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目の前


「はぁ...こういう時こそ買い食いしたり、遊びに行ったりしてパァッと発散したいよな…」


すっかり気落ちしたバルドがまるで現実逃避でもするかのようにポツリと呟けば、コンラットもそれに乗るかのように疑問を口にする。


「そういえば、帰り道で一緒にいる子との姿を見かけないのですけど、何かあったんですか?」


「言われれみれば、僕も見てないかも?」


帰り道が一緒だからと言う理由で、よく下町に住んでいる子達と一緒にいる姿を見る事があったけれど、言われてみたら休みが明けてからはまだ見ていない気がする。だから、何かあったんだろうかと一緒になってバルドの方へと目を向けるが、そっと視線を逸らされる。


「いや…別に何もないけど…」


「ですが、休みが開けた後から寄り道もしていないようですが?」


「えっ?そうなの?」


「はい、前は私と一緒くらいか少し遅いくらいに帰っていたようでしたけど、今は私よりも速く屋敷に付いて私の帰りを待っていますから。まぁ、その分だけ約束の時間に余裕も出来たのでそれは良い事なんですけど、私が1人でいれる時間が減ったんですよね…」


バルドは途中で寄り道しながら帰って来るからか、馬車で遠回りして帰っているはずのコンラットよりも屋敷に帰って来るのは遅い。だから、何時もは一息付きながら準備をして、バルドが帰って来るのを待っていたようだったけれど、それがなくなって自分の時間が取れないような口ぶりだった。だけど、寄り道せずに時間を守って帰って来る事を悪い事と言えず、注意するのも違うように思ってそうな微妙そうな顔をしていた。


「でも、そんなに真っ直ぐ帰って来てるなんて何かあったの?」


「小遣い止められたから、今の手持ちが少ないんだよ…」


「あぁ…」


喧嘩でもしたのかと心配したけれど、バルドにとってはある意味でもっと現実的で切実な理由みたいだった。本人も、あまり情けない事を言いたくないかのように何とも歯切れが悪い。


「課題終わらせたらくれるって言ってたけど、この量を1ヶ月以内とか、絶対に無理だ…」


今持って来ている分はそこまででもないけれど、夏休みの宿題を終わらせてない事で出た罰の課題が、全部で夏休みの宿題くらいの量があった。長期の休みでもあったら終わったかもしれないけれど、毎日のように授業で出される宿題をしながらその量をする事になったら、僕も今のバルドみたいに頭を抱えそうだ。


もし、僕が母様から同じような事をされたとしても、父様達がこっそりと手伝ってはくれそうではあるけれど、そういった事に厳しい人が多いバルドの屋敷では、それは無理そうだ。だけど、頑張れば終わりそうで終わらない量を計算して出しているラザリア様は、少し意地が悪いような気もする。


「ですが、例えそれが終わらずとも、それでも多少は残っているでしょう?後どれくらい残ってるんですか?」


「銀貨1枚とと銅貨5枚…」


「私の今の所持金より低いですよ…」


そう言ったコンラットは、少し信じられないような顔をしていた。コンラットはコツコツとお金を貯めるタイプだから、一月のお小遣いの量が僕達より少し少なくとも、バルドよりも所持金は多いようだった。


「それにしても、仮に侯爵家の人間が金がないなんて大声で言うなよ…」


「侯爵でも俺が使える金なんて殆どないからな!現に、貰っている小遣いだって、今着てる服よりも少ないんだぞ!!」


「それでも、一般人よりは多いですからね」


「まぁ…そうなんだけどよ…」


「下町の連中に言ったら、ただの嫌味だぞ」


「俺だって、流石に彼奴等にそれは言ってないって!」


僕もバルドと同じ様に、街中で使いやすいように銀貨で金貨一枚分のお小遣いを僕も貰っていた。だけど、貴族街に行けばそんなお金で買える物なんて殆どない。王都以外にも行く事が多いため、普通の金銭感覚を養うための金額らしいけれど、父様達もあまりに少ないその金額に驚いていた。でも、僕はバルド達と出掛けた時くらいしか自分でお金を払った事なんて殆どないから、お金がない事に悩んだ事なんてない。


貴族の中でも、上位貴族に分類されている侯爵にしては少な過ぎる事を分かっているからなのか、ネアが少し同情が滲んだような目で冗談めかしにバルドへと声を掛ける。


「そんなに金が欲しいなら、何か仕事でも紹介してやろうか?」


「本当か!?」


「冗談を真に受けるなよ…」


「それを貴方が言いますか…?」


即座に反応したバルドに、ネアは少し引き気味に返事を返す。だけど、さっきルイの言葉を真に受けて混乱した姿を見せていただけに、コンラットも似たような視線をネアへと向けていた。だけど、そんな昔の事は忘れたとでも言うようなしれっとした顔で受け流すと、バルドへと忠告でもするような真面目な態度を見せる。


