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バルドらしい


「昨日、屋敷に帰ったら父様達がちゃんと仲直りしてくれたみたいで、普段通りの様子に戻ってたんだ」


「それなら良かったな。だって、昨日はずっとそわそわして落ち着きなかったもんな」


「ですが、今度からはせめてリータス先生の授業の授業だけは集中した方が良いですよ」


「…うん」


昨日の僕の様子を心配してくれていたみんなに、昨日の事を朝の教室で話していると、気もそぞろで授業に集中出来ずに叱られた事をコンラットに改めて注意された。そのせいで、安堵していた気分から、少しだけ落ち込んでしまう。


「まぁ、良いじゃないか。リュカだってそんなに悪気があったわけじゃないんだから。俺だって兄貴と親父がずっと喧嘩してたら居心地悪いぞ。コンラットだってそうだろ?」


「ただ気を付けた方が良いと言っただけで、気持ちが分からないとは言ってないですよ」


「そうか?まぁ、リュカが叱られるのは珍しくないしな。何にせよ、元に戻ったって言うならそれで良いか」


コンラットが少し不満そうに言った言葉に、バルドは何処か小首を傾げながらも、あっけらかんとした様子で笑顔を見せる。


だけど、歴史の授業で叱られるのは何時もの事のように言われるのは、少しだけ納得が行かない。でも、父様達の件を一緒になって喜んでくれているから、不満も口に出来ない。だから、僕は変わりにお礼の言葉を口にする事にした。


「そういえば、バルドがこの前言ってた事を父様に伝えたから上手く行ったんだよ」


「俺、何か言ったっけ?」


僕がそう言えば、考え込むような表情を浮かべながら、そんな事を言ったかなというような顔をする。


「ほら、やるだけやった方が後悔しないみたいな事を言ってたでしょう?」


僕が再度問い掛けても、全く身に覚えがないような顔をしていた。すると、そんな様子を見かねたのか、ネアが僕の言葉を補足するようにバルドへと声を掛ける。


「お前の兄に纏わり付いていた女の話しをした時に、それっぽいような事を最後に言ってただろう」


「あぁ。でも、あれは俺がって言ったと言うより母さんが言った事だけどな。それに、何か使い処が何か違う気もするけど、まぁ役に立ったなら良いか!」


ネアの言葉に、やっと腑に落ちたような顔をしていたけれど、それと同時に納得出来ないような表情をしていた。だけど、最後は考えても仕方がないとばかりに笑い飛ばしていた。


「お前って、本当に細かい事を気にしない奴だよな…」


「それが俺の良い所だろ!」


「それを自分で言いますか…?」


そんな様子に、呆れが若干混ざったような視線を向けられるけど、向けられた方のバルドは全く気にした様子もなく、胸を張りながら得意気な顔を浮かべていた。だけど、その途中で何かに気付いたようにその表情が曇る。


「なぁ…毎回これを見て思うんだけどよ…。冬休みは短いんだから、もう少し宿題を減らしてくれても良い気がするんだよな…」


その視線の先には、今日渡されたばかりで机の上に放置されている宿題の山に向いていて、うんざりしたような顔をしていた。


「何言ってるんです…?少なくなるわけないじゃないですか…」


「だってよ。俺等は町の連中と違って、パーティーやらお茶会に参加させられて時間が少ないんだから、もう少し考慮してくれてもさ…」


「お前なぁ、アイツが貴族だからって言う理由でそんな特別扱いすると思うか?」


「いや!全く思わない!」


ネアがあり得ないとでも言うような顔をで指摘すれば、何故かそれを言った方のバルドも、力強く頷きながら同意していた。他の先生なら多少は融通してくれるかもしれないけれど、リータス先生は絶対にそんな事しないと思う。むしろ、そんな事を言ったら、嬉々とした様子で逆に宿題の量を増やしそうだ。


「そもそも、如何にも苦労しているように言っていますが、それを手伝わされる私の方が大変なんですよ?」


「それは何時も感謝してるって!だから、今回も頼むな!」


「此処で断っても、どうせ屋敷まで押し掛けて来るのでしょう…。私だって忙しいんですから、出来る所は自分でやっておいて下さいよ…」


「おぅ!」


宿題の事で愚痴を溢しているバルドに、それで苦労しているのは自分だと言えば、手のひらを返したようにコンラットにお礼を言いつつも、ちゃっかりと頼み事も一緒にしていた。その事にコンラットは苦言を呈するような事を言っても、調子が良いような元気な声が返事を返しながら笑っていた。コンラットはそんな様子をいまいち信用で出来ないような表情を浮かべながら見返していたけれど、最後は自身の腐れ縁を笑うように小さなため息を溢しながら苦笑していた。


