは友達のコンラットとリュカだ!」


忘れてたとでも言うように僕達の事を紹介するのは良いけれど、1人紹介し忘れていると思って僕はバルドへと声を掛けた。


「あれ?ネアは?」


「えっ?あぁ、ネアはもう顔見知りみたいなものだからな」


「顔見知り?」


僕が疑問の声を上げれば、横に座っていたネアからはさも当然だとでも言うような声が返って来た。


「此処は俺の店とも関係が深い場所だから、此処で働いている奴等ともある程度は顔見知りだ。そもそも、知らない店を働き場所として紹介する訳ないだろう」


「あぁ」


「確かにそれもそうですね」


仕事を先を紹介する時に、信用できないような店を紹介したりしないかと納得していると、そんな僕達の会話を見守っていたロウさんが僕へと声を掛けて来た。


「それと一つ聞きたいんだが、ソイツってレグリウス家の人間か…?」


店に入ってからもフードで髪を隠していたのに、何故か僕の方を疑うような視線で見て来たと思ったら、的確に僕の正体を見破って来た。その事に僕が驚きながらも、今までの経験もあって少し警戒していると、バルドが僕の代わりに疑問を口にした。


「名前しか言ってないのに、リュカがそうだって良く分かったな?」


「そりぁ、フードから見えた髪の色が銀色だったからな」


まるで気付いたら不味かったかとでも言うように言うが、その顔は挑発的な笑みを浮かべていて悪びれた様子はない。だけど、これだけ近くで見れば、フードで隠しきれない髪とかで分かるかなと1人で納得しながら警戒を解いていると、ニヤリとした笑みを深めた。


「それで、俺はお前等に敬語でも使った方が良いのか?」


「ロウさん、リュカ達も俺と同じでそんなの気にしたりしないって!なぁ!?」


「うん。それは、別に良いよ」


「そうか。なら、使わねぇ」


僕がそう答えれば、ロウさんは全く迷う素振りすら見せずに言った。店に入った時は着ている服もあって、周囲から見られていたりもしていたけれど、今はこちらを気にしているような人もいない。だから、それはもうどっちでも良いかとでも言うような態度でもあった。


「でも、僕の髪って本当に目立つんだね」


何時も直ぐに気付かれる髪を掴みながら、僕が誰ともなしに呟けば、ロウさんもさりげない口調で言った。


「それもあるが、俺はお前の兄とは同じ学年だったからな。嫌でも噂を聞いて知ってるし、遠目で見た事もある」


「えぇっ!じゃあ、兄様と一緒のクラスだったりしたの?」


殿下以外で兄様の同級生に会った事なんてなかった僕は、その言葉に驚きの声を上げたけれど、何故か鼻で笑われてしまった。


「俺みたいなのが、優秀者しか入れないようなクラスに行けるわけないだろ。そもそも、ただの平民が貴族なんかと一緒にのクラスにいられるわけないだろ」


吐き捨てられるように言われたその言葉に、僕達の視線がネアへと向く。だけど、当人は至って平然とした様子で、ルイの事を撫でていた。ロウさんもその視線に気付いたようで、意地悪い笑みを浮かべていた。


「そういえば、それで平然としてる変わり種もいたな。だが、お前の兄は色んな意味で有名だったから、噂話とかにも事欠かなかったしな」


「それってどんな話し?」


兄様の話しを聞ける人が限られているうえに、兄様がそういうのを嫌って止めてしまう事もあるから、そういった話しは滅多に聞けない。だから、僕が知らないような話しが聞けるかと思って興味津々な様子で聞けば、向こうも楽しげな笑みを浮かべた。


