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やるだけ


今日も普段と変わらないような顔で朝食を食べているけれど、2人の様子はやっぱり何処かぎこちないように見える。そんな何時までも変わらない2人の様子を見るに見かねたのか、母様は父様の方を見ながら何かを催促するかのような仕草を見せた。すると、そんな母様の様子に急き立てられるように、父様は躊躇いがちに重い口を開いた。


「オルフェ。此の処、根を詰めて仕事をしていると聞いたのだが、今日くらいは少し休んだからどうだ?」


「父上がしている量に比べれば大した量はしておりません。それに、体調管理についても自身でしっかりと行っているので、その点においてもご心配には及びません」


「そ、そうか…」


自分の言動が原因であるためか、父様はあと一歩踏み込めずにいるようで、そんな父様の様子に母様はまるで頼りにならないとでも言うような厳しい目を向けていた。そんな視線に気付いて、父様は何処か肩身が狭そうな様子を見せると、このままじゃ埒が明かないと思ったのか、今度は母様が兄様へと向き直り、優しげな笑みを浮かべながら声を掛ける。


「オルフェ。仕事ばかりではなく時おり休む事も大事よ。そうじゃないと身体を壊してしまうわ。まぁ、アルは休み過ぎだと思う時はあるけど?」


先程の不甲斐なさからか、母様が父様へと鋭い言葉を投げかかると、父様は少し落ち込んでしまったかのように視線を下げていた。すると、後ろに控えていたドミニクの表情が見えて、その顔は何故か不憫な者を見るような顔になっていた。


「心配して頂かなくとも、軽食を取る際などに多少の休憩は入れています。それに、私は日付が変わってから隠れて仕事をしているわけではないので」


母様の問い掛けにも素っ気ないような様子で答える兄様が、父様の方へとチラリと横目で視線を向けたけれど、父様の方は素知らぬ振りをするように、食後のお茶に手を伸ばしていた。


「それなら、今度来て行くドレスの事で少しオルフェの意見も聞きても良いかしら?アルに聞いても、どれも似合うとしか言わなくて参考にならないのよ」


兄様が視線を向けたのにも関わらず素知らぬ振りをしたからか、母様から追撃が入って父様はお茶をむせそうになっていて、何だか少しだけ格好悪い。そんな間も父様を置き去りにするようにして兄様達の会話は進んで行く。


「いえ…私はそういったのは分かりませんので…」


「そんな事言わずに、少しだけで良いから。ね?」


「……分かりました」


何も言わない父様に変わって、母様が兄様を仕事から引き離そうと提案を口にする。兄様も、母様の企みには気付いているようだったけれど、一歩も引かないような母様を前に、頼み事を断り切れないようだった。


「それじゃあ、早速行きましょうか?」


「……はい」


母様の食事はまだ少し残っていたけれど、兄様は食べ終わると直ぐにいなくなってしまうため、それを阻止するかのように母様は先手で声を掛けていた。兄様も、母様が食べ終わる前に逃げれば良いと思っていたようだったけど、母様に先を越されるように逃げ道を防がれて、宛が外れたかのように大人しく母様の後に続いていた。母様達が部屋から出て行くと、後の食堂には僕と父様だけが残された。


「ねぇ?何で父様は兄様に後を任せてあげないの?」


兄様が後を継ぐ事を認めてくれさえすれば、兄様もこれ以上無理をする事もないし、父様も今みたいな苦労しないで問題が解決すると思う。そう思って、どうしたら良いか分からない様子で兄様が出て行った扉を見つめる父様に僕は問い掛ければ、こちらの方を振り返りながら少しだけ困ったように目尻を下げた。


「オルフェの事を認めていないというわけではないんだよ。ただ、どうにも話しに難い事もあってね。それをどう伝えたら良いのか分からないんだよ…」


「それは父様でも難しいの?」


「そうだね…。上に立つ者は清濁併せ飲む必要があるから、口に出して説明するのが難しい事が多くなって行くからね…」


力なく言った父様の言葉は、僕には少し難し過ぎて何が言いたいのかが分からなかったけれど、父様は兄様を認めていないわけではなく、ただ伝え方が分からないだけという様子だった。


「それに、オルフェは体調を崩しても隠してしまうような所があるから、エレナも余計に心配なんだろうね」


そう言った父様の顔は本当に兄様の事が心配しているようで、父様の視線は自然と扉の方へと戻って行く。僕から見ても兄様は無理をし過ぎているように見えるだけに、僕の視線も父様と同じ様に扉へと移る。


「それなら、そういうのも含めて兄様とちゃんと話して分かって貰えば?」


「うーん…私が今何を言ったとしても、オルフェは私の言葉に耳を貸して貰えるとは思えなくてね…」


「兄様はそんな事ないと思うけど?」


僕の拙い話しでも最後まで聞いてくれる兄様だけに、父様が言っている事があまりピンと来ずに首を傾げるけれど、そんな僕の様子に父様は小さく苦笑いを浮かべた。


「オルフェは簡単に自分の意見を曲げたりしないうえ、下手な言い訳でもしようならますます意固地になりそうだからね」


父様はそう言うけれど、むしろ兄様は父様に似て押しに弱い所があるからどうにも意固地という言葉は合わないと思う。それに、人付き合いが苦手が苦手な2人だけに、意地を張っているんじゃなくて、お互いに接し方が分からないだけのように感じた。


「父様。えっと…嘘で取り繕うより、自分に正直になった方が良いって」


「正直…?」


何の前振りもなく急に話しだした僕に、父様は何を言われたのか分からない様子で疑問符を浮かべなら聞き返す。


「うん、やるだけの事をやった方が後悔しないってバルドも言ってたよ」


「やるだけ…」


何かのきっかけになれば良いなと思って、バルドがそれぽい事を言っていた事を思い出しながらそれを伝えれば、父様はポツリと溢すように静かに呟くと、その言葉の意味を考えるように暫し考え込んでいた。


「はぁ…アイツからも良い加減どうにかしろと言われもいるからな…。リュカ。エレナの用事が終わったら、私もオルフェと少し話してみる事にするよ」


「うん!」


「そうと決まれば仕事をしている場合ではないな。ドミニク。今日は休むとレクスに知らせを頼む」


「かしこまりました」


笑顔を浮かべている父様を見て、これで仲直り出来るかなと思っていると、少し調子を取り戻した父様が後ろに控えていたドミニクに伝言を頼んでいた。ドミニクの方も、父様の行動を嗜める事もなく部屋を後にしたけれど、それを聞いていた僕は、母様じゃないけど父様はもう少し兄様を見習った方が良いと思ってしまった。


その後、僕は学院に行っていたから父様と兄様が話したかどうかは分からないけれど、夕食の席ではぎこちない雰囲気がなくなっていたから、2人はちゃんと話しは出来たようだった。

お読み下さりありがとうございます

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