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次の日、学園へと行くと、僕が来るのを待っていたバルド達から昨日の件について聞かれた。だから、聞かれるままにラスクで会った2匹が来た事や、ハリソンさん達が来た事を話すと、みんなで会いに行こうと言う話しになった。元々、今日は僕の屋敷に来る予定だった事もあって、学院が終わった僕達は、屋敷の庭の一角にあった納屋を改修して作った2匹への仮住まいへとやって来た。


「やっぱり、近くで見るとまた大きいな!」


座っていても僕達の身長よりも大きい母狐を前に、バルドは見上げながら感嘆の声を上げる。だけど、それを側で見守るコンラットは一歩引きながら、少し怖がるようにバルドの背に隠れるようにしながら見上げていた。


「何だよ、コンラット?怖いのか?」


「いえ…そういうわけではないのですが……何もしないと分かっていてもどうにも身構えてしまって…」


「分かってるなら身構える必要なんてないだろ?コンラットって意外と怖がりだよな!」


「別に…怖がってるわけじゃ…」


「大丈夫だって!分かっているから!!」


最初の印象があるからなのか、コンラットはまだ少し苦手意識があるようだった。けれど、それを怖がっていると思われるのは嫌なようで、小さな声で強がるように反論の言葉を口にする。でも、バルドは全部分かってると言わんばかり態度で頷くからか、余計にコンラットの機嫌が悪くなる。


「だから、怖がっているわけじゃないと言ってるじゃないですか!」


「い、いや、別に悪いなんて俺言ってないじゃんか!!」


急に怒り出したコンラットに、バルドは狼狽えるように反論する。すると、喧嘩がそれ以上大きくならないように仲裁の声が掛かる。


「そうだな。怖がる事は別に悪い事じゃない。何せ、冒険者になって恐怖ってのは大事な物だからな!」


「そうなんですか?」


戦いを生業にしてる冒険者が、臆する事なく怖い事を怖いと言っている事が意外なようで、デリックさんへと不思議そうに問い掛ける。


「おぅ、恐怖を知っているからこそ正しく危険を察知して行動できるってもんなんだぞ!!」


「へぇー!さすが冒険者って感じだな!」


「そうだろう!」


バルドが思ったままに褒めれば、デリックさんは冒険者の先輩として貫禄を示すように格好良く決めていた。でも、その横ではハリソンさんが物憂げな表情をしていた。


「本当に、俺達は冒険者であって世話係じゃないんだけどな…」


「これまでにやらさらた他の依頼に比べたら、世話するだけなんてだいぶ楽な仕事じゃねぇか!」


あの後、父様から2匹の世話係を命じらてから、ハリソンさんは何処となく覇気がない。そんなハリソンさんに渇を入れるようにデリックさんが声を上げるけれど、その表情は晴れない。


「そうなんだが……あまりにも簡単過ぎて何か裏がありそうでなぁ…」


「それは、考え過ぎなんじゃないか?」


「そうか…?」


まだ推測の域を出ていない事もあってか、ハリソンさんは曖昧な返事を返しながら渋々と納得するような態度を見せる。だけど、優しい父様に裏があるわけないから、僕もデリックさんのように考え過ぎだと思う。


「そういえば、あの時お前らといたもう1人の坊主は一緒じゃねぇのか?」


「途中までは一緒だったんですけどね…」


「あれ?ネアは何処に行ったんだ?」


今はそっとしておこうと思ったようで、デリックさんは話題を変えるようにコンラットのへと問い掛けると、その言葉でバルドはネアがいない事に今気付いたかのように疑問を口にする。


「浮気はしないと言って、此処に来る途中でネアはルイを探しに行きましたよ」


「ネアって、常識人のようで意外と自由だよな。でも、そんなに好きなら俺は家で飼えば良いと思うんだけどな?」


「貴方と一緒ですよ。それと、商会をやっていると色々あるのではないですか?人によっては、そういった生き物を嫌っている方とかもいらっしゃるでしょうし」


「嫌いな奴とかいるのか?あんな利口で可愛い生き物いないと思うんだけどな?それに、店の方に行かせないように注意すれば良いだけだろ?ネアの親父さんは、細かい事で怒りそうな人でもなさそうだったし」


「そうですね。何度か会いましたけど、優しそうな人に見えましたからね」


「でも、彼奴は自分の事はあんまり話さないからな…」


「かと言って、あまり深くも聞き難いですよね…」


何度かネアの商会を訪れた事はあるけれど、あまり親子仲が良くないのか、他人行儀に接している所しか見た事がない。一度だけ、ネアのお父さんのノアさんと2人きりになった事があった時に、ネアと仲が良くないのかと遠回しに聞いた事があった。