「彼奴、お前のせいで婚約を相手から解消されたと因縁を付けられて決闘騒ぎにもなったり、勝手な妄想で付き合ってるとた主張する令嬢から追い掛けられたりしてたな」


「ロウさんはそれを見た事があるの?」


「いや、直接見たりはしてないが、決闘騒ぎは実力差があり過ぎて全く勝負にならなかったらしいし、与太話を信じる奴もいなかったみたいだな。まぁ、その後も見初めて貰えるかもしれないと婚約者を作らずにいたらしいが、その他にも似たような理由で婚約者を作らない令嬢もたくさんいたって話しだから、その間の男共は大変だったみたいだかな。だが、卒業した今は令嬢達の方がさぞ焦っているだろうな」


まるで他人の不幸が面白いとでも言うように、笑いながら語るロウさんを見ながら、新年祭で兄様を取り囲んでいた令嬢達の様子を思い出して僕が苦笑いを浮かべていると、そんな僕にも意地悪い笑みを向けて来た。


「何だ?気を悪くしたか?」


「ううん、そうじゃないけど…」


「そうか。まぁ、問題を起こすだけじゃなく、一応は付き人らしく王族と学院での揉め事を解決してはいたぞ。傍から見てもと渋々といった様子ではあったけれどな」


兄様を擁護するような言葉に、2人の普段の様子を知っているだけに僕は、兄様が殿下に引きずられるようにして連れ回されているのが、何となく想像が出来るようだった。


僕がそんな物思いに少しふけっていると、腕の袖を引っ張られる感覚がして、そのまま下へと視線を向けると、ティが何か良いたそうに僕の事を睨んでいた。なんだろうと困惑しながら考え込んでいると、僕がその答えを出す前に口をロウさんが口を開いた。


「と、何時までもさぼってたら、俺まで店長にどやされるな。お前も長居してっとどやされるならな」


「はい!」


そう言いながら仕事に戻って行く後ろ姿に、バルドが元気に返事を返しているのを僕達も静かにそれを見送っていると、それまで我慢していただろうティが盛大に不満をぶちまけて来た。


「何であんな面白そうな話しの続きを聞かないのよ!?」


「ちょっ…!お前っ!」


突然の大声に、バルドが慌てた様子でティの口を塞ぐけれど、その声に驚いた店のお客さんからの視線が僕達に集まって来た。だけど、ティの姿が僕とバルドの腕の影で見えず、僕達の中にも女性の姿がなかったからか、他の席の声を聞き間違えたかなといった感じで、さほど疑問を持つ事なく、みんなそれぞれの話しに戻って行った。


「お前は声が大きいんだよ。見つかったら不味いって分かってるか?」


「うっさいわね!そんなの分かってるよ!」


周囲の目がなくなるのを待って、バルドが塞いでいたティの口から手を離せば、途端に抗議の声を上げて来るけど、さっきより声は低くなっていた。でも、それでもまだ声が少し大きいような気がする。


「お前、本当に自分の立場が分かってるのか?」


「でも、アンタ等は上にいる人間なんでしょう?だったら、アンタ等に喧嘩を売るような馬鹿なんていないだろうから、バレても大丈夫でしょ!」


バルドが珍しく苦言を呈するけど、まるで寝耳に水と言った感じで聞く耳を持とうとしない。そんなティに、それでも根気強く注意の言葉を投げ掛ける。


「あのなぁ…お前みたいなのがいたら、それだけで騒ぎになるだろ…」


「騒ぎたって、森の主を連れて来るのだって違法なのに、誰も何も言って来ないうえ、騒ぎになってもないじゃない。だから、私1人増えたってそう変わらないわよ」


「いやぁ…それはそうなんだけどね…」


ティが言った事が間違いではないだけに、僕達が二の句が付けないでいると、それに気分を良くしたのか、ティだけは陽気な声を上げた。


「それに、此処にいる奴等だって騒いでないしね。まぁ、気付かれたら気付かれたで、その時は人形の振りでもしてあげるわ!」


何処までも楽観的なティの言葉に、本当に大丈夫かなと不安に思いながらも、父様なら何があっても大丈夫かなと思う自分がいた。

お読み下さりありがとうございます

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