「それで、何時なら行って大丈夫なんだ?」


「年が開けた後でお願いします」


「はぁっ!?そんな遅くからやったって、宿題が終わるわけないだろ!」


「だから、出来る所はしておいて下さいと言ったじゃないですか…」


苦笑でもコンラットが笑みを浮かべたから、バルドは早速とばかりに予定を聞いていたけれど、コンラットからは冷めたような返事が返って来て驚きの声を上げていた。


「私…前から言ってましたよね…?」


「そういえば…そんな事言ってたな…」


コンラットから言われて、お茶会だけじゃなくて両親に付き添って夜もパーティに参加しなければならないから忙しいと言っていた事を思い出したようだった。


僕は仕事の話しばかりで退屈だろうと父様に言われているから、父様や兄様個人に届いている招待は免除されてるし、バルドの方も陛下の護衛や城の警備で忙しいベルンハルト様に変わって、ラザリア様やお兄さんが代表で出席しているから自分は関係ないと言っていた。だから、僕達2人は比較的時間に余裕がある。そう考えると、父様達が落ち着いて顔を合わせる機会が減る前に仲直りが出来たのは良かったと思う。


「ネアは…」


「俺も仕入れや搬送で忙しいから無理だぞ」


「だよなぁ…」


最近は僕の屋敷に遊びに来る事も少なくなったネアへと視線を向けるも、当然のように断られてバルドはがっくりと肩を落としていた。だけど、今の状況を不本意に思っているのはバルドだけじゃないようだった。


「稼ぎ時のせいでルイに触れなくなった分、馬鹿な貴族共から金を巻き上げてやる…」


「えっ…お、おぅ…でも、程々にしとけよ…」


ストレスでも溜まっているのか、急に悪どい顔をして不穏な言葉を口走るネアに、バルドは一歩引いたように顔を引きつらせながらも言葉を返していた。それでも、黒い顔で笑っているネアは少し怖いのか、少し距離を取ろうとしていた時に、何かに気が付いたように僕へと視線を向けて来た。


「そういえば、あの騒がしい奴はどうしてるんだ?最近、リュカの屋敷に行っても姿を見てないような気がするんだけど、また帰って来てないのか?」


ルイの名前が出た事でティの存在を思い出したのか、バルドは不思議そうな顔をしながら僕へと尋ねて来た。


「うん。新年際があるって知ったティが自分も行きたいって言い出したんだけど、父様から断固として断られたらしくて、今は拗ねて森に帰ってるみたい」


「いや…それは普通に考えて無理だろ…」


「参加でもしようものなら、騒ぎになる未来しか見えないですからね…」


「うん…だから、春まで家出するって言ってた…。でも、屋敷のお菓子は度々なくなっているから、こっそりと帰っては来てるみたい」


ティの言動には、2人は何処か呆れた表情をしていた。僕の屋敷の庭に道があるからか、ティは今までも好きな時に帰っていたり家出みたいな事はしていたけれど、今回は頼みの綱の母様からにも味方になって貰えなかったのも理由の一つみたいだ。でも、こればかりは仕方がないと思う。


「まぁ、アイツは簡単に行き来が出来るもんな。だけど、新年祭で疲れて帰って来た時とか、逆に静かで良いんじゃないか?」


「確か、その新年際で何か発表があるんだろう?」


バルドが僕に軽口のような事を言っていると、家の事で忙しくとも、宿題なんかで苦労なんてしないネアは余裕そうな態度で僕達に聞いて来た。けれど、全くの聞き覚えのない内容に、僕等は揃って首を傾げる。


「そうなの?僕は何も聞いてないよ?バルドは?」


「いや?俺も知らない」


「何で知らないんだよ…。だけど、お前等はそうだよな…」


宰相と騎士団長の子供なのにとでも言いたそうな顔をしていたけれど、僕の様子の様子を見て期待した自分が馬鹿だったかのようにため息を付きそうになっていた。だけど、それは今に始まった事じゃないから、最初から聞く相手が間違っていると思う。そんな僕達の反応が分かりきっていただろうコンラットは特に表情に大した変化もなく、平然とした様子でネアへと視線を向けていた。


「ネア。それは誰から聞いた情報なのですか?」


「さぁ、誰だったか忘れたがな。ただそういう話しを耳にしただけだ」


「商人達の耳は速いと聞きますが、本当に速いんですね」


「そうだね」


「いや!俺だって下町の情報なら速いぞ!」


「バルド…そんな所で張り合ってどうするんですか…」


「お前貴族だろ…」


ネアに張り合うように自信を漲らせるけれど、僕も下町の情報に速い貴族ってどうなんだろうと思うけれど、それが何だかバルドらしいなとも思う。一緒に見ている2人も、楽しげに笑うバルドの様子に呆れながらも仕方がなさそうに笑いながら見ていた。

お読み下さりありがとうございます

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