優しい?
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お菓子を食べた後だった事や、馬車が通れる道が少し遠回りだった事もあり、僕は、馬車に揺られながらウトウトとうたた寝をしてしまった。その間に、馬車が屋敷の前まで到着していた。
「リュカ様、起きて下さい。屋敷に付きましたよ」
「…う、ん」
フェリコ先生に起こされて、眠い目を擦りながら馬車からゆっくりと降りる。
「ふぁ~」
馬車の外に出て、冬の風に当たってみても、防寒着を着ていて温かいせいか、眠気が覚めずにどうしてもアクビが出てしまう。
「そのままだと、お土産を落としますよ?」
「!!」
フェリコ先生の一言で、僕は一気に眠気が覚めて、手に持っている荷物の無事を確認する。そんな僕の様子を、楽しそうに笑うフェリコ先生が横目で見えた。少し意地悪に感じて、ムッとした顔で睨めば、余計に楽しそうに笑うので僕としては面白くない。
怒って顔を背ければ、一台の馬車が門から入ってくるのが見えた。馬車は、僕達の馬車の横に止まり、中から兄様が降りてきた。どうやら学園が終わって、ちょうど屋敷に帰って来たみたいだ。
兄様は、僕達の方に視線を向けた後、そのまま玄関の方へと歩き出したのを見て、慌てて兄様の後を追う。
「兄様!!」
僕が大声で呼べば、兄様は振り向き、僕が追い付くのを待っていてくれた。
「今日、フェリコ先生と街に出かけたので、コレ兄様にお土産です!」
「…………」
うさぎの人形を差し出すと、兄様は眉間にシワを寄せて、不機嫌そうな顔になってしまった。
「何で…これ?」
「フェリコ先生が…兄様は可愛い小物が好きって…言ってたから……」
僕の話を聞いた兄様が、フェリコ先生の方を睨むように見ているけど、フェリコ先生は気にした様子もなく、平然としていた。
「それとね、人形の目が、兄様の目みたいに…きれい…だった…から……」
「…………」
「オルフェ様。こういう時は、素直にありがとうと言って受け取るものですよ?」
僕達の様子を見かねたのか、フェリコ先生がフォローしてくれる。でも、僕としては、いらない物を無理矢理押し付けるような事はしたくない。やっぱり、駄目だったかな…。
「……いらないなら…いいです」
手に持っていた人形を下げようとした時、兄様が、僕の持っているウサキの人形を手に取った。それにつられて、自然と兄様を見上げる。
「……ありがとう」
何処か戸惑ったような表情でお礼を言った後、兄様は身をひるがえし、人形を片手に玄関前の階段を上って行ってしまった。
始めて見る兄様の表情に驚いた僕は、去っていく兄様の背中をただ見送っていた。
「受け取って貰えて良かったですね?」
「はい!!ありがとうございます!」
兄様が、お土産を受け取って貰えたのは、きっとフェリコ先生がフォローしてくれたおかげだ。父様を叱ったり出来る兄様に、言う事をきかせられるフェリコ先生は、もしかして我が家最強なのではないだろうか?
「……なんで、私をそんなキラキラした目で見てるんですか?それに、私が言わなくても、オルフェ様は優しい方なので、何を送ったとしてもちゃんと受け取ってくれたと思いますよ」
「?」
兄様が優しい?無表情か、不機嫌そうな表情しか見た事ないけど?
「そのうち分かりますよ」
フェリコ先生は、兄様の去って行った方向を見ながら、優しい表情をしていた。
その後、両親にもお土産を渡そうと、廊下を走ったら、また、ドミニクに叱られてしまった。しかも、箱の中身を確認したら、走ったせいかプリンの形が少しだけ崩れていた。で、でも、味に変わりがないから大丈夫!!
これ以上、プリンが型崩れしないように、念のためドミニクに預けたけど、その一部始終を見ていたフェリコ先生に、また笑われてしまった……。
その日、夕食の話題の中心は、僕が街で買って来たお土産の話だった。
「リュカが買って来たテーブルランプ、さっそく部屋に飾ったのよ」
「私は、貰った物はまだ使えていないが、明日から仕事場や普段用として使わせて貰うよ。オルフェは、お土産で何を貰ったのかな?」
「………人形を」
「人形?」
「えっと…兄様には、ウサギの人形を渡しました!」
言葉少なめの兄様に変わって、僕が父様達に説明すれば、両親揃って笑顔を向けてくれる。
「それは良かったな」
「良かったわね」
「………」
喜んでいる両親をよそに、兄様の眉間にシワが刻まれていく。僕は、話題を変えるために、父様に話を振った。
「父様に送った万年筆は、使いやすいので使ってみて下さい!」
「万年筆?ペレニアルペンじゃなくて?」
「え!ま、間違えました!ペレニアルペンでした!」
聞き覚えのある方で呼んでしまい、慌てて訂正をする。聞き覚えとは言っても、それ見た事や聞いた事あるというレベルで、実物を見るまでその存在すら忘れていたのだが…。
「……そういえば、街はどうだった?ちゃんと楽しめたかな?」
「はい!」
しばらく僕の様子を見ていた父様だったけど、街での事を聞かれたので、手振りを混じえながら、両親に語って聞かせた。
「でも、お店を出た後、何故か街の人の態度が変わっていたんです?」
「それは、馬車にあった家紋を見たからかもしれないね」
「家紋?」
「馬車に屋敷で良く見かける絵みたいな物が書いてあっただろう?あれは、レグリウス家の家紋なんだよ。だから、それを見たから街の人達に、リュカが何処の誰か分かったんだろうね」
「分かると変わるの?」
「すぐに、態度が変わる人なんて大勢いるよ。まあ、そういう人間はあまり信用は出来ないけど、街の人達なら大丈夫だよ」
「ふ~ん」
なんとなく、理由が分かった事で納得する。それにしても、馬車に書いてあるのが当たり前だと思っていたから、気にして見てなかったな。あれ、家紋だったんだ。
「でも、リュカが楽しかったみたいで、安心したよ」
「はい!楽しかったです!!」
何時も、こうして僕の話を楽しそうに聞いてくれる両親なら、ここではない世界での記憶があると言っても、笑って話を聞いて、信じてくれると思う。でも、この感覚を何と説明すればいいのだろうか?
本で読んだ主人公が、自分に重なってような、自分だけど、何処か自分じゃないような感覚を、両親にどう言えばいいのか分からない。でも、いつかは家族に、ちゃんと説明出来るといいな。
僕が、そんな事を考えているうちに、兄様は食事を終えて、食堂からいなくなっていた。
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