「仲は悪くはないですよ。頼み事をすれば、多少文句を溢しながらも素直に頼みを聞いてくれますので」


「そうなんですか?」


「えぇ、ただ私とは親子だとは思われていないでしょうが…」


そう言った時の顔は寂しそうで、物悲しげに笑う薄紫色の目を僕が思い出していると、バルドも寂しそうな声を上げる。


「ネアから家族の話しなんて一度も聞いた事ないし、自由な事してるようで俺達にも踏み込んで聞いて来るような事なんてないよなぁ…」


「そう…ですよね…」


バルドが言った事に、コンラットもポツリと溢すかのように同意を返すけど、その声には覇気がない。


普段から助けて貰ったり、相談にも乗って貰っているから、言ってくれれば僕達だって力になるのに、ネアが何も話してくれないから何の力にもなれない。友達だと思っているだけに、その事が少し寂しい。


「まぁ、人生なんて色々だろうからな」


僕達がしんみりとしていると、その空気に同調するかのように、デリックさんが静かに言葉を溢す。


「冒険者家業をやっている人間なんて、スラム出身だったり没落した貴族とかがいたりで訳ありの人間の方が多いから、冒険者の間では他人の詮索をしない事が暗黙の了解になってるくらいだしな」


「背中預けてる相手の事とか、気になったりしないのか?」


「それでもだ。そいつが過去に何をしていたとしても、そいつの人となりなんかは一緒にいればだいたい分かる。大事なのは、今のそいつがどんな奴かって事だけだ」


「そうだな。何時死んでもおかしくはない仕事をした分、そいつの人間性や危険性とかも分かるからな」


「お前らはそういった経験なんて今後もしないだろうが、お前らはそいつに何か不満でもあるのか?」


まるで僕達に確認するように問い掛けられ、これまでのネアとの事を思い出す。


「文句を言いながらも何気に付き合ってくれるから、付き合いは良いよな」


「意外と面倒見も良いです」


「ちゃんとこっちを気に掛けてもくれるしね」


「だったら、何も問題なんかないだろ?」


デリックさんが満足そうな笑みを浮かべながら言った言葉を聞き、何処か満ち足りたような気持ちになる。


「そうだな!最近は素を出してくれるようになって来ただけ良いよな!?」


「最初の頃は、何処か一歩引いているような事が多かったですしね」


「うん!友達だって事には変わりないもんね!」


僕達が笑いながら話していると、ハリソンさんが楽しげな笑みを浮かべながらデリックさんの脇腹を少し小突く。


「お前にしては良い事言うじゃないか」


「何言ってんだ?俺は何時でも良い事を言うだろ?」


「いや、明日は雨だなと思った」


「何でだよ!?」


ハリソンさん達のやり取りに笑い声が起きると、デリックさん達を中心に温かな空気が流れる。だが、そんな空気が照れ臭かったのか、デリックさんは話題を変えるように僕へと話しを振った。


「昨日から思ってたが、まだコイツの名前決めてないのか?」


「うん、まだ決めてない」


僕が子狐の名前を呼ぼうとしないから気付いたようだったけど、あの時はそんな余裕なんてなかったし、その後も機会を失っていたため、今の今まで名前を付けていなかった。


「決めてないって、名前付けてあげるなきゃ可哀想だろ?俺だって最近相棒になった従魔に名前付けてるぞ」


「従魔がいるの?」


「あぁ、俺だけじゃなくハリソンにもいるぞ!前と違って遠出する機会が増えたから、貸し出し用じゃなく専用の従魔を貰えたんだ!まぁ、今は街の従魔屋に預けて来ているから、此処にはいないがな!」


「まぁ、冒険者でまずは試験的な運用をしていると言った感じだったな、アレは…」


何かを思い出すように言ったハリソンさんの目は、何処か遠くを見ているようだった。だけど、それに痺れを切らしたかのように、バルドが不満そうな声を上げる。


「今はおっさん達の話しなんかよりも、こっちの小狐の話しだろ。何か候補とかはあるのか?」


バルドから注意され、少し反省したような様子でハリソンさん達もこっちへと視線を向ける。


「これにしようかなってのはあるよ」


「どんな名前なんだ?」


「ヒナノ」


「ヒナノ?何か意味があるのか?」


「うん、前に兄様と一緒にいるために本を読んでいた時があったんだけど、その時に間違って外国の辞書を見た時があってね。それに、宝物って意味だって書いてあったんだ。それで、何か良い言葉だなと思って覚えてたんだ」


「良いんじゃないか!呼びやすいうえに、リュカでも覚えやすいそうな名前だし!」


「覚えやすそうは失礼ですよ」


笑いながらからかうように言った言葉に、コンラットが注意めいた事を言っているのを聞きながら、僕は子狐の方へと向き直る。


「どうかな?気に入っていれた?」


「キュン!」


僕が付けた名前を気に入ってくれたようで、ヒナノが嬉しそうに僕の足元で可愛らしく鳴いた。

お読み下さりありがとうございます

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