「そもそも、課題放りだして下働きみたいな事をしてたら、その結果がどうなるかくらいは想像出来るだろう?」


「うぅ…っ…」


ネアに言われて、その結果を想像してしまったようだけれど、そんな事をしているとラザリア様にもし知られたら、今よりも課題が増やされるだろう事は僕にも簡単に想像が付いた。


「それど、平民に混じって働くのは苦じゃないのか?」


「いや、全然?」


ネアが値踏みするような視線で尋ねれば、何故そんな事を聞かせたのか分からないような顔でバルドが答える。そんなバルドの様子を見たネアは、途端に気が抜けたような顔で何処か脱力していた。


「まぁ、帰り道に買い食いしてる時点で、そんなものないか…」


「だけど、何でそんな事聞くんだ?」


「いや、たまに無駄にプライドだけ高い客とかがいるから、そいつ等の相手が出来るのかと思って聞いただけだ」


「わるい…それは自信ない…」


ネアから言われた一言で途端に自身をなくしたような声を出すバルドに、何とも眠たげな声が飛ぶ。


「進んで働きたいにゃんて、物好きにゃ奴にゃ。何か欲しいにゃら、ルイみたいに貢がせれば良いのにゃ」


「そうだな。言ってくれれば俺が何でも持って来る。だから、何か欲しい物があったら、あっちじゃなく俺に言ってくれ」


まるで対抗心で燃やしているように言うネアを前に、僕はどっちの味方をすれば良いのか迷う。ネアも何かと理由を付けて色々と持って来るけれど、兄様も何かと用意するから、屋敷のいたる所で猫用のおもちゃを見るようになった。だけど、ルイが興味を示す物なんて食べ物や寝床ばかりで、その殆んどが屋敷の置物と同じように飾られたまま終わっている。


「アンタねぇ、そんなに動かずに食べ続けてると太るわよ!」


「ルイは太っても可愛いからそれで良いのにゃ。それに、太るのはルイじゃなくて女王の方にゃ」


「はぁっ!?この私が太るわけないでしょ!失礼な事言わないでよ!!」


「いや…どっちもどっちだろ…」


僕の屋敷にやって来てからも、2人とも寝るか食べるかしていない。ティは母様の仲が良いから、一緒に庭の散歩をしていたりもするけれど、夕飯の席でも何か食べているから、消費する量の方が少ない。だけど、そのおかげで屋敷の人達とはすっかり打ち解けて、今では屋敷の一員のような感じになっている。まぁ、父様はその事で肩身が狭そうにいる事もあるけれど、なるべくさらりと流すようにしているようだった。


兄様の方は、ティよりもルイの存在が気になって仕方がないようで、仕事の合間に色々と商人達から仕入れているようだった。本にはなるべく隠していたいようだけれど、視線はルイに釘付けで、暇さえあればネアに負けないようルイの気を引く贈り物について考えていた。そして、ネアの方もルイ何に興味を持つのかと、起きたばかりのルイの様子を観察を食い入るように見つめていた。


「ずっと使って貰えるような物を上げたいが、何が良いだろうか…。丸い物とかなら興味を持って貰えるが、どうしてもおやつには負けるからな…」


「それなら、ボールの中におやつでも入れたら良いんじゃないか?」


ネアの意識がルイへと完全に移ってしまったため、暇になったバルドが思い付きで言ったような言葉に、ネアの目がキラリと光った。


「それ良いな。素材は何にすれば良いだろうか…」


バルドが何気なく言ったアイディアが余程ネアの琴線に触れたようで、こっちの事など忘れたかのように、早速ルイが怪我をしないような素材を考えているようだった。


「今回の礼に、今度金に困ったら仕事くらいは紹介してやる」


「えっ!?おぅ!!」


さっきから真剣な顔でぶつぶつと呟いていたネアがバルドへと声を掛ければ、バルドは驚きながらもそれに弾かれたような元気な返事をしていた。だけど、そんな賑やかになりつつある空気の中に、やけに冷たい声が響く。


「さっきから話してばかりで手が進まないなら、私はもう教えなくても良いですよね…?」


僕はなるべく手を止めずにいたから、もう少しで白い部分は埋まるけれど、バルドの前で開かれたままの紙は白い部分が多かった。


「待ててって!今!今からやるから!!」


途中から聞き役に徹していたおかげで僕は難は逃れたけれど、目の前の事から片付けるのは大事な事だなと、慌てて遅れを取り戻そうとしているバルドを見て思った。

お読み下さりありがとうございます

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